第10話 時空の歪み


 オレが茜に言われた方角に向かっていると程なくして空に向かって伸びる塔…いやオブジェ的な構造物が見えて来た。

銀色に輝く四角錘しかくすい…それに近付くにつれ人影も見える…あの角ばったフォルムはイエポンだな。

でも何か違和感を感じる。

しかしすぐ側まで着てその違和感の正体に気付いた。

何とイエポンの身体が大きくなっているのだ。

身の丈はオレより大きく、ざっと3mはあるだろうか。


「お前…随分身体が大きくなったな!どうなっているんだ?」


オレは驚きの表情でイエポンを見上げながら訪ねた。


『これは九十九サン…こんにちは、お久し振りデスね』


あれ…イエポンの奴…話し方が少し流暢になっていないか?


『この身体ハ自分で改造したのですヨ…材料の採掘中にイロイロれあナ素材が見つかったのデ…』


イエポンが言うには建設資材を調達するために地面を掘り進めた所、

燃料になる液体ととても希少なレアメタルが採れたとの事。

小さい身体で建設工事の効率が悪いと考えたイエポンは自分自身の身体を大型化する事を思い付き、デザインはそのままにアップスケーリングをしたと言うのだ。


『お蔭でこの10日間でカナリの建築物が完成しまシタ』


確かにオレが『精霊界』に戻ってからやけに建物が増えた気がしていたが気のせいでは無かったようだ。

改めて辺りを見回す…何故か建物はいくつかのエリアに別けて立てられている感じがした。

おまけにそのエリアごとに中心付近にあの謎の塔のオブジェがそびえ立っているのだ…果たしてこれに意味はあるのか?

するとイエポンがオレの疑問を察したかのように説明を始めた。


『各集落はそれぞれにコンセプトを持たせて建物の方向性を統一しているのデス…

そうする事で様々な異世界との接触を試みているのでデス…

アノ高い建造物は異世界と精霊界を繋ぐ言わばアンテナデスね』


よく見るとある集落はテントだけで統一され、又ある集落は現代風の建築物、西洋風の石造りの街並み、更にあるエリアは日本家屋とちょっとしたお城まである城下町など…

そして極め付けはアニメでしか見た事が無い様な未来的な建造物の集落だ。

前衛芸術的な独特なデザインのビル群に透明なチューブが張り巡らされている。

ここまでくると集落とは呼ばず、未来都市と呼ぶべきか…。

改めて言っておくがこれらの街並みは相変わらずミニチュアサイズだと言う事を付け加えておく。


「ところでこのアンテナのアイデアは誰の発案なんだ?」


『…チャイムですよ…彼女は九十九サンが次に来た時に驚かせてやろうと画策していましたカラ』


「あ~何かあいつなら言いそうだな…」


『実はワタシが知っている限りでも精霊界は過去に何度か人間界以外の別世界と繋がった事があるのデスよ』


「何だって!?」


イエポンはサラッと言い放ったがそれは初耳だ。

いや…でもそこまで驚く事でもないのか…世界が人間界と精霊界の二つしか無いと考えるのは逆に不自然だ。

他にもいくつもの世界が有っても何ら不思議はないのだから。


『タダ…別世界がいつ、どこで繋がるかは全く予測できないのデス…』


「…なるほど…それでこのアンテナの出番って訳だ」


これが本当に上手くいくのかは分からない…。

しかし何かの切っ掛けで世界が変革する事はある…。

実際、この精霊界に人間界の知識や技術を持ち込んだ途端に無かったはずの時間の経過が始まったのは経験済みだ。

オレは心の中でこの試みが成功して欲しいと願いながら、天に向かってそびえ立つアンテナを見上げながら無意識に手を触れていた。


「わわっ!?何だ!?」


するとどうした事だろう…オレがアンテナの支柱に触れた途端、構造物全体が小刻みに振動し眩く輝き出した。

慌ててそこから少し離れてしばらくその光景を見守る。

どうやら倒壊の恐れはない様だが…いや、待て!


「あれは何だ?」


アンテナの先端に極彩色に輝く光の球が現れ、徐々に大きくなっていく。

そしてそれは直径五メートル程になるとそこで成長を止めた。


『解析ヲ開始します…』


電子音を鳴らしながらイエポンのカメラアイが目まぐるしく点滅する…あの光の球を分析しているのだ。

その様子をオレは不安半分、期待半分で見守る。

これはまさか…いや、きっと…オレの予想が当たっているのならこれは…。


『この光球は時空の歪みと判明シマシタ…恐らくドコカ別の空間か別の世界ニ繋がっている可能性が極めて高いと思ワレマス…』


「よしっ…!!」


オレは思わず小さくガッツポーズを取った。

予想が当たると言うのは実に気分がいい。

しかもこれはあやめちゃん救出作戦においてとても大きな一歩になるだろう。


『…シカシ何故突然アンテナが作動したのでしょうカ…これの完成後から九十九サンが戻って来るまでニは一度も作動した事が無いノニ…』


「…そうなのか?」


普通に考えてやはりオレがアンテナに触れたのが切っ掛けなのは間違いないだろうが、直接の原因は分からないままだ…もしかしてオレに何か特殊な力があるのか?

本人にはまったくその様な自覚は無いんだがな…。

まあ分からない事を考えるだけ時間の無駄…今はこの時空の歪みとやらをどうするか考えないと…。


「なあイエポン…この中に入って大丈夫だと思うか…?」


『ソレハ私には何とも言えません…ただ、初めての事象デスので慎重に事を進めた方が良いカト…』


「…そうか、そうだな」


すぐにでもあの光の球に飛び込んでその先を確認したいという気持ちが無いと言えば嘘になる…しかしこんな怪しげな現象、何のリスクも無いなんて正直思えない。

ここはイエポンの提案通り慎重策に出た方が良いだろう。


「一度出直そう…みんなの所へ戻ろうかイエポン」


『了解しまシタ』


ここで二人で考えていてもいい考えが浮かぶとは思えなかったし、独断専行してオレとイエポンに何かあったらそれこそあやめちゃん救出作戦が頓挫してしまう。

ここはみんなの知恵を借りて今後の方針を決めた方が間違いがない。

特にチャイムの意見を聞いてみたい所だが、彼女たちフィギュアライズは随分と体力を消耗している…ここはまず彼らを回復させる事に全力を注ぐ方が得策だろう。

要は『急いては事を仕損じる』、『急がば回れ』だ。

それにこのままじゃあいつらを危機に晒してしまったオレの気持ちが収まらないからな…。

オレとイエポンは連れ立ってみんなが集まっているいつもの花畑に歩みを進めた。

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