第27話 愚者は愚か故に愚者である


 

 バリケードを退け、外に出る。

 一昨日、駆除したばかりだというのに――一階はゾンビで溢れかえっていた。

 いったいどこから湧いてくるのだろうか。

 結構な数を挽肉すら生易しい、塵に返したわけだが……それでもこれだけの数がいるのか。


「――チッ。邪魔なんだよオ」


 槍を束ね、発射。

 目に見える範囲のゾンビを瞬時に駆逐していく。

 見ているだけで目障りだ。

 手早く経験値に変えてしまおう。

 上の連中が降りて来ても面倒なことになる。


「外にゃあ出たくねぇな。いつドラゴンが来るか、わかったもんじゃない」


 しかし、槍がどんどん強化されていく。

 本数こそ5本のまま増えないが、影響を及ぼす青い光は範囲を広げているし、槍自体の強度も上がっている。射出する際の威力も上がっている。


 正直、今ヒーローがいれば――ドラゴンを倒せる。その確信がある。……すでにヒーローはいないのだ。いまさら言っても詮無きことでしかない。


「あ! 誰か居る! 誰か居るよ!」


 階段から複数の声が聞こえてくる。


(しまった……)


 ……考え事に夢中で気付かれちまった。

 面倒な……。


「そこにいるのは誰だ!」


 誰かは知らないが、鬱陶しい奴が来たのは間違いなさそうだ。


「さぁ、誰だろうな。お前に教えてやる義理はないぜ?」

「なんだその態度は!? ――うん? お前、見覚えあるぜ! 落ちこぼれの 数葉じゃねぇか! なんでてめぇが生きてる? てめぇはヒーローの馬鹿と一緒に死んだはずだろ? あぁゾンビか、おめぇら、こいつを殺せ!」

「なんすか? そいつを殺しゃあいいんすか?」

「面倒だわぁ。とっとと死んでくれ」


 おぉゾロゾロと雑魚ばかり出てきてどうすんだ? えぇと……おいおい、雑魚10人が鉄パイプもったところで勝てるわけねぇだろ? 正気か?

 こいつら、人がゾンビを殺し回ったの見てなかったのか?


「あぁ、おめぇが誰かしんねぇけど――――俺と敵対する、ってことでいいんだよな?」

「当たりめぇだろう? てめぇみたいな落ちこぼれを助けてやるほど余裕はねぇんだ。ま、おとなしく死んでくれや」


 ニタニタと笑いながら周囲を、俺を囲むようにしてぐるりと広がる。……こいつらは馬鹿なのだろうか? いや、もしかしたら人ですらないのかもしれない。

 確かに、俺がゾンビを駆逐したからここにゃあいねぇ。だが、いつゾンビがくるかもわかんねぇのに1人を集団リンチしようって――――頭にお花畑咲いてても無理だろ。


 振り下ろされる鉄パイプを眺めながら思う。

 俺の傍で浮遊している槍が気にならなかったのだろうか?


「――――いぎぃああああ?」


 振るわれた鉄パイプが俺に到達する前に、槍が自動迎撃する。鉄パイプを貫き、リーダー格の男に突き刺さる――いや、貫通した。

 腹にでっけぇ穴空けてやがる。こりゃあたすからねぇなぁ。


「ひっ」

「あー、怯えてるとこわりぃんだけど……おとなしく死んでくれや」

「ひあああああああ――――」

「こ、こない――――」

「お、俺たちがなにを――――」


 逃げようとしたり、刃向かって来ようとした奴らを1人残さず槍で貫いた。



「蛇は何してるんだ?」


 あいつはこんな雑魚どもを放置したりしないだろう。むしろ率先して殺す。流石に自分で手は出さないだろうが、確実に殺してはいた。


「ふむ。ちょうどいい、ちょっくら上るか」


 本来なら行く気はなかったのだが、蛇が管理しているわりには雑だ。昨日の連中もそうだったし。まあ上ればわかるだろう。






「――――――なんだ、これは……」


 2階に入って、俺は目を見開き震えた。

 饐えた食べ物、いや獣のような臭い、吐き気を催すむわっとした空気。部屋中に響く嬌声。おぞましい光景だ。……これは、想定していなかった。


 ありえない。これは蛇ではありえない。

 奴の本質は支配と管理だ。

 言ってしまえば、集団をより良い方向へと導いてくれる指導者だ。

 ヒーローが皆を率いる先導者なら、蛇は集団を管理する指導者。


 だからこそ、これはありえない。


 ――――部屋のそこら中で、男は女を犯し、女は泣きながら奉仕している。


 これでは地獄――壊れた世界、狂った世界だ。

 蛇の本質からはもっとも遠く離れている。


「おいおい、誰だてめぇ? ここは俺の楽園だぜ? 勝手に入ってくるンジャネェヨ!」


 困惑している俺に、パンツ一枚の半裸男が話しかけてきた。

 

「――――蛇は、いないのか?」

「蛇ぃ? ああ居たなァそんなクズ。邪魔だったからゾンビの餌にしてヤッタヨ」

「そうか……あぁ、一つだけ聞かせてくれねぇか?」

「あン? いいぜェ、俺は優しいからヨォ殺しチマウ前に一つだけ聞いてヤル」

「ここにいる男はすべてお前に賛同したのか? いんヤァ? 否定してくれやがったアホどもは、目の前でそいつの女を犯して一階に捨てタヨ。あぁ数人はァ、食料取ってきたら助けてヤルって言ったなァ」


 あぁ、昨日の連中はそういうことか……。

 弱者はいつだって哀れなものだナァ。


「なに笑ってンダ?」

「そうかい? 今の俺は笑ってるのかァ――――」


 背中に槍を展開していく。

 元々は普通の奴らだって居たかも知れない。だが、一度変質してしまったモノは二度と元に戻らない。

 楽にしてやったほうがそいつらのためだろうなぁ……。


「なにして――――」

「死ね。てめぇらに慈悲なんてねぇよ。ただただ後悔して死んでけやぁぁあああ」


 青き光の本流。

 すべてを浄化する神の光が如く、この場に存在する不浄な存在を消滅させていく。この場で変わっちまった男どもを生かしてやる意味はない。



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ゾンビVSファンタジー くると @kurut

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