第3話 蛇のような男

「まぁ待ちなさい」


 リーダー格の一人、蛇川 へびがわ のぞむが待ったをかける。

 蛇のように狡猾な男として知られる生徒会長。

 丸メガネにギラついている目。190cmを超える巨体に痩せた体。


 恐怖と畏怖の象徴として、学校中に知れ渡っている。


「なんスか、蛇さん」


 面倒なのが来たわー。と内心で漏らし、話しかける。


「ふふっ。先輩相手だと言うのに、相変わらずだね君は。それと、会長と呼びなさい」

「うぃーっス。気が向いたら呼ぶっスわ」

 

 にっこりと微笑んでいるのに、ギラギラと怪しく光る両目が優しさとほど遠い印象を与えてくる。


 ……おお、怖い怖い。そんなに睨むんじゃねぇよ駄蛇。開いて食うぞ?

 笑わせてくれるじゃねぇか、えぇ? ガキがはしゃぎすぎなんだよ、殺すぞ。


 お互い、目を見るだけで相手の思考が読み取れる。つっても、お互いの考え方が近い蛇と数葉だからこそ、ではあるが、まぁ大体分かる。


「と、そうだったそうだった。戦闘機を狙うには他の理由もあるんだ」

「なに? 僕は聞いてないぞ……」

「当たり前じゃないか。なんで君に言う必要がある?」

「ふざけるなっ。僕はリーダーとして――」


 ヒーローが吠え、蛇に掴み掛かろうとした瞬間――


 ギンッ


 蛇に睨まれ、体が固まる。まさに蛇に睨まれた蛙。いや、リーダーの格としても劣ってるわけじゃないし、戦闘力なら3人のリーダーん中で一番だ。

 しかし、場が悪い。

 既にこの場では、ヒーローは俺に言い負かされた形だ。

 そこで新たに出てきた蛇を、打ち破る言葉を持ってはいないだろう。


「少し、そこで静かにしていたまえ。私は彼に用があるのだから」

「くっ……」


 蛇の言葉に、悔しげに黙りこむヒーロー。まぁ場と相手が悪かった。弱った相手を仕留める事に長けた蛇だぜ? そもそも言葉で戦うな。


「で蛇さん。俺に何の用だと?」

「せめて敬語は使えよ。ふん、貴様に頼みたいのは戦闘機の破片を持って来てもらいたい。いや正確には回収部隊の護衛だ」

「お断りだね。態々危険を冒してまですることじゃねぇ」

「いいや必要さ。近いうちに必ず必要となる」

「……加工する技術がねぇんだ、武器にはできねぇぞ?」

「出来るさ! 数人で圧し折り、ゴムと布を巻けば立派な武器だ!!」


 こいつ、マジか? 

 武器が必要って事は……戦うって事だぞ? 

 本気でゾンビ共と戦うつもり――いやゾンビ共とだけじゃねぇ! 

 武器を持っている人間と持ってない人間、格差が出来ちまうっ。うわ、体育館を支配するつもりかよ、また大きな野望に燃えてやがるなぁ。


「ふむ……それでも遠慮しておこうか。わりぃけど、雑魚をちまちま護衛するのは性にあわねぇ」

「そうかい? それは残念だ」

「全く、残念そうじゃなさそうだけどなぁ」


 そんな事はないさ。と言い去っていく。怖い蛇だ。油断してたら全部を呑み込んじまいそうだ。


「ん? あんたは行かないのか、ヒーロー?」

「いや、行かせてもらう。表に出る準備をしなければいけないからな」


 ヒーローは苦笑を浮かべ去っていく。どうやら、蛇に黙らされたのが結構ショックだったらしい。


 ……運動部を中心とした集団を纏めているヒーロー。

 生徒会が中心の一般集団を纏める蛇。

 そして残った人間を主体とした集団を纏める鷹。

 

 単純な戦闘力ならヒーローだろう、もっとも頭脳的に行動できるのは蛇だ、扱い易いように一箇所に纏められたのが鷹の集団だ……ようはいらない奴らを一箇所に纏めた集団だ。

 

 そして、蛇が全てを支配しようとしていて、ヒーローは皆が助かる道を模索している。鷹は……まぁ雑魚集団のリーダーだ、察してくれ。ってのは冗談で、互いにばらばらすぎて連帯感なんぞ欠片も持ち合わせていない。

 そのうち勝手に瓦解するだろう、と蛇にまるで相手にされていない。ついでに言えば、この状況でもリーダー自体は事なかれ主義で何もしたくないと主張するアホだ。集団として致命的に終わってる。

 

「まぁ俺に取っては、どうでもいいことだ」


 なにせ数葉はどこにも属していない。

 教師ですらそれぞれ係わり合いのある集団に身を寄せているのだが……メリットはないがデメリットは多い。

 ただでさえ嫌われいるのだ、食料を隠そうとしたり襲撃しようとする馬鹿もいたが……そもそも揉めないように3人のリーダーが食料の配分は決めたのだ。

 それを否定し襲えば、集団が瓦解する。……まぁ理解出来ずに襲い掛かって来たアホはそれぞれのリーダーが処分した。鷹は処分出来なかったのだが、二人のリーダーが処分を求めたところ、鷹の集団だった者が勝手に処分した。


「おいおい、ホントに行くんだな」


 呆れが滲んだ声をうっかり漏らしてしまう。もはや愚かという言葉さえ彼らには温いかもしれない。





 

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