第25話 とりあえずは食糧確保が優先
「……ちっ。来んのが早ぇな」
どうがら、感傷に浸らせてはくれないらしい。そこら中からゾンビが出てくる。いったい、どこにこれだけの数が隠れていたのか……半ば呆れるな。
「まいいや、最初の目的を果たしちまうか」
ゾンビの存在を無視して歩き出す。槍を2本展開して傍に控えさせる。迎撃用だ。これで十分に間に合うだろう。そもそもゾンビが同時に攻めてくるって言っても、実際には歩調が合ってるわけでもないのだ。数匹ずつ撃退できるのならば、大した危険でもない。
(ドラゴンとヒーローゾンビを相手にしたばかりだぜ? この程度の雑魚に負けるわけねぇだろ)
心の中で呟く。ゾンビが経験値に見えて仕方ない。ヒーローと違って鈍間な雑魚だし。楽に強くなれるから有難くはある。あるが……一々この数を相手にするつもりはない。流石に疲れるし、途中でガス欠を起こしてしまう。
いくら強くなってきたと言っても限度はあるし、肉体的には動体視力だけ。それもヒーロー倒してからなんか精度が悪い。メッセンジャーとやらを介して喋ったあいつのところへと、力が還っていったのだろう。もとより使うつもりはなかったし、なくなってくれたのは純粋に嬉しい。……強制的に発動していたのが癪に障る、あんなものがなくてもヒーローには勝てた。勝負に水を差されたのだ、腹がたってしかたない。
体育館に大きく空いた穴に向かって暢気に歩いていく、近づいてくるゾンビは槍で串刺しになるか、光で消滅している。まさしく、歩いているだけ経験値が入ってくる最高の状態だ。
「……おぅ、こりゃあ酷ぇなぁ」
穴から入った俺の視界に広がったのは――俺が守った時よりも、血肉が散乱し争った跡がある。これは予想だが、唐突に食料がなくなり、水がなくなり、その事に耐えられなくなった誰かが無理やり降りてきたか、あるいは蛇が焦って下に来たか……どっちにしろ、かなりの数が殺されたんだろう。
「こりゃあ、先越されたかぁ?」
地下へと続いている戦闘痕見てため息を吐き出す。
まぁ、全部の食料をもっていくことは、物理的に不可能だろう。それもゾンビと争いながらってなればろくに選んでる時間もなかったはず。
多少は期待してもいいだろう。
そんなことを考えながら地下へと降りていく。うじゃうじゃと湧いてくるゾンビはすべて槍任せだ。それでなんとかなってるし、態々変える意味はない。……それに、使い捨てにして射出するよりもこっちの形態の方が多く潰せる。というか槍が長くもつ。使い捨てで射出すれば1発でなくなるからな、全然こっちの方がいい。
「――おお、あるな」
ずらりと棚に並んだ保存食、携帯食の数々。ペットボトルに入った水がぶち撒けられているのは、ゾンビに襲われた結果なんだろう。哀れなもんだ。
棚をなぎ倒して出てきたゾンビの眉間に槍が突き刺さり、青い光の余波で頭が消し飛んだ。
次から次へと出てきては粉微塵にされていくゾンビを無視して、落ちていた運搬用の頑丈そうなカバンに食料と水をつめていく。このカバンのサイズなら、余裕で1週間は持ちそうだ。
ドラゴンから身を隠して、いっそここに……あれ? 結構良いアイディアじゃね? 入ってくるのはゾンビか人か、どっちかだ。地下にあるんだから、ドラゴンの襲撃を警戒する必要がない。物資はすべて揃っている。そうと決まれば――――
地下にいたと思われるゾンビを軒並み駆逐し、階段に防壁を構築する。鉄の瓦礫を重ねて置いただけの簡易的なものだが、ゾンビは早々入って来れないだろうし、人間にしたって入ろうと戸惑っている間にゾンビに襲われて撤退するのが目に見えている。
「まぁ、あのふざけた奴の言うことに従うつもりはねぇし、あいつらがどうなろうと知ったことではないね」
寝袋を開き、簡易的な寝床を作る。昨日に比べてはるかに寝やすくなった。今日はヒーローと馬鹿やったせいで眠くてしかたない。かといってこのまま寝るのも不用心だ。
そこそこ広い地下を周り、ゾンビがいないことを確認していく。今は潜んで俺が寝たら襲うなんて知能はないだろう。しかし、万が一にでも取り逃していたら面倒だ。ついでに、途中で見つかった重そうで頑丈そうな物は階段を塞ぐ壁となってもらった。
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