第10話 意外と強いが奴には負ける

「お、全滅したな」


 41人の鷹派連中が、倒れた。もう、立っているものはいない。いやゾンビとしてなら起き上がっているが。


「目的は果たした、撤退しようか」

「あいよぉ」


 このままここにいたら悲惨な事になっからなぁ。撤退は妥当な指示だろう。20ものゾンビが50を超える数に膨れあがったのだ。

 戦えば必ずに負ける。

 そんな敵が50を超えてるって、笑い話にもなりゃしねぇ。


 あぁぁああああ。あああああああああ。ぅぅううぅぅああぁあぁぁぁあああぅ。


 地獄からでも響いて来そうな声に、慌てて周囲を見やればゾンビ共がどこからともなく湧いていた。

 

「……いつの間にか、囲まれてるな」

「みたいだ。さて、どうしたものか」


 いざ逃げようと思えば、ゾンビ達によって周囲を囲まれていた。これでは逃げだす事は愚か、ろくに戦う事も出来ずに殺されてしまうかもしれない。


「つか、どっから来たよ?」

「分からない。が、一つだけは分かる。――ここは死地だ、足掻かなければ死ぬだろう」


 簡易槍を構え、ゾンビと相対する蛇。どうやら覚悟を決めてこの場でやり合うつもりらしい。……だぁから勝てねぇって。逃げる事に頭を使った方がはるかにマシだ。


「いや止めとこうぜ。どうせ勝てないって」

「知ってるさ。だが、突破口を作らなきゃ逃げられないだろう?」

「うん? ――あぁそう言うこと。何人捨てるんだ?」

「多くても半数だな。それ以上は派閥同士の争いで面倒な事になる」

「なるほどぅ、よし。その突破口、俺が開いてやろうじゃねぇか」

「なんだと?」


 俺の提案が予想外だったのか、蛇は聞き返してくる。まぁ俺の柄じゃねぇんだけどさぁ。……なんか体が熱いんだよなぁ。体の奥から熱が巡っていると言うか、心臓が熱い、そこから流れる血液がまるで焔のように熱いんだ。この火照りを冷ましたいのだが、冷まし方がわからねぇ。

 興奮してるだけなら、ゾンビ殴って落ち着かせよう。


「んじゃ、突撃ぃ!」

「あ、待てっまだ引くタイミングを――」


 蛇の声が後ろに流れていく。あぁ、なんだろうこの感じ? 結構ハイになっちゃってる? それとも薬を決めたらこんな風にでもなるわけ? なんだか意識と体がぶっ飛んじまいそうだ!


 体育館がある方向にいた4匹のゾンビ。そいつらを片せば問題ない。

 さて、やってみようか。


 近づき、槍を先頭のゾンビに突き刺し手を離す。加えられた力が急になくなった事でバランスが取れなくなり、ゾンビは足をもつらせ倒れこむ。


 ――左右から3匹のゾンビが迫ってくる!


 チッ。舌打ちを漏らす。

 今だ倒れているゾンビから、手放した槍を回収し、頭に突き刺しておく。

 ドスッ。と鈍い感触がした後、ゾンビが一瞬だけ痙攣し動きを止める。……数秒しか止まらないが、その間にこいつらをどうにかすれば――


 ――がぁぁああああっ


「ぐっ」

 背後からの急襲に直前で気づき、槍を盾にする事でギリギリ助かった。それにしても重い一撃だ。

 ただ、無造作に振るわれた一撃だと言うのに……。


 槍を見やれば、ミシミシと音を発て軋んでいた。このまま押され続ければ折れるな。……まずい? いやそれほどでもないか。


「らっあああああああっ」


 ゾンビの腹部を蹴飛ばし、後ろに飛ぶ。これで距離が出来た。しかし槍は使えない。と言うか、既に折れかけだ。下手に使わんでもすぐ折れるだろう。


 ならばどうする? ここで諦めるのか?

 いいや諦めない。俺はこんなところで死ぬつもりはねぇんだ。


 とは言え、感情論だけで生き延びれれば苦労はない。だから――


「――あんまりしたくねぇんだけどよぉ。いいぜ、見せてやる。きっちりついてこいやあああああ」


 前へと駈ける。そうゾンビの目の前に走って向かう――まさしく狂気が織りなす理解できない行動。あれではただの自殺だ! 


「さぁ踊ろうか。俺とお前ら、全部が全部を狂わせる狂った踊りをなあっ!」


 愚直に掴み掛かってくるゾンビの手を逆に掴み、そのままの勢いで後ろに投げ飛ばした。地面に背中から叩きつけられ動かなくなる。人間で言うなら、確実に内臓へダメージが入ってる。普通ならこれで動けなくなる、んだがぁゾンビじゃ関係ねぇよな。


 いつの間にか起き上がっていたゾンビを含めて4匹に囲まれる――少なくとも突破口は作れた、自分の仕事は果たしたわけだ。……つまり、ここからは好きにしていいわけだ。

 走っていく蛇達を眺めながらそんな事を思う。


「あぁくそっ。音楽プレイヤーでももってればよかったんだけどなぁ……戻ったら聞いて回るか?」


 囲いを狭めて来るゾンビ。一番近い奴に足払いを掛け、転びそうになったゾンビの首を掴んで別のゾンビに向けて転がす。

 巻き込んで2匹のゾンビが転ぶ。そこを見逃していいわけがなく、全力で頭を蹴飛ばし、踏み潰す。大きく痙攣し、動かなくなったのを確認し残りの2匹を確認する。


「くははっ。ヒーローと違ってお前らを纏めて薙ぎ払うなんて芸当、俺には無理なんだぞぅ? どうしてくれようか!」


 迫って来た2匹の手首を掴み、手前に引っ張る。急に加速した事に付いて来れないのか、ゾンビ同士が頭をぶつけ合う。結構強く引っ張ったからか、2匹の頭が鈍い音と湿った音を発して地面に倒れこむ。


「全員撤退したかぁ。俺も戻っかな」


 口に入ったゾンビの血液を吐き出し、くっ付いた肉片を落としながら体育館に向かう。どうせ、ここにいたら他のゾンビ共に襲われる。

 俺はヒーローと違ってそこまで強くないし、化物染みた体力もない。後、2~3匹も来てれば負けていた。

 

 ……いや、ヒーローと比べたら全人類が負ける気がするがな。


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