第26話 力をもった者の義務
「――……ろ!」
「――――だ……か、い……」
「――あ……り……な……」
階段から漏れ聞こえてくる声に、目が覚めてしまう。……だれだ? 俺の眠りを妨げる馬鹿は……。
「……ぁふ」
軽く欠伸をかみ殺し、立ち上がり体を伸ばしていく。焦った声、切羽詰った声、断末魔の声、悲鳴、様々な声が聴こえてくる。
しかし、だからといって俺に関係あるだろうか? ぶっちゃけない。たぶん、上の連中なんだろうが、助けてやるつもりはないし、食料を恵んでやる気もない。おとなしくゾンビの仲間入りでもしてればいい。
「くそ! 誰だ勝手な真似をしたの!」
「うわあああああああ来た来たって!!」
「駄目だ! 内側から何かで塞いでいるんだ! 何か強い力で吹き飛ばすか、中から開けてもらわないと……――がぁぁあああ」
「中山!? おいっしっかりしろって! 佐野さんを1人にするつもりかよっ。こんなとこで死んでもいいのかよ……」
「ごふっ……ごめ、んね。愛…梨、に……あや………」
「中山っ、中山の馬鹿やろう!! 生きて、生きようって、皆でそう決めたじゃねぇか……っ!!」
う、うるせぇ。
外でなんかドラマが起きてるんだけど。余計に瓦礫を退ける気がなくなった。この手のアホは、自分のミスをこっちのせいにしやがるから手に負えない。
どうせ助けても「なんでもっと早く来てくれなかった! そうすりゃあいつは死ななかった!」だとか「力があるなら皆を守ってよ!」なんて狂った暴論を吐いてくれる。
経験則だが間違いない。実際、ヒーローにそれを強要していた。奴ほどのカリスマがあって、ようやく成り立つんだ。あいつの足元にも及ばないってか嫌われてる俺が同じことをやった場合――一般兵どもの奴隷扱いされるのか精々だ。
そうまでして守ってやる気はない。
元から守ってやる気がないのだ。そこきてどんどんやる気が減っていく。まぁ、俺が奴らを助けることは二度とないだろう。
前回、ドラゴンに襲われた時に防衛戦やったのはヒーローと蛇が居たからだ。生き延び居るのに必要な奴らだった。だから体を張ったのだ。一般兵を守ってやるつもりなんざ、端からない。
「外は大変だねぇ」
暢気に携帯食のスティックを齧る。あ、意外と美味い。少なくとも乾パンタイプよりは全然ましだ。
断続して聴こえてくる悲鳴を肴に朝食を終える。もう聴こえてきた声は最初の半分もいない。しばらくしないうちに全滅するか撤退するだろう。
「カリスマと最強戦力を失った哀れな奴ら――――この世界で生きていくにゃあ弱すぎる」
せめて、蛇やヒーローと同レベルの精神性は欲しい。でなければ、ただ導かれるだけの家畜でしかない。指示してくれる者が居なければ何もできない家畜。
それも指導者が死ねば動けなくなるだけの、な。
現状は、蛇がいるから辛うじて全滅してないってところだろう。蛇が死ねば、たぶん内部崩壊して半日ともたない。
蛇なら助けても仲間にする価値があるが……あいつは愚かな家畜――民衆を見捨てはしないだろう。
奴自身の目的もあるだろうが、それよりも自分と同種が化物に食われていくのを見ていることはできないだろう。困ったことに、蛇もヒーローと同じで支配者気質なのだ。そこに助けを求める者が居れば、助けてしまう。例え、そいつが足手纏いとわかっていても。
――俺はそれを許容できない。
別に、愚かな民衆は死に絶えろとか言わないし、そこまで思ってない。ただ、俺が助けてやる気はないってだけ。ついでに言えば、身内が雑魚を取り込むのも許容できない。確実に足手纏いになるから。
一つのミスで死にかねない――この幻想世界で、雑魚を育てる余裕もない。せめて、生存できる設備があればよかったのだが……すでに鳥籠は壊された。ドラゴンの襲撃は予想してはいたが、早過ぎた。せめて、あと少しだけでもヒーローが育っていれば勝てた戦いだった。あるいは、ヒーローが少数を切り捨てられれば……いまさら言っても無駄なことか。
「――――聴こえなくなったな」
外に出て確認するつもりはない。何度もこじ開けられようとして、少しだけ緩んでしまったバリケードを補強するだけだ。
流石の俺も――どこぞの達人みたく、寝ている時に襲われても平気! ってわけじゃない。つか死ぬ。起きれないぜ? 起きたって寝起きの体でどこまで戦えるか……わかったもんじゃない。
「これからどうすっかなぁ」
謎の輩が人を助け導いて欲しいとか言ってたけど、もちろんやるつもりはない。
なんか欲しくもない力を勝手に押し付けて『君なら助けてくれるだろう』みたいな頭に虫でも湧いてるんじゃねーの? と言いたくなるほど強引に押し付けてきたからな。まぁ、当然ながらやらない。
そもそも奴の力使わなくても勝てたから。
完全にいらない押し売り。それどころか人の決闘邪魔してくれやがって……こちとら悪感情しか覚えてないぞ。
ぶっちゃけ、槍を投げ返してきた時に「あ、やっべ」とは思ったが、2,3個ほど罠を仕掛けていた。
元からの動体視力でも見えていた。
いくらでも対処のしようはあったのだ。……いや、まさか投げ返してくるなんて思わなくて対応が一歩遅れただけだから。まぁ、内心腸が煮えくり返っている。なのに奴の言うことなんざ聞くと思うか? やるわけがない。
「当分は、食料にも水にも困らない。地下だからドラゴンの心配もいらないだろう。上の連中? 知らんよ、勝手に死ねばいいさ」
時折外に出て、力の強化を図れば良い。それに、ヒーローを倒してしまったから新たな力ってのも手に入っているだろう。……全力でいらないが。捨てる方法はわからない。ならば隠しておくしかない。
まぁ、その辺は力が目覚めてから考えることにしよう。
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