第23話 悪魔との取引


 幻想という現実。変わってしまったルールを伝えに来た奴。怪しいが、聞かないわけにもいかない。

 態勢を整え話を聞こう――と思ったのだが、ぶっちゃけ身体が動かない事を忘れていた。

 若干、イラッとしつつも耳を傾ける。


『僕の役割はルールを伝える事だけ。その後は知らないし、好きにしてくれて構わないよ』

 一発殴らせろ。姿の見えない存在でも、幻想とかいうルールに縛られてるのなら殴る事くらい出来るだろ。


『君は幻想種を殺した事で力を手に入れた。と言っても、魔法の一部を具現化しているにすぎない』

 そもそも魔法だなんだ言われても理解できるだけの下地がねぇんだよ。説明してくれんならもう少し詳しく教えろやッ。幻想種ってのがゾンビ共で、魔法ってのは槍だろ? それくらいしかわけんねぇよ。


『この世界は幻想世界――アリステイルと融合を始めた』

 ――あ? なんだそれ、意味わかんねぇぞ。


『これから数ヶ月の期間をおいて、また融合が始まる。その際にどんな影響が出るのかわからない。それに対抗する手段として、僕たちは幻想をばら撒いた。まぁ適合するためには幻想種の欠片が必要なんだけど。それに、欠片を手に入れても適合できる者は――3割いないというのが、僕たちの結論だ』

 ……つまりなに? つか、おめぇらは誰なんだ? いい加減わからない事が起きすぎて頭が爆発しそうだ……。せめて情報は小出しにしとけよ、うぜぇ。


『君達に埋め込まれた幻想の種。僕たちの科学技術も捨てたモノではないだろう? こんな物を作れてしまうのだからね』

 つまりは、あんたらはこの事態を予想していたうえで見逃したと? まぁ、俺が心配する奴って誰もいねぇし、恨む理由はねぇんだけど……一発殴りたいな。


『さて、君は2番目の適合者だ。気づいてるかもしれないが、幻想の欠片を取り込んでより強くなれる――まさに新人類だ。残念な事に、1番目は幻想に呑まれてしまった、種をもったまま。この事態は僕たちにとって大きな想定外だ。なにせ種は人にしか所持できないはずだからね。――そこで君に一つ頼みがある』

 断る! 声がでねぇけどぜってぇ嫌だわっ。


『彼から種を奪って欲しい』

 やり方知らねぇよっ。つか嫌だ。お前らの頼みとやらを叶えたくない。存在からして怪しい人物にそこまでしてやる義理もない。


『あぁ、奪った種は君の好きして構わない。新たな力を手に入れられるだろう。適合者であるなら可能なはずだ。元の持ち主がもっていた力が手に入るわけではないが、幻想世界を生きていくには損にならないと思うよ』

 本当に手に入るならなっ。そもそも複数の力が手に入るなら、どうして最初から複数をばら撒かなかった? どれだけばら撒いたか知らねぇけど、かなりの数を使ったはずだ。それだけの財力があるなら複数を撒く事が出来たはず。それどころか、人の承諾を得ないで勝手にばら撒かれた物だ。まともな奴らとは思えねぇ。


『種の奪い方は簡単だよ。なに、保持者を殺せばいい』

 ――最悪じゃねぇか!? クソッたれがっ!! マジで言ってんのか? 冗談の類じゃなくて? 死んどけ、マジで。なぁにが『損にはならない』だ、ダボがっ。損にしかならねぇよっ!

 人が生き残って、一部の人間に力がある事に気づいた人類は、どうすると思ってやがるっ。力を巡っての戦争だっ。奪い合いだっ。そんな中で種の保持者を殺せば力を奪えるとわかったら……考えたくもねぇ……。


『あぁ、君がなにを心配しているのかわかるけども、別に心配はいらないよ。これは1番目から3番目までに与えられた特権だとでも思ってくれ』

 ……心は読めないんじゃなかったのか? 色々と腑に落ちねぇ事があるが……俺達の手に入れた幻想の種ってのはあれだろ、ようはウィルスだ。感染者毎に変異するウィルス。

 それに順番などなんの関係もないはずだが、なぜ3番目までが特殊なんだ? 個人差すら生まれるウィルスでそれは不可能だろ。いったい人様の身体をどう弄繰りまわしてくれたのか……。


『さて、君も納得してくれたと思う』

 ふざけんなっ、クソ悪魔がっ。誰が従うものかっ! この空間から抜け出したら、即行で逃げてやる。

 

『まぁ今の君では1番目には勝てないわけだけど。というか、今にも死にそうだね』

 ――ぐっ。痛いところをっ。


『ここで一つ、取引といこうじゃないか。……あぁ、言っておくが――僕はメッセンジャーを通して言葉を伝えてるだけで、僕がメッセンジャーって訳じゃないよ』

 ――いつ変わったんだよっ。こっちには理解出来ないからとっとと話を進めろっ。


『人を――人類を、率いて欲しい』

 この、俺に……? 他人の事なんざ興味ないと見捨てた俺に、人を救えと? 馬鹿なのか、嫌に決まっている。なにが悲しくて足を引張られなければいけないのだ。


『――いやわかっている。種に適合したという事は、そういう事だ。態々、僕が取引を持ち出さなくても、君なら人々を助けてくれるだろう』

 だから嫌だって。むしろ手間掛けて救うくらいなら、端から根絶やしにする。助ける連中がいなければ助けようがないからな。


『今の君が彼に勝つには、それ相応の無茶をするか――誰かに助けてもらうか、この二択しかない

 無理だっつの。無茶程度で勝てる程優しい敵じゃねぇよ。あの化物、マジで怪物ってレベルだ。正直、勝てる手段が何も浮かばない。


『だから――僕の力を一時的に貸そう』

 いらんっ。死んでも逃げてやる。てめぇの力を借りるくらいなら逃げてやるっ。これは俺とあいつの喧嘩だ! 他人が入っていいものじゃねぇんだっ!


『さぁ、見事彼に勝って見せろ。1番目に終焉を与えてやれ』

 知るかっ俺は俺のやりたいように――――

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