第6話 会議とは権力者の遊戯でしかない
カッコつけてヒーローと別れたが、別に外にはいかないぜ? そもそも外に出るには二階からロープで出て行くしかない。それも一々防壁を空けてからだ。面倒だし、それを管理している3人(実質2人だが)が許可しないだろう。
今回、外に出たのはそれぞれの目的が重なったからだ。そうでもなければ、出る事は叶わなかった。つか、1人で出ても危険すぎるし戻って来れなくなる。
態々、自殺しに外に出ようとは思わない。それにあくまで仮説だ。本当に強くなれるのかは分からない。ぶっちゃけ分が悪い賭けだ。ならば、自分で賭けなければいい。その為の手は打った。ヒーローが勝手に踊ってくれるだろう。
自分の拠点に戻り、拠点と言っても地下の端っこに道具を撒き散らした場所だ。そこで色々と準備を整えていく。どうせこの後、蛇から呼び出されるはずだ。今回の報告って名目で外に出た奴全員の話を聞くだろう。
「蛇のやろうは一発殴りたいしなぁ」
数葉は凶悪な笑みを浮かべ、蛇の顔を思い出す。まさか、この俺を外に出ざるを得ない状況にしてくれるとは思いもしなかった。まぁ戦わなくてもいいって事で妥協したんだが、よりにもよって殿をさせられるとはなぁ。巻き込んでくれちゃったのはヒーローだけどな。
別の派閥だから関係ないとばかりに俺を戦闘に巻き込み、挙句戦闘をサボったら殿だ。正当なサボりなのにな、そもそも役割がちげぇ。俺がすべきことは、ゾンビ共の情報を集める事。うまくいけばドラゴンもって感じだ。
正直、ヒーローの性格を分かっていて俺を巻き込んでくれやがった蛇を許す気はない。
「安藤はいるか?」
「いるぞ」
「会長が呼んでる、ついて来い」
蛇のお付だと思われる男がずけずけと俺の空間を侵し、入ってくる。どうやら俺を呼びにきたらしい。それに素直について行く。逆らう意味はないし、ヒーローがあの話をしていれば、また外に出る可能性が高い。それを上手く利用出来れば面白い事になりそうだ。
暫らくの間、無言で歩き続けていると布で区切られた簡易的な会議室に辿り着く。どうやら目的はこの場所らしい。
「会長、連れて来ました」
「ご苦労様、下がっていいぞ」
「はい」
俺をここまで連れてきた男が、短いやり取りで会議室から去って行く。完全に蛇に服従している。目が蛇に怯えていた。ありゃ逆らうなんて一切考えない餌の目をしていた。会議室をさらっと見回した感じ、少なくとも50人はいそうだ。
「やぁ、よく来てくれた。歓迎しよう。まぁお茶菓子は切れてるからないんだけどね」
「おうっス蛇さん。よくも送りだしてくれやがりましたねぇ。殴っていいか?」
「あっははは。言いながら殴って来てるじゃねぇか!」
「なにガードしてんだよ、おとなしく一発は貰っとけって。それで我慢してやっからさぁ」
ゆっくりと近づき、戦意を悟らせなかったはずだが、間合いに入った瞬間に放ったはずの右ストレートをあっさりと払いのける。座ったまま右手で一本で逸らして見せやがった。まぁそれを想定していた俺は即座に左手を腹に放ち、それを払いのけられてる間にもう一度右手を顔面に打ち込む。それも弾かれる。すべての攻撃を座ったまま右手一本で払いのけてしまった。
「これで終わりかい?」
「あぁ終わりだ。どうせ右手になんか仕込んでるんだろ? いくら殴っても意味ねぇじゃん」
「さて、なんのことだろうな。私にはわからないな」
笑いながら空惚ける会長に腹は立つが、これ以上意味のない事で時間を潰してしまうのは得策じゃない。つかこれ以上やっても周りにいる奴らから邪魔が入る可能性が高い。
……当たった感触はゴムに近かったが、それだけじゃねぇな。何かは分からねぇが、仕方ない。
「まいいや。で、俺を呼んだ理由は何だ? くだらねぇ話は抜きにして手早く済ませちまおう」
「――貴様如き無能が余計な口をだすなっ」
「ふーん」
こちらを完全に見下した口調で怒鳴る男、ヒーローの横にいるのを見るに、一緒に行った一般兵の1人かな。大方、ヒーローと一緒に殿をした俺への嫉妬か、あるいは単に生意気な口を利く俺への牽制、前者だといいな。嫉妬は人を成長させる。まぁ制御出来なければ破滅するけど。
「止めろ。安藤くんの言うとおりだ、早く始めよう」
「そうだね。数葉が来たことで役者は揃った。では緋色くんから報告してくれ」
「わかりました。初めに断っておきますが、僕達が辿り着けた距離はとても短いものです」
この場にいる29人ほどが顔を俯かせている。悔しいのだろう。目的を達成出来ないどころかまともに進むことすら出来なかったのだから。しかし、ヒーローは続ける。
「ふむ、そうだね。監視カメラで把握していたけど、500mも進んでいなかった。そこでゾンビ達との戦闘も見ていたよ、何かしら問題が起きて撤退したと思っていいんだね?」
蛇の言葉に頷き、言葉を続ける。
「見ていたなら分かるかもしれませんが、ゾンビは死にません。いえ殺す事が出来ませんでした」
「馬鹿なっ。あいつらだって元は人間のはずでしょう!? いいや、動いている以上はなんらかの生物のはずだ! なのに死なないだって、そんな事はありえない! 知り合いでもいて、手心を加えただけじゃないのかっ?」
蛇の後ろにいた白衣を着た小柄な男が吠える。どうやら彼は監視カメラの映像を見ていないれしい。白衣の男が発したその言葉に、大半の連中は呆れてるし、一緒に行ったと思われる一般兵達からは鋭い視線を送られている。……どうやら気づいてないらしく、ベラベラと持論を述べているが既に誰も聞いていない。
一般兵の数人は顔見知りだった相手を槍で突き刺しまくったのだ。後悔と悲しみに襲われているというのに今の台詞だ。何人かぶち切れて襲い掛かろうとしているが、近くの仲間に押さえられている。
「なぁ蛇さん。邪魔なスピーカーは棄ててくんねぇかな?」
「ふふ、悪いね。私の不手際だ。彼を使わなかったロープで縛っておいてくれ」
ニコリと微笑んでいるのに、ゾッとするほどに冷たい声と視線を白衣の男に浴びせる。流石に派閥の主は気にしていたのか、一瞬で黙り込む。凄い効果だ、よほど恐れられているのだろう。
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