奴隷の少女の場合
世界はいつだって理不尽だ。
私が生まれた村は決して裕福ではなかった。税は重かったし領主も傲慢だった。
それでも、村全体が元気なら救いようもあっただろう。協力すれば、幸せに暮らせたかもしれない。
でも現実はそううまくいかなくて。
そもそも、親子ですらうまくいかなかった。父は酒ばっかり飲んでいたし、母は外で遊んでいた。私を世話してくれる人なんていなかったから、5歳の時に家を抜け出した。
村全体は、まるで伝染病でもう末期かのように暗かった。歩く人には生気がなく、体汚れている私を見ても助けてくれる人なんていなかった。
そんな村を出て、足裏が砂や草や石で図たぼろになりながら、近くにある川でしばらく過ごした。飢えと渇きは川魚と川の水で頑張ってしのいだ。家にいるころよりもしっかりとものを食べていた気さえする。
流れる時間の感覚がくるわないように木に印をつけ、3年が過ぎたころ。村の様子が気になり、見に行った。村が滅んでも関係はなかったが、あの死者の町はいまだにあるのか、ただの興味本位だった。
来た道を戻り、草むらから顔だけ出してこっそりと見に行くだけだった。
結果からいえば、行くのは失敗だった。
私が見に行った先で見たのは盗賊だった。といっても、ただ物を盗んでいるだけではないようで、村人を捕まえているようだった。奴隷にでもして売るのだとすぐに分かった。
もちろん、すぐ逃げようとしたが、いつの間にいたのか、すぐ後ろに盗賊の仲間がいた。眼帯をして、口ひげをはやしたおっさんだった。
8歳の私では抵抗しても無駄だとわかっていたけど、軽々と持ち上げられてからも暴れようとした。しかし、そうする前に首に手刀を入れられてすぐに無力化された。
そうして起きてみれば、周りが石の壁で、目の前に鉄格子のある部屋だった。壁際には布が敷いてあり、その時の私は汚れた布が私にここで寝ろ、と言っているとさえ思えるほど気が動転していた。
やはり奴隷にされたのだろう、と思った。そこには予想通りという安心感とこれからどうなるのだろう、という不安感で頭がおかしくなりそうだった。
死にたくない死にたくない、と何度も何度も思いながら、牢屋の中で過ごした。1日1回渡される固いパンをもらって、自分の時間の感覚だけは正確にしていた。
そうやって、720日目の固いパンを食べながら、汚れた布の上で過ごしていると、今までびくともしなかった鉄格子からガチャンと音がした。
音のほうに目を向ければ鉄格子が開いていて、そこから貴族のような服を着た男の人が来た。
あぁ、私はついに買われたのか、と10歳ながらに理解した。そして、これから奴隷としてこの布のようにボロボロに扱われるのだと。
あぁ、
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