第4話 激戦! まさかの撤退戦?

 ――俺達は戦場に立っていた。


「彼らは俺達の知っている存在じゃないんだ! 化物だ。化物になっちまったんだよ! あいつらを救いたいなら殺すしかないんだっ。俺達が生きるためにも、あいつらを救うためにも!」


 ヒーローの咆哮が仲間達に勇気を与える。

 そうだ、あいつらはもう、死んでいるんだ。俺達が生きるため、あいつらを救うため、俺達は戦うしかないんだ! 

 それぞれがモップを半ばで折り尖らせた簡易的な槍を持ち、ヒーローに続けとばかりにゾンビの群れに突っ込んでいく。


 結局、俺達は墜落した戦闘機の諸々を回収しに出てきた。……流石に分かれて行くのは危険だという事で、それぞれの集団が10人ずつ出した、蛇やろうの所為でこうして俺も危ない戦場にいるわけだ。……本人は戦えないからとか言って体育館に残ったけどなぁ。戻ったら殴る。


 ゾンビ共とドラゴンがいない時を見計らい、手早く31人の男が二階から飛び降りた、つってもロープを伝って降りるだけだったが。

 そして校舎を目指して歩く事数分、ゾンビと遭遇しないよう気をつけながら歩いていたのだが――10を越えるゾンビの群れと遭遇、そしてそのままの流れで戦闘になってしまった。


 皆がビビッてるのを察したヒーローが、一匹のゾンビを槍で凪いで吹き飛ばし、檄を飛ばしたのだ。おかげで皆さん戦闘モード、はっご苦労なこった。


「流石カリスマの塊。あいつが前に出て叫ぶだけで、士気がうなぎのぼりじゃねぇか」


 しかし、凄い。

 あの戦いっぷりに惚れ込んじまうのは、正直分からんでもない。それほどまでにヒーローは圧倒的だ。

 一人だけ、頑丈な鉄パイプを圧し折り尖らせた槍を使っているわけだ。


「うおおおおおおお、邪魔だあああああああ」


  一匹のゾンビの心臓を槍で穿ち、ぐるんっとそのまま横に一回転する。一番最初に突っ込んで行き暴れまわっているのだ、当然回りにはゾンビしかいない。そこで重し付の鉄を振り回したのだ。近くにいたゾンビ共は纏めて薙ぎ払われた。回った後、地面に突き刺しくっ付いたままのゾンビを踏み潰す。


「どんな腕力してんだ。つか容赦ねぇなぁ」


 派手なパフォーマンスだ。

 一緒に来た連中のほとんどが今ので勇気付けられただろう。

 たとえ、それが大して効果的ではない一撃であったとしても。

 

 予想通りってのも変だが、倒れたゾンビ共が起き上がってくる。

 ついでに言えば、いつのまにか突っ込んでいったはずの彼らは6人組の陣形を作ってゾンビと相対していた。1匹のゾンビを6人で押さえ込んでる形になっていた。


 というか、槍を体中に突き刺しても死なないし、頭を壊しても心臓を穿ってもこれといった効果が出ていない。いっそミンチにでもしなければ止まらないだろう。


 そんな中、一人で5匹ものゾンビと戦っているヒーローはなんなんだろう。下手したら、ゾンビよりもよほど化物かもしれない。


 一般兵の戦い方は簡単だ。

 周囲を6人で囲み、背後から突き刺し気を逸らし残りの4人が突き刺してダメージを与えていく。

 それだけの単純な方法。しかし、単純だからこそ効果を発揮している。どうやったら死ぬのか分からない化物を見事押さえ込んでいるのだ。……ゾンビが増えたら終わりだがな。


 まぁ、それだけなく。

 皆顔色が悪い。当然の事だ。

 元は人間だったものを突き刺しまくっているのだ。生々しい感触が手に残るし、吐き出しそうになってる人間もいる。

 

 どうやら、肉体的よりも先に精神がやられてしまいそうだ。


「くっそがっどうしたら死ぬんだこれ!?」


 ヒーローは一番近くにいた一匹のゾンビを突き刺し、槍を手元に戻す力で前に出る。そして足払いをかける。諸にくらったゾンビはぐるんっと縦に半回転し頭から地面に落ちる。ぺきゅっという音と共に首が変な方向へと曲がる。


