第18話 ドラゴンの猛威


「大丈夫かい?」

 受け止めていた尻尾を弾き飛ばし、地面に倒れていた俺に手を伸ばしてくるヒーロー。流石は英雄、運命にでも愛されてるような登場の仕方だねぇ。


「そこらでゾンビは狩って来たぁ? ぶっちゃけ俺の力はあのトカゲには効かなくてなぁ、お前の力が頼りなんだわ」

 ヒーローの手を取って立ち上がり、首をポリポリと掻きながらぼやく。俺が放てる最大の一撃を叩きこんでも、ちょっと煩わしそうにするだけで基本無傷だったトカゲだ、俺にゃあどうしようもない。精々撹乱とか邪魔くらいなものだな。



「……それはいいんだけど、なんか豪く怒ってないか? ゾンビ、と言うか飛ばされた場所にうじゃうじゃいてさ……大変だった。」

 ドラゴンの方を見ながら、ヒーローがぽつりと漏らした。……まぁ、あんだけ挑発されて、その相手をようやく殺すって時に邪魔が入れば、なぁ? 怒りパラメーターが振り切れてんじゃねぇか。……ヒーローが悲しげに呟いていたが、気にしない。

 態とそんな場所に送ったわけじゃねえよ? そんな余裕なかったし。ぶっちゃけ適当に逃がしただけだからな。

 


 俺の推測が合っていたのか、ドラゴンは咆哮をあげる―――しかし、この場にいる2人には効果が薄い。つかない。うっせぇくらいにしか思わない数葉と、それはさっきも聴いたさ、と爽やかに無視するヒーロー。この2人しかいないのに意味はないだろう。


 ドラゴンもそれは分かっているのか、今のは戦闘の合図に近い。いわばゴングの代わり的な意味だ。



「それで、ヒーロー武器は?」

「ない。と言うか、あれに通じる物ってあるの?」

 断言されてしまったうえに、ドラゴンを指し示し聞いてくる。……あれに効く武器かぁ、わりぃ、想像もつかねぇわ。


 そもそも神話の類なのか、化物の類なのか、それすらわからねぇ。分かった事と言えば精々、あいつが魔法よりの存在だと判明したくらいだ。

 まぁ、どんな物語でもドラゴンは英雄に殺されるのが運命だ。しかし、神具をもたない英雄が勝つ事はない。

 どんな英雄だってそうだ、全員がドラゴンを殺すに足る武器をもっている。



「英雄だけいてもなぁ」

「―――尻尾には気をつけてっ」

 ヒーローの言葉に、迫ってきた尻尾を転がるようにして避ける。


「僕がドラゴンと殴りあうから、安藤くんはその間に対策を考えておいてくれないか?」

「あいよ、それでいこうか」

 じゃっ。と言った後、ドラゴンの腕を蹴り飛ばし、隙を作った後、腹に蹴りをぶちかまし距離を作る。

 

 ―――高速戦闘。

 ヒーローが行っている高速戦闘、強化されたはずの両目でも、離れた場所から確認するのが精一杯だ。……どんだけ速くなってんの? ドラゴンがまるで付いていけてない。



 グルルッ

「悪いね――はあっ」

 ヒーローが放った拳が背中に突き刺さり、見事――見事、ドラゴンの鱗を砕いて見せた。



「この辺が限界かな」

「いや十分すぎんだろ。お前なら、このまま殴り続ければ勝てるんじゃね?」

 スタッ、とこちらに跳躍して戻ってきたヒーロー。そのヒーローが辛そうに立っている。あの戦い方は案外、負担が大きいらしい。


「今は痛みに呻いて暴れてるだけなんだけど、いつ正気に戻るかわからない。何かあれの弱点は分かった?」

「分からんて、伝承的に言やあ……お前が竜殺しの武器でも持てばいいんだろうけどな」

「ないでしょ」

「そうなんだよなぁ……。まぁお前が身体中しこたま殴ってくれたからな、あのトカゲが庇ってる部分は分かった」

 あからさまに守っている場所がいくつかあったからな。簡単に見えたぞ。


「おぉ、そう言うのを待ってたんだ!」

 嬉しそうに言われても、そこまで効果的な代物じゃねぇぞ。


「あいつがブレスを吐こうとする時、必ず喉を守ってる。たぶんだが、吐く直前に喉をやられたら自爆でもするんだろ」

 その際は巻き込まれないよう注意が必要だ。


「うん、死線の中にこそ活路はあるって事だね」

「やー無理じゃね? あとは……両翼の付根に額の角。この辺だ、狙えるなら狙っていけ」

「了解――散会っ」

 いつの間にか正気に戻っていたドラゴンから極大サイズの炎が吐き出される。今までよりも一番でかい。洒落になってないでかさの塊が――迫ってきていた!


 ヒーローの言葉に従い全力で逃げる。

 あの場にいたら、即行で炭コースだった。



 グゥ 

 怒りを示すように、周りに向かって無差別のブレスを吐き出し始めた!

 


 まずいっ。そんな事されたら――あぁ遅かったっ。

 ドラゴンに突っ込んでいくヒーロー。分かっていた。彼の弱点は他者を守らねばいられない、と言う事。

 今みたいに無差別に攻撃されたら、当然だが近くにある体育館も無事では済まない。そうなれば必然的にヒーローが飛び出ていくのは、ある意味で道理だ、なにせ彼は英雄なのだから。



「やめろぉぉおおおおおお」

 グルァァァアアアアアア


 ヒーローの声に反応して、吠えながら高速で尻尾を振るった。直線で突っ込んでいったヒーローに避ける手段などない。




 ――――――ドオオオオオオオオンッ



 大量の砂煙を舞わせながら、ヒーローが地面を何度もバウンドを繰り返し転がっていく。それでも強すぎる勢いは消えず、校舎の壁に激突し轟音をあげる。……あれは死んだんじゃねえかなぁ。


 これは詰んだかもしれない。

 ドラゴンが分かっていてやったとは思わない。しかし、切り札たるヒーローの弱点をもろに疲れた形だ。

 そして、校舎の中から出てくる気配もない。せめて、生きてるならゾンビには食われて欲しくないのだが……あの一撃を浴びて、生きていられるのだろうか。

 

 俺だったら即死だな! うん、間違いない。


 ――ギロリッ

「……まぁ、ヒーローがいなくなりゃ、そりゃあ俺の方にくるよなぁ」


 まるで勝てる気がしねぇ。

 ホント、どうしよ。


 俺を睨みつけるドラゴンを見つめながら、わりと絶望に浸る。

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