第15話 トカゲの串焼きが食いたい気分だ
グルォォォォォオオオオオオオオオオ
大地を揺るがす吠え声。声が反響し次々と物が割れていく。
かなり近い距離で吠えたのか、世界が割れた。
文字通りで空間を破壊した。
「……あぁ、どうする?」
会議室に集まっていた面々は、今の吠え声で気絶していた。……いや、2人だけ気絶してない。
「―――まずいな」
「―――っ、ボクが行く」
戦いを決意したヒーローが二階に行こうとする。
「まぁ待てって」
肩を掴み、無理やり椅子に座らせる。このまま行かせても死ぬだけだろうし、流石にこの状況で戦力の低下は避けたい。
間違いなく決戦となる。ゾンビとドラゴンと人間、この三竦みで戦う事になるだろう。
「何をするんだっ。ボクが行かなければ―――」
体育館が揺れた―――いや、1階の一部が吹き飛んだ。
グルルゥ
吹き飛ばされなくなった防壁から緑のトカゲが姿を見せる―――おっとぉ? 展開速くない? 少しくらい準備させてくれ。
「会議室に被害が出なかった事を喜ぶべきか、防壁を壊されゾンビが入ってくる事を嘆くべきか……」
現実逃避をしているのか、呆然と呟く蛇が視界に入った。
「蛇、あんたは二階にでも逃げろよ」
「私だって戦えるとも」
「無理だから、現実を見ようぜ? ほれ、あそこで暴れてるヒーローを見てみい?」
押さえていた俺を押し退け、ドラゴンと殴りあいにいった。道中にいたゾンビを轢き殺して。手足どころか全身がミンチになってやがる。ゾンビの肉でハンバーグでも作るつもりかねぇ。
あぁ、今日の俺はトカゲの串焼きが食いたい気分だ。
「君は逃げないのか? 私と一緒で力を手に入れていないのだろう、そんな君が行っても足手纏いにしかならない」
「わぁーってるよ。今朝、力が目覚めたんだっつーの」
「なに―――やはり君の仮説があっていた、と言う事かい?」
「そう言う事、付け加えるなら、獲得する力は固体によって変異する。もちろん、得る物が変わるんだ、力の発言にも個体差が出るって事」
会議に呼ばれる前、俺は力を発言させていた。
「―――奴を殺せるのか?」
「さてなぁ。手に入れたばかりで未知数すぎんのよ、俺だって理解した訳じゃねぇし。ただ、気付けば使えるようになってた。今分かってるのはそんなもんだ」
「そ、うか。援護はしよう」
「おぉ、出来ればでいいぞ。期待しねぇでまってるわ」
背を向け、二階へと続く階段に走り出した。今だ戸惑っている奴らを指揮しながら上へと向かう。しっかりとバリケードを造っていく辺り、だいぶ冷静になったのだろう。
「
空中に槍を展開する。一切の装飾がなく青色に光る槍が空中に形作られていく、一本だけではない。三本の槍だ。
長さは2mちょいくらい。俺が直接使う訳じゃない。俺の力はヒーローのように肉体の拡張ではない。
仮に特殊型するが、三本の槍を生み出す事が可能、これを特殊型と言わずなんて呼べと。
ではどうやって使うのか、簡単な話だ。
ドラゴンが開けた10m大の穴から入って来ようとしているゾンビ共に、測で照準を合わせる。
「―――射出」
その言葉を発した瞬間――三本の青色の閃光がゾンビに向かって迸る。そしてゾンビを貫き、吹き飛ばした。
ようは空中に槍を生み出して、狙いを定めて撃つ。今のところ同時に展開できるのは三本まで。射出された槍は対象を高速で貫く。
どんなエネルギーを使っているのか、まるで分からない。しかし、撃つたびに心臓の熱が消えていく。これが残弾の目安なのだろう。撃たずに放っておけばまた熱くなってくる。
言ってしまえば、自動装填の無限弾薬って感じだ。
「かははっ。俺の前に立つのなら、せめて少しは粘って見せろやっ」
