第8話 状況を理解しない馬鹿ほど怖いものはない

 会議が終わり、ほとんどの奴らが会議室から出て行く。

 出て行かずに残ったのは、俺と蛇とヒーローの3人だけ。……どうやら鷹は残らなかったらしい。……ホントにお飾りだなぁ。ま、どうでもいい。この面子が残ったんだ、どうせ力の話だろ?


「ヒーローから聞いたぜ? おもしれー事になってんじゃねぇか」

 数端の予想通り、蛇が力の話を切り出す。


「おお、おもしれーだろ? 人生はおもしろくなくちゃいけねぇ、退屈は人を腐らせる猛毒だぜ」

「はっ、全くもってその通りだぜ。でだ、最高にイカした力があるって言うじゃねーか。俺にも一枚噛ませろ」

「おいおい蛇さん。地が出てるぜ?」


 いつもの取り繕った態度ではなく、ギラギラと野望に燃えた熱い男。それがこの男の本質だ。すべてを呑み込み、力を増していく。面倒な相手だ。


「かまわねーよ。どうせ俺の地を知っている3人しかこの場にぁいねぇんだ」

「態度の急変に戸惑ってしまいますけどね」


 ヒーローは苦笑を浮かべ、蛇と短いやり取りを交わす。


「へぇそうなん。2人とも知り合いだったんだ、意外な組み合わせだな」

「そうでもないよ」


 俺の言葉を否定したのはヒーローだった。


「ほう、あんたみたいな正義感溢れる人間が許せる類の人間じゃないと思うんだが?」

「まぁ色々あったんだよ。それに、僕みたいな人間じゃ活動できない場所もあるからね」

「あぁなるほど。つまりは警察とマフィアか」


 表と裏で活躍する二つの組織というのは、いつだって繋がりあうものだ。その方が制御し易いし、やり易いのだ。


「分かってもらえたなら、俺達の未来を語ろうじゃねぇか」

「いいぜ」

「分かった」


 蛇の言葉に2人が肯定を返す。

 時間は有限だ。この状況で、余裕はない。


 お互いに情報を交換し合う。




「大体の事は分かった。しかし、ヒーローしか強化されなかったのか? それも肉体系のみか?」


 俺の仮説とヒーローの体感を聞いた蛇は、そう確認してくる。……もちろん、すべての仮説を告げてはいない。

 だが、やはり蛇もそこを疑問に思うか。

 ゾンビを倒すだけで人外の力が手に入る。ならば、肉体系のみではなくドラゴンのように火を吐けたり空を飛んだり、出来るようになってもおかしくない。


 そして、ヒーローがその実在証明になる。

 なるんだが、あまりにも突出しすぎて単独じゃないと運用できなそうだ。しかも、俺の仮説があっていた場合、ヒーローはより強くなる。言ってしまえば、文字通りの英雄ヒーローになってしまう。

 

 そうなってしまえば、ヒーローと同じ位階に到達するまで誰1人、共に戦う事は出来ないだろう。

 なんせ、ヒーロー自身が自分の能力を自覚出来ていないのだ。常に周りを確認しながら戦えば合わせる事も出来なくはないだろう。しかしそれでは、本来の力量を発揮できないし、戦場で常によそ見して戦うなど正気の沙汰ではない。


「明日の行動は、ヒーローは全員と行動を共にしゾンビと遭遇したら好きなだけ暴れてくれ。指揮は俺が取る」


 方針を決め、力強く参戦する事を宣言した蛇。――十中八九自分が強くなりたいからだろう。ギラギラと燃える瞳がそう語っている。


「……大丈夫か?」

「あぁ問題ない。これでも俺は戦えるんだぞ?」


 俺の疑問にそう返してくるが、そうじゃない。どうやら自分の強化を想像するのに頭をやられちまったらしい。

 ため息を吐き出し、再度問いかける。


「お前ら2人共ここから出て、大丈夫なんだな?」

「ぬっ」

「……そう、ですね。僕達が両方揃って出れば、鷹さん達が暴動を起こすでしょうね」


 ヒーローの言葉に蛇が首を横に振る。


「いいや、あいつは何もしねぇよ。だが、まず間違いなく自分の派閥を押さえねぇだろうな」

「食料やら設備の占拠程度は可愛いもんだ、問題ねぇよ。だけどな、この場所を占拠されるっつう事はだ、俺達の戻る場所がなくなるって事だ」


 俺の言葉に重々しく頷く2人。この場所を奪われた場合、常に監視カメラで姿を捉えられるうえ、戻って来ようとしたら体育館の2階から降ろしたロープを回収すればいい。それだけで俺達は途方にくれる。


 死なないゾンビ共と永遠に戦い続ける事は不可能だし、なによりも物資がない。どうしもうなく追い詰められる。それらの恐怖にやられパニックを起こし集団は一気に瓦解し、一晩もたずに崩壊する可能性が高い。


「状況を理解しない馬鹿共ってのは恐ろしいねぇ」

「ホントにな。チッ。厄介すぎるな、いっそ粛清……」


 怖い事を言い出した蛇を無視してヒーローに話しかける。


「ヒーローが残ってよ」

「僕が? でも、僕の戦力抜きでゾンビ達と戦えるかい?」

「無理だな。あんたのカリスマもなく戦力もない状態じゃ、まともに遣り合えないだろうな」

「では何故、僕が残る?」


 俺の言い出した事が理解出来ないのだろう。ヒーローは本気で分からない。と言った感じで頭を悩ませている。

 しかし、ぶつぶつ言っていた蛇には理解出来たらしく、話に戻ってくる。


「――そうか貴様、」

「そっから先は言わねぇお約束ってヤツだ」

「?」

「そうだな。その案で往こう、どうせ鷹は来ないだろうし、もし来たとしても、何も出来やしない」

「そう言う事、派閥の連中には言っとけよ。あ、今回はヒーローの派閥から人を出さないでいいぜ」

「それでは、もし君達が強化された場合、僕達が弱い立場になってしまう」


 苦々しげに呟くヒーロー。でも残念、今回は誰も強化されないんだなこれが。強いて言えば、俺と蛇が強化されるぐらい?


「安心しなさい。私達は強化が目的で行くのではない、しかし君には酷な話だ。だからこそ君の派閥は連れて行きたくないし、言う気もない。言えば君なら理解してくれるかもしれないが、反発する可能性の方が高い」

「そう言う事で、君は鷹達を押さえておいてくれ。何か要望があれば聞くぜ?」

「……分かったよ。君達はまた、非道に手を染めるんだね」


 まぁ、ヒーローが反発する内容って言ったら非道だろうな。実際エグイ事をするし。ただ、組織を守るって言うのは想像以上に黒いだけのお話なんだよ。

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