第14話 迫り来る危機

 太陽が眩しい。

 こんな壊れた世界でも太陽は昇るんだなぁ。

 

 ……ゾンビ共も、太陽で焼かれて死んでくれねぇもんか。無理か、そもそもどんな原理で動いてるのかわからねぇし。謎の科学ウィルス? それともドラゴンと一緒のファンタジー? どっちでもいいけどよぉ。




 体育館の周囲に、大量のゾンビが集まって来ていた。

 2回の遠征で、俺達の拠点がばれたのだろう。まぁ、あいつら逃げる時に隠そうとしていなかったしな。俺はゾンビを撒いて逃げたぞ?

 どんな感覚で俺達を知覚しているのか分からないから、そこまで意味があったのか……。


 ゾンビを見下ろしながら、呟く。

「あいつら重なったりしねぇのかな。そうすりゃあ、ここに届くだろうに」


 馬鹿か? 馬鹿なのか? いや、知能があるとは思えないけど。あいつらの行動に微塵も知性を感じない。



「これじゃあ、外に出て経験値を稼ぐなんて無理だろ」

 強くなれる道が消えた。

 防衛拠点であるここを守ろうとするだろうが、安全な位置から攻撃をするくらいなもので、表に出て戦おうとする奴はヒーローくらいなものだろう。……ヒーローなら平気そうだな。むしろ単騎でゾンビの100や200、軽く蹴散らしそうだ。



「ここにいたのか安藤くん、探したよ」

 掛けられた声に振り返れば、部下を数人引き連れた蛇がいた。


 俺を探していた? 何かあったのか?


「朝から悪いんだけど、9時から会議だ。君にも出席してもらいたい」

「……下にいるゾンビの事か?」

 確認の意味も込めて下を示す。


「あぁそうだ。じゃあ、8時半までには会議室に来てくれ」

 それだけ言うと、ザッと身を翻し戻っていく。それに従う部下達。……なんだろう、あいつら。別世界の住人だなおい。



 頭をガシガシと掻き毟り、下へと降りていく。ここにいたんじゃ時間もわからない。あぁいいや、今から会議室に向かおう。どうせやることないし。







「では、これより緊急会議を始める」

 蛇が席に着いた皆を見回し、宣言する。少なくとも20人はいる。……派閥のリーダーとその部下か? うわぁ、めっちゃ睨んで来てるわぁ。俺浮いてるなあ、噛み付いてくるなよ? じゃれてくるなら俺も遊んじゃうぞ?


「議題は一つ、集まってきたゾンビへの対策だ」

 その言葉に、座っていた面々がざわつく。まだ起きたばかりの奴らもいるのか、言葉を理解できずに戸惑っている奴らもいる。


「会長、壁は平気なのか?」

「あぁそれは大丈夫だ。マニュアルを見た限り、像が群れをなして突っ込んで来ない限り問題ない」

 ヒーローの問に蛇が返した。その言葉に周りは安心している者と、それでも不安に思っている者。大きく別れた。


「しかし、この状況が続けば皆の精神が耐えられないはずだ」

「絶えられない、って?」

「自殺する者が出る程度ならいい。最悪なのは、自ら防壁を開け外に出て行こうとする奴が出てくる事だ」

 そうなれば、ここが戦場になる。と呟く。


「―――はっきり言おうか、ここでゾンビと戦えそうなのはヒーローと安藤の2人だけだ」

「待ってくれっ。俺も戦ったけど、勝てないけど、戦えないわけじゃなかった!」

 なんとなく見覚えのある奴が立ち上がり、蛇に反論した。……あぁ、一般兵の奴だ。 


「ほう、続けてくれ」

「はい。5人で陣形を組み、囲んでやれば動きを止めれます!」

「くはっ」

 や、やべぇ。思わず笑っちまった。一般兵が凄い目付きになってるわ。


「なんだ、何か文句あんのかっ?」

「別にぃ」

「安藤、君の意見も聞きたい。話してくれないか」

 今更だが、気持ち悪いな。蛇の喋り方、横暴なイメージが強いしな。


「いや、特にないぜ? でもなぁ、ヒーローの後ろじゃないと戦えない奴らが、どれだけ役に立つんだろうな」

 ダンッと椅子を蹴りつけ、俺を睨む。

「―――なんだとっ。戦わなかったお前に何がわかるっ臆病者め!」

 あぁ、それもヒーローと一緒に行った奴だ。


 まぁあん時はゾンビの戦力確認してただけで、一切戦わなかったからな。いや、殿務めたのは俺とヒーローだけどな。



「君は何を勘違いしているのだ?」

「会長っこいつは臆病者ですよ、なんでこいつが戦えるって分かるんですか!」

「決まっているじゃないか。実際に戦っているところを見たからだ」

「えっ?」

「理解してない奴は放っとけって。それより会議を進めようぜ?」

 ぶっちゃけ、俺を呼んだ理由が分からない。単純に戦力として期待したいならヒーロー単体で十分だし。こういっちゃあれだが、俺は戦力としてはそこまで役に立たねぇぞ? 基本は逃げ回るし、戦うって時も足止めが基本だ。……まぁ蛇が期待してるのは特殊な力の方だろう。



「そうだな、話を進めよう」

「ぐっ」

 悔しそうに歯噛みする一般兵を脇に置いといて、話を先に進める。


「問題となるのは、どれだけの間、耐えることが出来るのか。その一点に集約される」

「外に出れないのか?」

「ヒーロー、それが可能なのは君と安藤の2人だけだ。それも難易度が馬鹿みたいに高いぞ」

「そうなの? 出来るなら、僕と安藤くんで数を減らそう」

「や、無理だから。殺せない化物をどうやって減らしてくんだよ」

 やり方に検討がついているが反論しておく。このままでは俺もヒーローの無茶に巻き込まれてしまいそうだ。……戦い方を教えたのは俺だからな。そりゃあ予想もつく。


「手足を砕いてしまえばいい。それだけで動かなくなる、脅威としては格段に下がるよ」

 ほらぁ、やっぱりそうなった。嫌だぞ、俺は参加したくない。


「なるほど、確か安藤の報告では、ゾンビ共は再生しないのだったな。それが適切な手段だろう。わかった、実行してくれ。君が活躍すれば、それだけ皆の精神も安定する」

「うん、今日の昼に仕掛けるよ。会長、援護代わりってわけじゃないですけど、重い物を投げてください、結構な威力になると思うんで。それに、上手くいけばかは、ね」

「分かっているとも、こちらの指揮は任せたまえ」

 混乱を避けるためにぼかして伝えるヒーロー。それを正確に受け止めた蛇、お前ら仲いいだろ。


 思わず、内心で呟いてしまった。





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