第12話 無能なリーダーほど邪魔なものはない

 生存者―――132人。


 結果報告という名の議題で集められた3人。

 ヒーロー、俺、鷹の3人だ。集まるように提案したのは蛇だ。


 話題は当然ちゃ当然の話から始まった。

 そう、41人の死者だ。

 この事はそれぞれの派閥に、伝えてもらいたいのだろう。


 そして、予想に違わず、

 41人の犠牲にもっとも驚いたのは――ヒーローだった。


 自分の派閥から死者がでた鷹の反応は「ふーん、別にいいんじゃね? 死んで困る事はないだろ」の一言でお終い。


「君達が言っていたのはこの事か……!」

 鋭い眼光で俺と蛇を睨みつけるヒーロー。本気で怒っているのか、彼の背後に怒気が見えるようだ。……いや、ヒーローが暴れたらまずいんだけど。たぶん、1人で俺と蛇を瞬殺できるぜ?

 

 実際にそれだけの戦闘力をもっている。

 ここで下手な事を言えば、本当にまずいかもしれない。……俺はどうとでもなるけどな。

 逃げに徹しれば生き残れる。ヒーローがいくら強くとも、生き延びるだけなら余裕だ。


「まぁ落ち着きたまえ。別に私が彼らを殺したわけではないよ」

「――――同じ事でしょうっ。あなたは彼らを助ける事の出来る場所にいたんだ、どうとでも出来たはず!」

 机に――バンッ。と両手を叩きつき立ち上がる。頑丈だったはずの机、しかも鉄製があっさりと圧し折れる。……怒りに我を忘れているのか、力の制御が出来ていない。

 いやもしかしたら、最初からする気がないのかもしれない。


「それは私を買いかぶり過ぎだ。あの場で無作為に飛び込んで行った彼らを助けるにはそれなりの犠牲を払う必要があった。――私達は、君ほど強くないのだ。すべての者を助ける事はできない、私の周囲に集まってくれた者達を生かすので精一杯だった」

「だけど――」

「そもそもだ、君は論点を間違っている」

 ヒーローの言葉を遮り、誤りを告げる。……まぁ、正直誰が悪いのか一目瞭然だしなぁ。


「僕の何が間違っているんですかっ」

「分からないのかい? ……頭が痛いよ――彼らは私の指示を無視して勝手に飛び出したんだぞ? 態々味方を危険に晒させた奴らを救う為に、指示を聞いてくれた者達を犠牲にしろと言うのかい?」

「何言ってるんですか! 貴方達が昨日言っていた事がこれなんでしょう!?」

 言っているうちに熱くなってきたのか、声に熱量が篭り始めた。このままここでヒーローが暴れる事態になったら最悪だ。 


 仕方ない、止めるか……。


「――――違うとも、俺らが考えていたのはもっと違う事だ」

 ヒーローと蛇の話に割って入り、距離を離させる。このまま熱くさせとくと何を仕出かすか、分かったものじゃない。


「俺らが考えていたのは、あいつらを素直で扱い易いように変えようと思っていたんだ。ゾンビと少しでも相対すれば考えも変わるだろうと連れて行ったら、まさか全員で突っ込んで行くとは思わなかった」

 あれには驚いた。事前にゾンビの危険性と、今回の事で起きる危険――――つまりは死ぬ事もある。と伝えておいたはずなのだが、ゾンビを見るなり勝手に突っ込んで自滅だ。……多少の間引きはする予定だったが、全滅は想定外だった。


「それは! ……確かに、彼らを助けに行くのは無謀だったけど、僕がいれば助けられた!!」

「――――助けられただろうな。でもその代わり、残った連中に体育館が占拠されてもっと多くの数が死ぬ」

 現実の見えていないヒーローに冷たく言い放つ。

 ヒーローが参加するならば、防衛面を考えて連れて行く数を減らしただろう。前回同様の数では多い。鷹派を30人以上は削ったはずだ。そうなりゃ、あいつらが反乱を起こしてたさ。蛇とヒーローの実質2大トップ、現状に不満をもっている奴らの大半は鷹派だ。


 派閥のリーダーと戦力が同時にいなくなるんだ。

 確実に行動を起こすだろう。

 愚者故に反乱は成功する可能性が高い、後先を一切考えてない行動だ。だからこそ、手の施しようがない。

  

 良くて女子は慰め者、男は奴隷ってところだ。

 ろくに食料も回されなくなるだろう。

 そうなりゃどれだけの人が死ぬか、分かったもんじゃない。


 最悪? 考えるのも嫌だが、遊び半分でゾンビの餌。んで先が見えてないから破滅する道だ。



「だ、だが……」

「勘違いしないでくれ、別に私だって彼らを見殺しにしたかったわけじゃない。そうせざるを得ない状況だった、それだけの話だ」

「――――くっ」

 蛇の言葉に、悔しそうに歯噛みする。


「……戻っていいか?」

 鷹の言葉に蛇が頷く。


「あぁ構わない。一応、全員に伝えといてくれ」

「分かった」

 言葉短めにそう言うと、そのまま出て行ってしまう。……どうやら、鷹からしてみれば興味のない会議だったらしい。

 彼の派閥の所為でこんな事態に陥っているのだが、関与する気はないようだ。


「ヒーロー、あいつをみりゃ分かんだろ」

 派閥のリーダーからしてあれだ。派閥を纏める気がなければ、何もする気はない。という態度を隠しもしない。


「――――僕は、僕のやり方で皆を率いる」

「好きにしたらいいさ、俺の派閥には手を出すなよ? 面倒な事になるからな、あぁ鷹の派閥はお前に任せるわ」

「分かった」

 頷くと、会議室から出て行く。


「蛇さんよぉ、面倒な事をしてるなぁ」

「しゃーないだろ、俺しかまともに悪役をこなせる奴いないぜ?」

「悪役って、自覚あんのかよ」

 くはっ。と大きな笑みを浮かべる。


「当たり前だ、俺が好きで悪役やってんだからな。……まぁ、予想外だったな」

「いや予想外にも程があるだろ、何で突っ込んだのあいつら?」

 理解できない。死なない化物と事前に言ってあるし、相対した場合は逃げるか陣形を組んで動きを封じるように言ってあった。


 なのに、いざゾンビと出会ってみれば勝手に突っ込んで勝手に死んだ。……間引きの手間がなくなったのを喜ぶべきか、面倒な展開になったと悲しむべきか。

 とりあえず、ヒーローと関係が悪くなったのはまずい。ぶっちゃけヒーローが精神的な主柱になりつつあるのだ。


 あれだけの戦闘力を見せ付ければ当たり前の話ではあるが。



「ヒーローと敵対しちゃうぅ?」

「お前、分かってて言ってるよな。どうしたって勝てない現状じゃ、適当に言葉を弄して誤魔化すか、言い訳でも作って逃げ出すか……どっちにしろ逃げるしかねぇんだよ」

 苦笑を浮かべ、ヒーローの戦闘力を頭に思い浮かべ顔色を青くする。どうやったて勝てる想像が出来ない。





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