第2話 ヒーローのカリスマ!
「このままここで生きていく事は不可能だ!」
「そんな事は分かってるよっ。問題なのはそれをどうするかだ!」
「ふ、2人とも落ち着いて。熱くなったって現状は変わらないんだよ?」
(あん?)
聞こえてきた怒鳴り声に下を覗くと、3人のリーダー格が言い争っていた。
すでにドラゴンの襲撃から三日が経っている。
それぞれのリーダーが台頭しどうするか話合っている。と言ったところか。
(……くそくだらねぇ。おままごとかよ、はっ)
聴こえてくる内容に失笑が漏れる。
この状況下で出来ることなど高がしれている。精々がゾンビ達に侵入されないよう強固なバリケードを造りドラゴンから隠れ潜む、それくらいしか出来る事がない。
つまりあの3人の言い合いは、ただの自己満足でしかなく。
この場での指揮権を誰が取るのか? というくだらない権力闘争でしかない。
確かに、指揮権を統一するのは大切だ。
しかし、そんなものを握ったからと言って全ての生徒が従うわけじゃないし、大人達にとっても納得出来る事ではないだろう。
それにだ、指揮官を手に入れたからと言っても、指揮が出来るかどうか。実戦になってみないと分からない。
この現状では、皆を率いる事が出来る。ってだけじゃ足りない。生き延びる術が必要なのだ。
何かしら分かり易いモノでリーダーをぱぱっと決めて、行動に移した方がまだ有意義だ。どっちにしろ出来る事は何もないのだが。
(まぁ俺にぁ関係ねぇ話だ)
聴こえてくる怒声を背後に、再度ドラゴンへと視線を戻す。
幸い、声は外に漏れていないらしく、ゾンビもドラゴンもこちらにやって来ない。
「来たら終わりだろうけどなぁ、くははっ」
ゾンビがどれほど強いのかは分からないが、監視カメラに映っていた映像から話し合った結果、鈍足で怪力、噛まれるとゾンビになる、あと打たれ強い。
これが全員の共通認識だ。……まぁそこら辺から察するに、奴らは防壁を壊す事が出来ないだろう。
防壁を壊すには力がまるで足りない。軽く見積もっても、1000を超えるゾンビが一度に防壁を叩けば多少へこむ程度だ。
実証されたデータが紙媒体で残されていた。10tトラックが数台まとめて突っ込んできたくらいじゃビクともしないらしい。
人の重さでそこまで到達するには、100人単位で必要となる。それも、トラックのように速度を出す事は出来ないだろう。
それと、俺はゾンビに対して別の見解を持っていた。
ぶっちゃけ映画の影響なのだろうが……ゾンビ共に噛まれたからと言ってゾンビになるのではない。と言う事だ。
なんでそう思ったか? 簡単な話だ。
最初の一匹目が誕生したのは踏み潰された奴がゾンビに変わった者。
その瞬間が監視カメラに映っていたのだ。とは言え、ゾンビの攻撃手段は掴みかかってきてからの噛み付き、そして噛まれれば血が止まらなくなり死に至る。
何故血が止まらなくなるのか、分からないが血の凝固を阻害する何かが唾液にでも含まれているのか。
まぁ噛まれる事でゾンビになるという認識も間違いではない。
だが、この体育館にいる誰かがなんらかの理由で死んだ場合、そいつはどうなる?
