第7話 残酷な現実

「それで、死なないとはどう言う事だい? 映像で見ていても詳しい事までは分からなくてね」


 蛇の質問に、深刻そうな顔をしたヒーローが嘆くように呟く。


「言葉通りです。少なくとも――頭を吹き飛ばし、心臓を穿っても死にませんでした、いや大した意味がなかったんです」

「――まさか、不死などとは言わないだろうね?」

「言わせてもらいます。奴らを示すには、それ以外に言い表せる言葉が見つからない」

「……なんてこった。不死の化物がそこら中をうろつき、デカイトカゲが空を飛び回る。世界は歪んでしまった、とでも言うのか?」


 ありえないだろう。と首を左右に振りながら、俺に視線をくれる。どうやら俺が掴んだ情報を渡せと言う事らしい。


 ……重要な事はいわねぇぜ? まぁその辺は織り込み済みだろうがよ。


「そんな悲嘆にくれることはないと思うぜ? どうもあいつらは、死にはしないが体を急速に治す術がねぇみたいだ。両手両足を縛るか砕く、あるいは動けなくすれば、死なねぇだけの置物だ」

「……なるほど。君が5匹相手にやっていた事をすればいい、と言うわけだね」

 

 意図的にか無意識的にか、ヒーローがやった事を省いて話を進めるらしい。どうやら事前にやり決めでもあったのか、ヒーローがでしゃばってくる事もなかった。……悪くない判断だ。後で、主要人物だけを集めた二次パーティーが行われるのだろう。

 なにせヒーローがあの件を黙っている事なんてありえない。あれは世界を破滅にも救済にももっていける。恐ろしいまでの可能性を秘めたものだ。


 ヒーローの後ろにいる奴らが何かを言いたそうにしているが、ヒーローの手前無理には言い出せないのだろう。

 無謀にも、俺に突っかかってきた男もこちらを睨み付けてくるだけで、何かをしようと言う気はないようだ。


「まぁ殺せなくても抵抗は出来るって事だよ」

「ふむ。良い情報だ。やはり君を同行させたのは間違いではなかった」

「いや間違いだろ。おかげで大変な目にあったんだぞ?」

「まぁそう怒るな。私達に残された時間、と言うのは案外少ないんだ」


 突如騙り始めた蛇を、訝しげに見つめる。……急にどうしたんだ? 残された時間が少ないなんて、当たり前の事を言い始めたぞ。


「空を舞うドラゴン、大地を覆うゾンビ。我々は急速に土地を失っている」

「そうだな。で、それが?」

「分からないかい? 私達は、戦わなくては生きていけない時代に生まれたのだよ」


 席を立ち、両手を広げ芝居がかった真似をし始める。……さっきからなんだ? なにがしたいんだ?

 蛇の唐突な行動を理解できない。いや、それこそが目的なのかもしれない。が、何を伝えたい、と言うのだろうか。ダメだ、俺にゃまるで分からねぇ。


「ゾンビを駆逐し、新たな世界を創らないかい?」

「無理だろ。ゾンビをすべて殺せたとして、何が変わる? 現況のドラゴンは残ったままだし、いつ他の存在が現れるか分かったもんじゃねl」


 そもそもどれだけの数のゾンビがいるのか、分かったもんじゃない。正門に設置された監視カメラに映っていたのだが、どうやらこの学校以外にもゾンビは溢れてるらしく、時折新しいゾンビが入ってきてはドラゴンと戦っている。より正確に言うならばドラゴンの存在に引き寄せられたゾンビが捕食されているのだ。ただ、捕食される時に地面に降りてきたドラゴンを襲っているのだ。

 まぁ相手にもされていないみたいだが。


「そうだね。うん、先にそれぞれの見解と報告を聞いていくとしよう」


 その言葉を切欠に、それぞれ一人ずつ報告していく。と言っても、これと言った情報をもっている奴がいない。

 当たりまえっちゃあ、当たり前だ。こいつらはゾンビの警戒とドラゴンの声に怯えながら歩いて、ゾンビに出会った時にはヒーローの活躍に引っ張られて戦った一般兵達だ。ろくに情報収集なんて出来てない。たぶん、自分達のご主人様に頼まれた事以外に集められた情報はないだろう。まぁそれすらも怪しいところだが。


 個々の報告はほとんど、いかにゾンビと戦ったかに集点が置かれていた。ぶっちゃけて言えば、30分も探索していない。そこ持ってきて大きなイベントはゾンビとの戦闘だけ。これで偏るなっつう方が無理だろ。


 しかも戦闘経験を楽しく語るのではなく、重苦しく語る者しかいない。それはそうだろう。人ではなくなったとは言え、知人を自らの手で攻撃しなければいけないのだ。槍が肉に突き刺さる時に感じた感触が、頭にこびり付いて離れないのだろう。

 どうやら、次の戦闘に出れそうな者がいないようだ。こりゃ少し時間を置かねぇと、ろくに使い物にならねぇぞ。……俺にゃ関係ないがな。




 すべての報告を聞き終わる頃には、時計の針が2時間が経過している事を示していた。結構な時間を使ったらしい。


「皆の報告は聞かせてもらった。ゾンビと戦えば肉体的にではなく、精神が先にやられてしまいそうだね」


 蛇はそう漏らし、右手を上げて場を鎮める。

 流石に恐怖と畏怖で支配しているだけはある、報告が終わり、ざわついていた空気が即座に静かになった。


「話を聞いて決めた。明日の昼頃、大規模な遠征をしようと思っている」


 その言葉は、静かになった会議場を慌てさせるには十分な爆弾だった。

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