第21話 ゾンビと化した英雄


 増えている。

 明らかに増えている。馬鹿みたいに増えている。パッと見でわかる程に数が増えている。

 大量のゾンビが地面を埋め尽くすように群がっている。


「――あ、あさこに行きたくねぇ」


 ここにくるまでも多かったのに、体育館周りのゾンビの数が異常なまでに増えている。昨日もそりゃあ多かったが……今群がってるゾンビの数は昨日の比ではない。

 食料の補充を考えたら、行った方がいいのだが………あれはない。あれはないって。あんな場所に行きたくないわぁ。




「――――ま、行くんだけどなァ!」

 背に槍を展開し、吠え声一つゾンビの群に突っ込んでいく。


 獲物は多い。

 いくらでも食い散らせそうだ。

 ぺロリと唇に舌を這わせる。


 ――――俺は捕食者だ。獲物を食らう一匹の獣。食らった獲物の残骸など無視して次の獲物へと向かう。

 常に3本の槍を背に展開し、近づいてくるゾンビには左右に展開した2本の槍で貫く。残った3本の槍を射出。再度展開しては射出。戦場を駆け巡りながらゾンビを纏めて吹き飛ばしていく。



「くははっ。雑魚は群れたって雑魚のままだよなアッ!」


 ――――迸る青の閃光。ゾンビ共を抉り、削り、吹き飛ばす。2匹3匹なんてチマチマ殺ったりはしない。一度に10匹はミンチに変えていく。

 

 雑魚狩りは楽しいモンだ。昔から、常に雑魚を相手にし強敵を避けてきた。スリル溢れる戦いに興味はねぇ。雑魚を食い殺して強くなれる、そいつぁ最高だ。なんせ雑魚を狩ってさえいれば強敵すら雑魚になる。


 どれだけミンチにしても、次々と新しいゾンビが湧いてくる。最高の狩場だ。心臓に溜まっていく熱量。槍が強化されていく、より鋭く、より速く、より広範囲に飛ぶようになっていく。槍の本数が増えないのは残念だが……威力があがり、青い閃光すら破壊力をもちだした。より多くのゾンビを纏めて潰せるようになった。



「死んどけやオラァッ!!」


 掴み掛かってきた3匹のゾンビが、一瞬で挽肉に変わる。……ふむ、自動で射出される槍か。楽でいいな。

 順調にゾンビを狩っていく。残弾数は、残りの熱量を考えるに3割は残っている。これなら、もう少し遊べる――――――





「マ……もる。ミんナを」


 ――――嘘だろ?

 いくらなんでもそりゃあねぇだろーがっ!! なにやってんだってめぇっ。


 が視界に入った途端、俺の理性は飛んだ。やばいわ、あれはやばいわ。

 

 ――――――ボロボロになった1人の男。体中から血を流し、一部の肉は削り取られたような後がある。たぶん、最後に受けたあの一撃で死んだのだろう。


「ァあ……まも、ル……」

「……うわぁ、喋れんのかよ」


 言葉を発する事から、通常のゾンビではない事はわかる。だが、どんな理由でスペシャルなゾンビなったのかわからない。やはり、ヒーローは死んでもヒーローだとでも言うのだろうか。今はゾンビ共のヒーローだがな。


 動きは他のゾンビと一緒で動きが鈍――――っ!?


 のろのろと近づいてきたヒーローが、一瞬ブレた――直後、目の前に殴りかかってきたっ!?

(まずっ――――この距離じゃ避け――)



 ――――ドッゴオオオオンッッッ



 爆発にも似た衝撃と轟音が俺を襲う。――――空を飛んでいた。いや空を舞っていた。身体を襲う激痛に顔を顰めながら、どこか冷静な頭が思考する。


 馬鹿じゃねぇの? 2本の槍が迎撃に出て、直撃じゃねえんだぞ。俺に当たる寸前で槍がぶつかり――その余波だけで、俺は吹き飛んだ。そう、余波だけだ。余波だけで人を吹き飛ばし身体にダメージを与える一撃。

 もう人間じゃねぇな。……いや、今はゾンビだけど。


 地面に背中を打ち付け「かはっ」っと肺から呼吸が漏れる。そのままの勢いで地面を転がっていく。途中にいたゾンビを巻き込む。しかし、ゾンビでは勢いを殺すどころか、あっさりと潰れた。肉片が口に入ってきた。ぐおぇ、マジかよ……。

 ぺっぺっと吐き出す。

 どんなウィルスを保有してるかわかったもんじゃねぇぞ。



「うグぁ……ま、も、るっ」

「――クソッ。これだから、強敵とは戦いたくねぇんだ」


 こっちは奴の一発で瀕死だ。そもそも身体のスペックが根本からして違いすぎる。試しに槍を放ってみれば――――あっさりと避けられる。掠りさえしない。当てられる気がしない。動体視力があがっているからか、ヒーローの動きは多少だが追える。つっても、一瞬だけブレる姿が見える程度だが。


 

「うぐィアアアアアアアッッッ」

「――っ、こっちくんなっ」


 立ち上がる暇すら与えてくれず、即座に近づいてくる。そのまま拳を振り上げ、俺に向けて振り下ろした――――地面が砕け、陥没する。ありえない威力だ。下手したらドラゴンの一撃より上かもしれない。



「――ぶなっ」

 槍を展開し、それに掴まり高速移動で避けたのだ。ドラゴンの時にも使った避け技だ。……つか、岩盤砕くってどういう事なの? やばいよな? あれ貰ったら、一撃でミンチどころかトマトジュースだぜ。


 半ば呆然とヒーローを見つめる。……チクショーがっ。てめぇが敵にまわるとか最悪じゃねぇか!

 まるで勝てる未来が浮かばない。


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