死んでから起き上がるまでに10分掛かっていなかった。
下手したらそれだけで壊滅もありえる。
(だからなんだ? って話なんだけどな。俺、ぶっちゃけ嫌われてるし。態々こいつらと行動する理由がないんだわ)
かと言って逃げられる状況でもないから一緒の場所にいるだけ、忘れてはいけない。やばくなったら食料を持ち出して逃げるつもりだ。それようの退路は見つけてある。……逃げた先が安全かどうかは別としてだが。
「――安藤くんっ。どこにいるんだ、安藤くん!」
下から俺を呼ぶ声に舌打ちが漏れる。
先ほど怒鳴り合っていた男の一人が俺を呼んでいるのだ。
厄介者の俺をだ、どう考えても嫌な予感しかしない。しないが、行かないわけにもいかない。
「あいよぉ――っと。呼んだか?」
二階の階段から飛び降り、俺を呼んだと思われる男に話しかける。時間を無駄にするのは趣味じゃねぇ。早く移動出来るならそれに越したことはねぇだろ? ……膝が痛ぇ。
「安藤くん……何度も言っているが、危ないから飛び降りないでくれるかな」
「そりゃ無理ってもんだ。で、ヒーローが俺に何の用で?」
リーダー格の一人、間
実際に数々の伝説を立ててきた男だ。
女の子を襲っていたチンピラグループを壊滅させ、マフィアの若に気に入られたとか、奴に助けられて惚れない女はいない、なんて事も言われている。
周りの評価を本人は全く気にしていないが、まぁカリスマの塊だな。
実際この非常識な事態に、体育館にいる生徒を三分の一は把握している。
恐るべき能力だ。つか、本当に学生か疑いたくなる。……や、俺も人の事言える側の人間じゃねぇけど。
「うん、まあいい。安藤くん、君に頼みたい事があるんだ」
「ほお? ヒーローが俺に? 言っちゃあなんだが、俺に出来る事なんぞ何もないぜ?」
俺に対して、周囲の人間が付けたレッテルは『落ちこぼれの数打ち品』だ。そっから略して数打ちか無能呼ばわりされている。
無論、笑って聞き流している。だって面白いじゃん? 低脳が低脳を馬鹿にする事が。自分と同レベルの相手を見つけて見下す姿が最高に滑稽だ。あぁ笑える。最高に笑えるぜ。
「僕と数人で、戦闘機の残骸を取りに行きたい。何かしら、役に立つ物があるかもしれない」
「止めとけ止めとけ、今の状況に役立つ物なんて何一つねぇよ」
「はぁ? 無能が何言ってんだ? 戦闘機だぞ? 残弾と機関銃があるし、ミサイルだってあるから簡易的な爆弾にもなる。無線機だってある、外部と連絡が取れる可能性があるんだぞ!」
外と連絡が取れると聞いた生徒達が騒ぎ出し、取りに行くしかないという空気が急速に出来ていく。
それを俺は、笑いながら問い返す。
「連絡? 取ってどうすんの? ここだけドラゴンとゾンビの襲撃に遭いましたって? そんなわきゃあねぇよなぁ。
どっから来た戦闘機かはしらねぇけど、あそこまでさっくり落とされたらにゃあ次が来る可能性は薄いよなぁ、来たとしても数日後だろうしよぉ。そもそも俺達を助け出す余裕なんてねぇだろ。
で、ミサイル? 素人が取り外せる物じゃないだろうし、そもそも墜落の衝撃で爆発してる可能性のが高ぇよ。つか機関銃なんて持ち運べねぇだろ、重さを考えろ。重さをな。
ゾンビとダンス踊るにゃあいらない装飾品ばかりだぜ?」
正直、ゾンビとドラゴンが互いに食い合ってる狩場に出るには、俺達人間は弱すぎる事が理由だ。それにこんな場面じゃ、いくらなんでも命を張るべき時じゃない。
鼻で笑いながら全ての希望を断ってやる。
馬鹿が、そもそもこの状況下で出たら死は確実だ。余程優秀な指揮官様か戦闘力をもった者がいなければ無理。
最悪、ゾンビが体育館の中に侵入してくる危険すらある。そうなってしまえばここは終わりだ。外にい連中と同じようにパニック起こして終了だ。
せめてドラゴンが、もう少しゾンビを減らしてくれるのを待つべきだろう。
「む、だが家族の安否を確かめられるのであれば」
「無理だね。どこと繋がってる無線かはしらねぇが、たとえどこと繋がっても家族の安否を確かめるなんて意味の無い行動をしてくれるとは思えねぇな」
俺の言葉に顔色を変えるヒーロー。
「――意味がないだと?」
「落ち着けヒーロー、相手に取って、だよ。俺達に取ってじゃねぇ。
戦闘機なんてもんを持ってる相手だ。どっかしらの軍属だろ、なら上の命令がねぇ状態じゃ動けねぇだろうし、動いたとしても何かしらの裏がある。
組織は個の考えで動けねぇんだぜ?」
「それはっそうだが……」
どこかしら悔しげに顔を歪めるヒーロー。……まぁ家族がいるなら、普通は安否を確認してぇだろうよ。俺には関係ねぇがな。
「まぁ待ちなさい」
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