第19話
「心が、凄く動いて……あは。こんな事、初めてで。なんだかいっぱい、泣いてしまいました」
「今日だけで、もう何回も泣いてるもんね」
「はい……もぉ、彩子さんのせいですよっ」
安奈ちゃんはクッションを手に持ち、それで私をポコポコと叩いてきた。
私はそれを受け、わざとらしく頭を抑えながら、安奈ちゃんの膝に倒れこむ。
「痛い痛いやめてぇ」
「彩子さんは……本当にお姉さんでした」
安奈ちゃんはクッションを置き、膝で寝転がる私の頭に、手をのせる。
やはり気になるのか、怪我をしている所の髪の毛を、ゆっくりと優しくかき分けた。
その手が、凄く心地が良い。気持ちいい。
触られた感触もそうだが、触られて感じる傷の痛痒さも、なんだか……。
「彼氏さんと、別れたばっかりだって言うのに……こんな私に、優しくしてくれて」
「ん? ふふ……いいんだよ、すぐに彼女が出来たからー」
私がそう言うと、私の頭をなでていた、安奈ちゃんの手が止まる。
「……彼女……?」
「ん? 安奈ちゃん」
私は安奈ちゃんの顔を見て、ニコッと笑った。
そしていやらしく、安奈ちゃんの膝を、スリスリと撫でる。
「……あは」
安奈ちゃんは、困惑した表情を作り、笑った。
「嬉しいです……でも私」
「もぉ、冗談だよ」
私は起き上がり、安奈ちゃんの頭をなでた。
「さてと、私もお風呂はいってこよーっと」
私はそう言いながら立ち上がり、下着や部屋着であるジャージを取り出す。
「漫画の本とか、テレビとか、好きに使ってね」
「あの……私」
「それじゃ、ごゆっくり」
「私……」
私はいそいそと部屋を出て、ドタドタと階段を駆け下りた。
「彩子うるさーい」
リビングから母親の怪訝そうな声が聞こえてくるが、そんな事には気にもとめず、私は急いで脱衣所に入り、鍵を閉めた。
ドクドクと、心臓が高鳴っているのが、分かる。
「はぁ……」
私は脱衣所の扉に背中をつけ、左胸を抑えて息を整えた。
あぁ……ドキドキした。今までで一番、ドキドキした。
過去に二度ほど異性へと告白した事があったが、私は今まで勝算の高い……いや、ほぼ勝ちが決まっている告白しか、した事が無かった。
今回は、同性……しかも相手はこの町に長居をするつもりのなかった人。勝算は無い。
それに私自身、安奈ちゃんに向けている感情が愛情なのか友情なのか、正直わかっていないのに、その場のノリで、なんて軽はずみな事を言ってしまったのだろうと、少し後悔する。
出会って数時間、まさかここまで、心を持っていかれるとは、思っても見なかった。これじゃあ、そのまんま海外の映画じゃないか。窮地を脱した見ず知らずの男女が、何故か恋に落ちているという、安っぽいストーリー。
しかも、私達の場合、女女だ。
「……なぁにやってんだろ」
私は小さく笑い、高鳴る鼓動のせいか、いそいそと服を脱ぎ始める。
私はお風呂場に入り、自分の体を鏡で見る。
安奈ちゃんに比べ、なんと貧相な体だろうか。肋骨がクッキリと影を作っている。
足も細く、まるで木の枝。お尻もほとんど膨らんでいない。
ふくらみと言えば、胸だ。私にはほとんど胸が無い。アンダー65トップ75でブカブカという、脅威のスレンダーボデー。これより小さいのは、ジュニアサイズしかない。私のオチチはティーンズサイズですらなく、ジュニアだ。
仕方がないので私はいつもスポーツブラをつけている。これも母親譲りだ。
「はぁ……なにこれかっこわりぃ」
身長も百四十七センチしかなく、これでは安奈ちゃんに「お姉さん」と名乗っても伝わらないはずだ。
「はぁ」
私は再びため息を漏らし、肩まで伸びている髪の毛をシャワーで濡らした。
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