第13話 英雄との対話
夜中に目が覚める。
原因は分かっている。
――――心臓が熱い。体を流れる血潮が暴れ狂っている。
これは、寝れそうにないな……。
なんだろうな、これ。身体そのものが作り変えられている気分だ。
いや、それもあながち間違っていないのか。
これは確実に、ゾンビを殺した影響だろう。
この現象、ヒーローにはなさそうだったが……ヒーローとは別の力だからか?
分からない。
今言える事は一つだけだ。
たぶん、明日になれば俺の力が目覚める。……こういう言い方はあれだ、が実際に、心臓から流れる血を伝って全身を別のモノに変えているのだろう。
しかし、この全身が燃えるような熱をどうしたものか…………。
寝れなさそうだし、表に行こう。少し風に当たって、身体を落ち着かせるか。
二階の出口から外に出ると、そこには先客がいた。
「何してんだ、ヒーロー」
「―――安藤くんか。別に、何もしてないよ」
「そんだけ暗い顔してんのにか?」
学校の屋上にいたら、自殺志願者にしかみえねぇぞ。
「少し……考えていたんだ」
「どうせ、今日死んだ奴らの事だろ」
「……そうだよ。もし、もし世界が変わらなければ、死ぬ事はなかったんじゃないかって。そう思えて」
「馬鹿じゃねぇの? もしはねぇよ。変わっちまったもんを元に戻すなんて無理だ。なにより、今回死んだ奴らは馬鹿だっただけだ」
なにせ突っ込んでの自爆だ、危うくこっちも巻き込まれそうになった。
「そうかな……」
「いいかヒーロー覚えとけ、お前はリーダーの1人だ。誰にもお前の辛さを見せるな。お前が辛そうにしているだけで、お前を慕う連中は暴走する」
「……暴走?」
不思議そうに首を傾げる辺り、本当に理解してなさそうだ。
「そうだ。お前1人の感情は、派閥そのものを動かしちまう。厄介な事に、一度動き出したら止める事もできねぇ」
圧倒的なカリスマをもつが故に、ヒーロー以外の言う事を聞かないのだ。蛇が間接的に抑えているだけで、ヒーローの派閥が暴走しそうになっていた事が数度あった。
「知らなかった……」
「そりゃあ、誰もお前に言ってないからな」
「なんで」
「決まってるだろ。お前の為に動いていたからだよ、その名目で俺を追い出そうとしたり、蛇の派閥と言いあったりしてんのは、まだマシだ。――流石に、寝ている時に襲撃してきたのはちぃーっと懲らしめてやったがなぁ」
俺の言葉に愕然としている。空いた口が開きっぱなしだ。どうやら、今聞いた話がよほど衝撃的だったらしい。……ヒーロー派閥は一部の狂信者どもがやべぇんだけどな。他の奴らはうざい程度だ。
「落ち着いたか?」
しばらく放置して、ヒーローが落ち着くのを待った後、話しかけた。
「あ、あぁ。うん、だいぶ落ち着いたかな」
「そうかい。んで、お前さんは何がしたいんだ?」
「何って、何をだい?」
「これからの事さ。これは俺の予想だけどな、数日中にやばい事が起きるぜ?」
精神が限界を迎えた生徒達の暴走か、はたまたゾンビの襲撃か、それともドラゴンが襲ってくるか。
たぶん、数日中にはくるだろうと踏んでいる。
「……それは、確信があるのかい?」
「あるぜ。ま、それが何かは教えねぇけどな」
俺は、俺が生き残る最善策を取る。他者など気にしないし、助けてやるつもりもない。
「そうか……君が言うと、嘘には思えないな」
「本当の事だからな。さて、今の話を聞いてお前には二つの道が出来た」
「道?」
「そう道だ。一つ何かが起きるまでひたすらゾンビと戦いその身を強くする事。二つ仲間を鍛え上げ生き残れる確率を上げる事。平行する事も出来るだろうが、誰も死なせたくないなら、お前が出張るしかない」
「それは……僕が1人で生き残るか周りと一緒に生き残るか。って事なのかい?」
「んにゃ、ただの助言さ。ぶっちゃけこれ以外にも道はいくらでもあるだろうし。ただ、もっとも簡単な道を二つ提示したにすぎない」
実際、もっと良い方法があるかもしれないし。逆に、すべてを捨てて生きるって道もある。
俺が言ったのはあくまでも助言でしかないのだから。決めて行動に移すのはヒーローだ。
「………なんで、僕に助言を?」
「なに、ただの暇潰しだ。俺の言葉に迷うお前達の姿は、実に滑稽でな見てると楽しくしかたねぇ」
迷い決断し、前に進んでいく。
人の熱という物を俺はもっていない。だからこそ、熱く滾る意思をもった者達に助言を与えてしまうだけだ。
「最低だな」
笑いながら俺を最低と言うヒーロー。
「知ってる」
「あははっ、はぁ。君と話してたら、なんだか馬鹿らしくなってきたよ」
「そうかね?」
「あぁ。君は不思議な男だ。平和な世界じゃただの不良だったのに――ここじゃ頼りになる男だ」
それはない。むしろお前の方が頼りになると思うぞ? 実力的にも立場的にも。
「君は、争いの中でこそ輝くのだろうね」
「なんだその評価? 俺は俺より強い相手と出来るだけ戦いたくないぞ? そんな奴に武将としての資質はないだろ」
ゲームでもそうだが、雑魚を狩っている方が楽に強くなれる。態々強敵と戦う意味がない。
「自己評価の低い男だなぁ。まぁ近々混乱が起こると言うなら、そこで君の真価が分かるよ」
「失望するだけだぜ? 俺は雑魚としか戦わない主義なんでね」
「あぁ期待しているよ。君なら、この狂った世界でも生き残れそうだ」
そう言いながら、体育館へと戻っていく。
その後姿を見つめ、ぽつりと零した。
「どんな絶望が俺達を襲うのかねぇ」
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