「これでも駄目なのか……」


 首を横に曲げたまま、それでも起き上がってくるゾンビ。これだけで気力を失い戦意を失っても無理はない。

 なにせ相手は不死身なのだ。そんな化物を相手に普通の人間は立ち向かえない。


 ……ドラゴンはこいつらを食うことで殺していたが、流石に俺達が真似できるとは思わねぇな。

 あとは……炎で燃やし尽くしていたくらいか。原型が無くなれば動かなくなるのか? あぁだとしても炎がない。燃やし尽くせる火力なんぞ用意できる状況に無い。ミンチに変えてやるには、人の力では全然足りない。

 本格的に風色が悪くなってきた。


「だぁから言ったんだ。まだ無理だって。俺達はこの状況をなんも分かってないのに表にでるとか、愚挙でしかねぇぞ」


 ゾンビ共を駆逐する手段が無ければ、このまま全滅してもおかしくない。

 つかそうなるだろう。

 一般兵の誰かが精神的に倒れてもアウトだし、ヒーローが倒されるのもアウト。……これは本気でまずいかもな。

 

 つっても取れる手段があるわけじゃない。

 わぉ! まさに絶体絶命のピンチッ。……どうっすかなぁ。……こいつらが死なねぇって分かっただけでも、十分な収穫だしなぁ。うむ、崩れる前に引くのがいいかねぇ。


 そう決めると、ヒーローに向けて声をかける。


「おーいヒーロー、そろそろ引いた方がいいんじゃねぇ? ここにいたら全滅すると思うぞぅ? それがお望みならそれでもいいけど、俺は逃げるぜ?」

「ぐっ――はああああああっ。そうか、よし。一旦引くぞ! 殿は僕と安藤くんで務める! 直ちに引け! っらあああああああああ」

「俺も? やなんだが……拒否権あるぅ?」

「ないっ」


 雄叫びを上げ、ゾンビ共の気を惹き槍を回転させ殴打し吹き飛ばしていく。もちろん、一般兵達が逃げる方向とは真逆にだ。


 どうやら本当に殿を務めるらしい。……て事は、俺もかぁ。ダメもとで聞いたけど強制っぽいしなぁ。俺ってば戦闘要員じゃねぇのよ? ヒーローと違って、足止めが精一杯だぜぇ? それでもやれと?


 どうやって逃げようか考えていると――


 ――ヒーローがお前の分だとばかりに5匹のゾンビを俺の前に転がす。

 わぉ。ノルマ多くない? 

 俺ってばあんたと違った普通の人間だぜ?  


「まぁいいけどよぉ、俺ってば強い相手が嫌いなんだよなぁ。敵は雑魚のが楽でいいんだ」


 俺は、他の奴らと違い木製の簡易槍を持ってきていない。べつに素手に自身があるわけじゃねぇ。じゃあなんで槍を持って来なかったのか? その方が逃げ易いからに決まってる。そもそも俺は戦闘を想定していなかった。

 

「持ってきてても、意味はなかったみたいだけどよ」


 なにせ不死身の化物だ、まともに相手してもそのうちやられる。

 だって不死が相手なのだ。いずれスタミナが切れて負ける。……横で槍をぶんぶんぶん回してるあれは論外だ。

 どんな腕力と体力してんだっ。未だ顔色一つ変えずに鉄製の槍を振り回してるんだぞ。人外かよ……。


 いやむしろ、最初のゾンビを吹き飛ばした時よりもゾンビが吹っ飛ぶ距離が伸びてる。いやあ、味方に化物がいるのは嬉しいなぁ。

 でも、数的に厳しいなんてものじゃねぇけど。

 

