第20話 潜入ミッション!



 未だそこらをうろつき俺を探しているドラゴン――瓦礫に隠れてやり過ごす。俺がもつ槍の力、これがどういう原理で回復するのかわからない。あまり無駄弾は撃てない。

 ドラゴンに纏めて撃った理由? そりゃあ、逃げる時に油断してくれるからな。むしろその為に撃った割合の方が大きい。一応、戦力調査という名目はあったが……元々が化物だとわかっている相手を、いちいち調査する意味ってあんの?


 まぁ、実際に俺が槍を使わないと、そう思っていたドラゴンから無事に逃げ出せた。作戦としては成功だろう。

 ……元から逃げようとしていたわけではない。そもそもヒーローに期待してたのだが、あれでもダメだったな。でまぁ事前策を用意してたってわけよ。


 つか、あんな化物相手に逃亡策を考えないで突っ込むのは、馬鹿か英雄だけだ。勝てば英雄、負ければ馬鹿。わかり易いだろ?



(これからどうっすかなぁ……)


 ゾンビが近づいてこないよう、簡素な要塞を造ってある。

 周囲を瓦礫で囲み、鉄製の針金を網目状に張っただけの物だが、しばらくはもつだろうし、まず見つからない。

 なにせドラゴンが地面に空けてくれた大穴を利用している。そうそう見つかりはしない。周囲に大量のゾンビが来たら無理だけどな。物量で見つかる。

 ドラゴンに見つからないよう造るのは大変だった。唯でさえドラゴンとの戦闘で疲労していた。



 ………。

 ……。

 …。



 ――――逃げ出してから数時間、日が落ち空が薄暗くなってきた。

 

 流石のドラゴンも諦めたのか、いつのまにか姿が見えなくなっている。巣にでも帰ったのかもしれない。


 体育館から持ち出しておいた食料を齧り、ペットボトルに入れておいた水を飲む。あさこがいつ襲撃されてもいいように、あらかじめ外に隠して置いたのだ。まぁ2~3日分くらいしかないが、これからの事を考える程度の時間はある。


 ……しかし、乾パンまずいな。せめて練り固めたバー状の物にすればよかった。でもあれ、妙に警備してる奴多くて取れなかったんだよなぁ。仕方ねぇから、警備の薄かったこっちの乾パンもって来たわけだが。


 どうでもいい事を考えつつ、乾パンを水で流し込む。未だ熱は回復しない。心臓を押さえながら呟く。


「回復したら、ゾンビ殺して力、増やすかぁ」



 今のままではドラゴンに立ち向かう事すら出来ない。せめて、何かしら奴にダメージが入るようにならないと話しにもならない。

 しかし、俺の力では有効だを与えられない。嫌がらせくらいなものしか出来ない。そもそも生物としてのスペックが違いすぎるのだ。

 技量どうこうじゃない。わかり易くいやぁ、拳銃で戦闘機と戦うようなもんだ。戦いにならねぇわな。空から機関銃かミサイルでも撃たれてお終いだ。戦闘の舞台にすら上がれない。



「ま、寝るかな。疲れたし……」


 ふあぁ~。と欠伸をし、横になる。3人くらいなら横になっても平気そうなスペースを造ったのだ。なんら問題なく寝れ――そうもない。よくよく考えればベッドもなけりゃあ布もない。固い瓦礫の上で眠るしかない。これでは疲れが取れそうにない。しかし、この状況ではしかたないだろう……。

 盛大にため息を漏らし、瞳を閉じる。


 ゾンビ共の声をBGMに、意識を沈めていく。







 

 ――どれほど時間が経ったのか、薄ら明るい空が見える。結構疲れが溜まっていたのか、長時間眠っていたらしい。

 明るさから考えて、今が5時くらい。寝たのは6時くらいだ。約11時間も寝ていた計算になる。

 

 まぁ無理やりとは言え、ここ数日は戦いっぱなしだった。そこ来て止めにドラゴン戦だ。普通に考えて倒れない方がおかしい部類だ。

 よくもまぁもったモノだ。



「熱は……6割は回復してるな。あぁこれならゾンビを蹴散らしていく分には、なんの問題もねぇ」


 心臓に蓄えられた熱を確認し、どれだけ槍を放てそうか数えていく。何故残弾数がわかるのか? 謎だ。ぶっちゃけ回復サイクルもわかったものではない。まぁ、使えるのがわかるなら問題はないが。


 昨日と同じ、まずい保存食を食いながら思考する。


(どれだけ狩ればいい? ドラゴンに勝つにはどうすればいい?)


 ダメだ。まるで良案が浮かばない。

 今の状態でいくら強くなろうともドラゴンには勝てない。圧倒的なまでに相性が悪いのだ。0の上に0を積み重ねたところで、何の価値がある? 結局は1にすらならないゴミでしかない。

 とは言え、こんな魔法のような力――槍以外わからないし。なによりも、俺がこれ以上の力に目覚める事はない。なんとなくではあるが、そう感じる。


 無意味の上重ね、無駄な努力、無価値の行動。

 どの言葉で言い表そうとも、はっきり言ってしまえばそういう事。……努力とかあまり好きではないのだが、それも無駄とわかりきっている事なんて……気が乗らない。

 今でもゾンビを相手にするなら、まるで問題にならないほとの戦力がだせるのだ――いいや、保険の意味を込めて多少の強化は必要であろうが。……ん? そもそもなんで俺はこの場所に拘る? 特にこれと言って拘る理由はないな。


(適当に、食料の類をカバンに積めてここから出て行くか)


 どうせ蛇達にゃあ必要のない物だろう。いや必要ではあるんだろうけど、手に入れる手段はない。なら、その一部を俺が貰っても構うまい。


 そうと決めたら――――ゾンビ狩りしつつの潜入ミッションだ。笑えてくるな。今頃必死になって今後の方策決めてる奴らの近くで好き勝手するのだ。まぁ、ぶっちゃけあの食料はあいつらのってわけでもないし、俺が奪ったからといって文句を言われる筋合いはないのだがなぁ。


 さて、行くかな。

 

 瓦礫を押し退け、俺1人がなんとか通れるだけの隙間を作る。ゾンビ共が入って来れないようにしてあるのだ、ないよりはマシ程度の物だ。


 そこら中から聴こえてくるうめき声の中を――笑いながら歩いていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る