第三話 ~ 虚構の空 ~
第三話 ~ 虚構の空 ~
北極海上空、闇夜に浮かぶ影がある。影はゆっくりと空中を泳いでいた。その影は、空を舞うにはいささか無骨で、兵器と呼ぶにはいささか美しすぎる外観をしていた。
無音飛行、人類が空を飛ぶのに、もはやエンジンなどと言う無粋なものは不要となった。
重力子を量子演算の元で操作し、重力場を制御することで飛行を可能としているのだった。
そして、その船体には、紅く煌めく文字でこう書かれていた。
――
船内は予想以上に静かだ。エンジンを用いていないのだから、当たり前と言われればそれまでなのだろうが、それでも驚くほど静寂に満ちていた。
ある一室、司令室のような部屋に少女はいた。軍服こそ着ているものの、その横顔にはまだ幼さを残している。
紅みがかった黒の髪は、どんな意図があるのか、一房だけ灰色になっていた。立てられた写真を見つめ、何かを思い起こすように、哀しみを帯びた笑みを浮かべる。
だが、扉のノック音が聞こえた途端、少女の表情は歴戦の将兵のそれに変わった。眼光に、無理矢理厳格さを宿す。
「
扉越しに声を聞き、少女は無言で司令室の扉を開ける。開いた扉の向こうには、少女とは違って軍服を着崩した青年が立っていた。染められた金髪とお茶らけた雰囲気は、やはり軍人らしからぬものだ。だが、青年には兄のような親しみやすさと温かさを感じる。
それがあってなのか、青年の顔を見た少女の顔から、心なしか緊張感が薄れる。
「
「そっちこそ、
こんなやりとりをもう何回やったのかは覚えていない。いつもはどちらも譲らず、そのまま話題を逸らす。だが、今日は違った。
「分かりました。では、
「敬語も要らないんだけどな。俺の方が年上とはいえ、階級は下なんだし」
「それで、打電と言うのは?」
「ああ、これだ」
「これは......」
「バカげているよな? これだけの小規模部隊にやらせることかよ......」
「
「りょーかい」
「
まるで真剣を抜刀したかのような澄んだ音が響く。ドアから入ってきたのは、随分と幼い少女、外見からすると10才程の女の子だった。髪と眼は返り血でも浴びたように鮮やかな紅色、肌は透き通るような白さだ。この少女とすれ違えば、誰でも二度見してしまうくらい端麗な容姿をしている。
だが、その口調は随分と尊大で、とても隊長と呼ばれていた
しかし、
「イヴ、あまりそう言う言い方をするな」
「お前には言われたくないがな、
ピクリと肩を震わせた
誰も知らないところで、世界は徐々に動き始めている。イヴからそんな風に言われた気がして、
パァン―――
耳をつんざく音が静まり返った校舎に木霊する。
後悔はなかった―――いや、一つだけ、彼女の笑顔を見れなかった事は後悔だろうか。
そんな事を考えていた
「なん......で......?」
何かを察知した
「
痛みと目の前の光景に呆気にとられていた
「
「良かった、無事だったんだな」
ほっとした表情を見せる
「
「ごめん、説明は出来ない。まだ、許可されてないから」
「けど、アンリもいる。とりあえず、お前の味方だ」
困惑した様子の
「その子をどうするつもりだ?!」
「お前は、どこまで知っている?」
「......詳しいことは知らされていない」
「なら、追いかけるな」
「っ、まて!」
ボフ、と音を立てて白煙が立ち込める。
「くそ、こんな古典的な手で逃げられるなんて!」
悔しがる
暗い一室のモニターの前に男達はいた。
一人は軍服の上でも分かるほど体格がよく、白衣を着たもう一人の男は見るからに不健康そうな細さだ。
「逃げられましたな」
軍服の男が言う。
「なぁに、今欲しいデータは取れましたよ」
白衣の男が喉の奥でくつくつと嗤う。
モニターに映るのは赤く染まった部屋。それを白衣の男は楽しそうに眺めていた。
悪趣味だ、と言いたげな表情を隠しもせず、軍服の男は椅子に腰掛けた。
「それで、いつ頃になりそうですかね?それの完成は」
「もうすぐ......恐らく、今年中には」
白衣の男は押さえられないと言った感じで表情を歪ませた。それを見て軍服の男がつまらなそうにモニターへと視線を移した。
モニターには気力の抜けた少年の顔が画面一杯に写し出されていた。
気が付くと、家にいた。自分のベッドで横になっているようだった。痛むところはない。どうやら精神的なショックで気絶していたようだ。
「まあ、あんな事が起きればなぁ」
気絶する前のことを思い出し、少し落ち込む。
「
目を開けていた
「
「あいつは仮眠中だ、二日間ずっとお前についていたからな。まあ、代わって正解だったようだ」
二日という日数にも驚いたが、それ以上に透の言い回しに瑞希は引っ掛かった。
「アンリがいなくて良かったって、どういうこと?」
「この前言ったよな? お前には説明できないと。だが、そうも言ってられないと、俺は思う」
いつになく真面目な
「俺は......俺達は軍の人間、つまり、軍人だ。理由は話せないが、お前を保護することが目的だ」
「ち、ちょっと待って! 俺の保護? 軍人って、理由は話せないって、それじゃ何も分かんないじゃないか!」
「分かった、怒鳴って悪かったよ。立場とかもあるんだよね」
「悪い......」
隠し事をしているけれど、
「外、出よう」
「な、なんだ!?」
いつまで経っても収まらない揺れ。不振に思った
「見るな、
「なん......だよ、あれ」
空が壊れ、まるで空間を切り裂いたかの様にぽっかりと空いた隙間から、気味の悪い光を放つ生命体が押し寄せてくる。
完全に脳の許容範囲を越えて、固まってしまった
「アレス......」
壊れていく偽物の空は、
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