第9話 間違っていた?

「ひ、ひぃぃぃいいいい」

「こんなの聞いてねぇぞ!?」

「戦闘機のところまで行って帰ってくるだけじゃねぇのかよっ」


 地獄はここにある。

 ゾンビに食われ、食われ、食われ。数え切れない数の人が食われた。

 その内の数人は既にゾンビの仲間入りを果たしている。


「蛇よぉ、何人食われた?」

「ふっ。食われたのは鷹派だけだ」


 口の端を歪めて嗤う蛇。


「ふーん。じゃあ順調なわけか」

「あぁ。私の駒をこんな場所で失うつもりはないからね」


 連れて来たのは蛇の派閥から17人。蛇を含めてだ。鷹派からは41名。ヒーロー派からは0。

 今回の目的は邪魔な鷹派を殺す事。流石に自分達で手をだすのは色々と面倒な事になるから現実的な案じゃない。だから、ゾンビに殺してもらう事にしたのだ。


「まぁ、死んでもおしくない連中を連れてきたがね」

「うわぁ。で、何人があんたの護衛?」

「3人だよ。それ以上は連れてきたくなかった」


 目のまで人が死んでいく。しかし、これは予定調和だ。……別に俺達が殺してるわけじゃない。あいつらが勝手に死んでるだけの事だ。


 蛇の命令を聞かず、見つけたゾンビに襲い掛かったのだ。いやあ、何かしら問題を起こして自滅してくれるとは思ったが、速攻で終わったな。


 一応、会議で死なない事は告げてあんのに。その話を、自分達のミスを隠す為に嘘を盛ったと勘違いした馬鹿が手柄欲しさに突っ込んだのだ。……それが、連れてきた鷹派の連中すべてが突っ込むとは予想していなかった。


「馬鹿だが、今は助かる」

「防御形態を維持したまま下がれ! あいつらは無視していいっ」


 蛇の命令を受け、囲まれた連中を無視して少しずつ後ろに引いていく。周囲の警戒は怠らない。横から急襲とか、笑えない。


「41人全滅か……173人から引いて、残り132人だな。まぁ、これで鷹派は10人ちょいの戦力になったと」

「あぁ、君は戦わなくていいのかい? 私達は防御に徹してるけど、君なら単独で戦えるだろう?」

「うーん、確かになぁ」


 41人の奴らがすべてゾンビ化するまでは戦えるだろう。しかし、戦っている最中に起き上がられるとやばい。

 まぁ、今なら20もいないゾンビだ。一匹に的を絞ってやればいけるか。


「うし。ちょっくら行ってくる」

「行ってらっしゃい。あぁ、君には必要ないかもしれないが一応言っておく。私達が引く時を見逃すな」

「あいよ。んじゃ暴れさせてもらいますかあああああああああ」


 雄叫びを上げ、突っ込んでいく。蛇が築いた防御陣形からするりと抜け出し、囲みの外側にいたゾンビに跳び蹴りをかました。


 結構な威力があったのか、勢いよく吹っ飛びゴロゴロと転がっていくゾンビを追撃する――


「らぁぁぁぁあああああっ」 


 ――全体重を乗せた一撃がゾンビの心臓を貫通する。


 走って追いかけ、攻撃が届く! と確信した時、思いっきり飛んでいた。そして、借りてきた(許可を得ずに勝手に)簡易槍で心臓を穿った。


 ビクンッと一瞬だけ痙攣し動かなくなる。――しっ、殺した。

 これで強くなれんのか――ぶなっ。


 倒れて動かなくなったゾンビが再度動き出し、数葉に掴み掛かって来たのだ! 間一髪で掴まれるところだった。

 先ほどの跳び蹴りで足がやられていたみたいで這いずって動いている。


 危なかったが、動き出した瞬間に後ろへ下がった事でギリギリのところで回避できた。もし、ゾンビが倒れていなかったらやばかった。確実に掴まれていた。

 あのまま掴まれていたら、考えたくもない事になったのは間違いない。――ここは戦場だ。戦場で気を抜けば死ぬ。それが当たり前だと言うのに。


「もっかい死んどけって、な?」


 くるくると槍を回転させ、這いずっているゾンビの頭を勢いをつけた石突でぶん殴る。


 ――ゴッ


 鈍い音が鳴り、周囲に肉片が飛び散る。

 くたりと力の抜けたゾンビを確認し、即座に引く。

 跳び蹴りで集団から引き離したのだが、こっちに気付いたゾンビが複数向かって来ている。

 それを視認し、蛇のところへと駈けて行く。……自分ではあまり、変わったという気がしない。気付いてないだけか? それとも……。


 いや、今は考え込むより先にすべき事がある。つか逃げないと食べられちゃうからな。まだこいつらの昼飯になってやるつもりはねぇんだ。悪いね。


 近づいて来たゾンビを、槍で打ち付け動かなくなった一瞬で懐に潜り込む。槍を後ろに回し、足払いを掛ける。

 ズシャッと倒れ込むゾンビを槍で引っ掛け、もう一匹に向けて飛ばす。……お、重いな。ヒーローと同じ事をしただけなのだが……肩から『バキッ』て変な音がしたぞ。やべぇな。やろう、どんだけ怪力なんだよ。


 飛ばされたゾンビは2、3匹を巻き込んで倒れ動かなくなる。結構効果的のようだ。



「どうだね?」

「変わった気がしねぇ。あんたから見て変わったか?」


 陣形の中に戻り、蛇に質問を飛ばされる。が、俺にもいまいち分からねぇ。ホントに強くなっているのか? まるで実感がねぇ。


「いいや。特には変わってないね。一匹だけじゃ駄目なのかな?」

「ヒーローの時を考えれりゃあ、同じヤツを数回殺しても強くなるはずだ」


 なにせ、同じ5匹を相手にし続けたのだから。むしろ同じ敵としか戦ってない。では俺の仮説が間違っていた? それとも数をこなさなければいけないのか?


 ……ってもなぁ、2回は殺した。少なくとも、何かしらの影響は出ていてもおかしくないのだが。

 蛇の反応を見る限り、なさそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る