 馬鹿正直にゾンビを吹き飛ばし続けるヒーローに呆れて声をかける。


「ふぅ、馬鹿かヒーロー」

「なっ! 僕のどこが馬鹿だと言うのだっせいっ。これでもっ学年10位はっキープっしてるぞ!」


 バシバシとゾンビを吹き飛ばしながら会話続けるヒーロー……本気で人間やめてるな。


「はっ、決まってるだろう? こいつら相手に持久戦なんぞお話しにならねぇよ」

「じゃあどうしろって言うんだ!? というか君も戦えっ」

「ん? 戦ってるぞ?」


 ゾンビの足を引っ掛け転ばし、それを蹴って別のゾンビの足元まで転がす。そうして転がりの連鎖から抜け出せないようにしていく。

 動きが鈍いゾンビだからこそ有用な手段だ。


「くそっそれは戦ってないよ!」


 ヒーローは、大きく弧を描くようにしてゾンビ共を薙ぎ払う。纏めて吹き飛ばし、少しでも数葉と会話しようと決めたらしい。


「で、どうすれば倒せるか、分かったのか?」

「いんや、全然?」

「期待させといてそれか!?」

「ふんっ。落ち着けって。まぁ分かった事がいくつかある。大前提として、たぶんこいつらは死なねぇが、壊れた体を修復する事がない。もしくは極端に遅い」

「――結論は?」


 せっかちな奴め。と内心で呟き、起き上がろうとしていたゾンビを再度転ばしていく。


「お前の腕力ならゾンビの両足と両腕、どっちも砕けるだろうよ。がそれはするな」

「――んぐっ。出鼻を挫いてくれるな!」

「だぁから冷静になれって。ここで熱くなっても意味ねぇぞ? んで、この数を全部壊そうとすりゃ、先に槍が折れる。当然だな」

「……だろうね。結構無理な使い方したし、あんまり長くはもたないよ」


 ヒーローは深刻そうに槍を確かめ、渋い顔を浮かべる。

 正直、このまま振るっても厳しいかもしれないからだ。なにせ、あちこちにデコボコとした殴打痕が残っており、これ以上酷使すればすぐさま折れてもおかしくはない。そんな状態だ。


「だからよぉ、なるべく足で転ばしてくれ。それが一番安全だ。転ばしたあとに別のゾンビに当てりゃ、より効果的だぜ?」

「分かった」

「出来るなら砕いて欲しいところだが、まぁ出来ればでいいさ」

「あぁ。任せてくれ――ふっ」


 槍を空中に放り投げ、ゾンビの前まで走っていき勢いのままにしゃがんで回し蹴りを放つ。

 ゴギリッと妙に生々しくそして重い音が響く。……うわぉ、あれは完全に砕いただろう。つかなんだ今の速さ。すげぇ速く走ったぞ。走ったてか見えなかった。


 そう、ヒーローの体がありえない速度で加速した。実際十歩はあった距離を瞬きする前に近づき蹴りを放って見せたのだ。つか、一瞬消えたように見えたぞ、で気づいたら回し蹴りを放ったヒーローがいた。


 轟音がして始めて気づいたのだ。それほどまでに速かった。……あ、あきらかに人間じゃねぇよなぁ? どうなってんだか。


「――いや、いい。今は生き延びる事を第一にするべきだ」


 俺にはあんな芸当、逆立ちしたって出来やしねぇ。地道に蹴り転がして遊んでるしかねぇなぁ。


 ゴオンッガッガッガンッ


 おお怖っ。なるだけ背後を気にしないようにしながらゾンビを転がし続けた。つか、そろそろ増援が来てもおかしくねぇな。

 一般兵が撤退してから10分以上経っているぞ。


「おいヒーロー、そろそろ撤退してもいいと思うんだが?」

「ん? はあっ。そうだな。一度戻ろう」

「オーケー。あぁ、体に何か違和感は感じるか?」

「なんだ突然? いや、特には感じないが……」

「そうか、ならいいんだ」

「変な奴だな」


 ギュンッと加速し、ヒーローが一瞬で見えなくなった。――マジかよ。この状況で置いてけぼりは勘弁して欲しいんだが……。いやヒーロー自身理解してないのか、自分がおかしくなっていると言う事に。


  ぎぃあああ、あああああ、ああああああ


「うおぃ! 動けない5匹と転がってる5匹、そこきて1人で増援まで相手しなきゃなんねぇとかっどれだけハードモードなんだよ!」


 内心で、殴る相手が増えたな。と呟く。





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