展開しては射出を繰り返し、繰り返し、繰り返し、ゾンビを駆逐していく。別に殺せるわけじゃないが、ゾンビを吹き飛ばして外にもって行き、なるべく腕か足の付根付近を狙って撃っている。
「―――ヒーローは、無事っぽいなぁ」
ゾンビを蹴散らしながらヒーローを確認すると、ゾンビ巻き込みながらドラゴンとガチで殴り合っていた。……体格差を考えろって。相手は10m級の怪物だぞ。むしろなんで殴り合えてんの? そっちの方が疑問だわっ。
迫ってくるゾンビを蹴り転がし、地面に倒れたところに槍を射出する。至近距離での射撃、威力は高いが改善点はありそう。
ゾンビの頭が吹き飛び消滅した。……はずなのだが、動いている。うわぉ。こいつら、頭がなくなっても生きてんだ、驚きだ。
「くそっ。数が多いな!」
2~3体纏めて貫いたり、戦場と化した体育館を縦横無尽に駆け回りゾンビを動けなくしているのだが、次か次はと湧いてくる。こんな数今までどこにいたってんだっ。
俺が防衛線を構築しているから、被害は出ていないが、未だ避難を終えていない奴らが1階にだいぶ残っている。
守りたいわけじゃないのだが、守らなければ敵の戦力が増加する。つまり強制的に守らされてるわけだ。……蛇、早く避難させろって。マジで邪魔。
槍を左右に射出し、生徒を襲おうとしていたゾンビを潰す。あぁダメだこれ。俺1人じゃカバーしきれない。
ギィアアアアアア
「―――っと。ろくに考え事も出来そうにねぇ」
背後から襲い掛かってきたゾンビを回し蹴りでふっ飛ばし、倒れたところに槍を撃ち込み止めを刺しておく。
頭を潰しておけば、噛まれる事がない。だから、潰せる時は潰しておくべきだ。……この数を相手にしてるんだ、少しでも減らさないとやってらんねぇ。
「一応仕留めてるわけだが、果たして俺は強くなっているのか」
ヒーローよりも効率的に、多くのゾンビを殺してるはずなんだが。いや、外で戦っているヒーローの動きが見えるようになってきた! これは、動体視力が上がっている……という事かっ。
あ、あんまし嬉しくねぇ。身体能力が上がってるわけじゃないから、見えても動けない。
槍の展回数が五本に増えた。射出速度が上がった。まぁそれくらい。……完全に遠距離タイプ? 俺ってばそんなに距離をおいた戦闘って得意じゃないぜ。
「右に左にゾンビ、ゾンビ、ゾンビ! どんだけいんだよ!? そこで積みあがって呻いてる連中に混ざりたくねぇ奴は消えなっ」
言葉と同時に三本の槍を束ねて射出、一本で放った時よりも強い光を発して突き進んでいく。光にゾンビを巻き込んで弾き飛ばしている。わぉ、なんとなくで使い方は分かるけど……これはいいな。
……蛇は避難したか。
すでに生徒達の姿はない。どうやら、防衛に成功したようだ。いや、数人食われてゾンビの仲間入りしてたけども。概ね問題ないだろう。むしろ食われたのは10人にも達しない。
俺ってばマジで頑張ったわけよ。……外で戦ってるところに、参戦しなきゃなんねぇって、嫌だわぁ。
カッコつけてあぁは言ったけどよぉ、俺の信条は雑魚としか戦わないだぜ? ドラゴンとか、どうみても強そうじゃん、ねぇって。ヒーローの身体能力でガチンコしても勝てない相手だぞ。ぶっちゃけ、俺の力が役に立つとは思えねぇ。
近づいてくるゾンビを槍で撃ち抜き、力を増していく。ドラゴンとたたう戦う前にガス欠になるのは困るが……今のままではドラゴンに勝てる気がしない。が、そろそろ向かうかなぁ、ヒーローが劣勢っぽいし。
穴から見えた光景は、ドラゴンに力負けして吹き飛ばされるヒーローの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます