ゾンビVSファンタジー

くると

第1話 始まりはドラゴンでした


 グォォオオオオオオオッ


 現実にありえない生物の咆哮が、大地を揺らす。 

 それは魂を揺るがせる原初の恐怖。抗える者などいない。


 空中を我が物顔で飛び回る緑のトカゲ――ドラゴンが大量の炎を吐き出し戦闘機を次々と落としていく。


 現実にいるわけのない幻想生物。それが大空に翼を広げ、暴れまわっていた。


正直何が起きたのか、まるで理解できない。空が罅割れたと思ったら、中から全長10mはあろう巨大なトカゲが出てきたのだ。

 しかも出現位置は学校の真上。急激な展開に誰もついていけなかった。


 最初はどうしたものかと困惑してたものの、ドラゴンが校舎の一部に狙いを定め炎を吐き出してきたのだ。そりゃあもうパニックなった。


 我先に逃げ出そうと玄関に殺到する生徒に教師。人が人を踏み潰して逃げていく様は醜い。とても醜い。力の弱い者から友達に殺されていくのだ。必死に手を伸ばし救おうとした奴は、救おうとした女に転ばされ逃げていく人波に呑まれ死んだ。周囲を冷静にしようとした教師は、生徒に殴られ気絶し地面とキスすることになった。まぁ今頃踏み潰されてるだろうけど。


 しかも、パニックはこれだけで終わらなかった。


 いや、ドラゴンはただの始まりに過ぎなかったのだ。

 現実と言う名のルールが幻想へと書き換わる前兆にすぎなかった。


 踏み潰されぐちゃぐちゃになった体の人間が、突如起き上がったのだ! 

 酷い有様だった。

 生きてるわけのない人間だ。数十人の人間に踏まれ、内臓は破裂した状態で腹に開いた穴からあふれ出し、顔は原型を留めておらず一部の頭蓋骨すら見えていた。


 あきらかに死んでいる人間、いや生きていない人間だ。


 だが、その存在に気づくことはなかった。

 

 なぜか? 

 皆逃げるのに必死だったからだ。いちいち死んだ人間なんて覚えていないし、一人の化物が現れたところでドラゴンのインパクトに勝てるわけがない。ドラゴンの方が脅威なのだ。


 ――仮称ゾンビ。


 奴らは人を食らい、その数を増やしていく。

 それに気づいた時には手遅れだった。

 ゾンビの数があまりにも多くなっていたのだ。


 全校生徒三百人の学校だ、教師をはじめとした大人達を入れても四百人には届かない。

 だというのに、少なくとも半数はゾンビになっている。

 なぜわかるか? 簡単な話だ、生き残った生徒達と大人が頑丈な体育館に篭城しているからだ。

 

 戦争を経験した初代校長が建てた学校だ。その中でも体育館は地下+二階建になっている。地下には篭城用の食料が1ヶ月分ある。それも五百人計算でだ。

 ぶっちゃけ二百人もいない現状なら、余裕で2ヶ月は持つだろう。


 問題は、空を飛び回り目に付いた人間やゾンビを食い散らかしていくドラゴンの存在だ。


 今も体育館の二階から外を除いて空を確認していたのだが、飛んできた四機の戦闘機っぽいのをあっさり撃ち落としてしまった。


 機関銃をその身に浴びてもビクともせず、むしろそのまま近づき爪で戦闘機を引き裂いていた。ミサイルを受けても大したダメージになっていない……というより、猫騙しをくらった時みたいに一瞬固まっただけでなんの効果もないようだ。逆に戦闘機が炎を受けて落とされていた。


 その光景を見ていた俺はぽりぽりと喉を掻き、

「どうしたものかなぁ」

 と呟く。


 ちなみに、助かったと思われる173人は運が良かっただけ。

 多いって? 

 そうだな。といってもうちの学校の特色で、地下+二階を全部一度に使うと暑いし混んで大変だしで、一度にまとめて体育を行っているのだ。


 まぁ入れる人数に限りはあるが、それぞれのフロアは余裕で三百人が生活できる広さはあるし、地下にはシャワー室と発電装置、それに給水設備までもがある。

 食料さえあれば生きていける設備が揃っているのだ。


 なんで運が良かったのか? 

 単に体育の授業をしていた連中ってだけだ。


 ドラゴンの襲撃で、異変に気づいた体育教師達が緊急ボタンを押したら体育館の防壁が閉じ、監視カメラが起動し外の光景が伺えるようになった。

 ついでに言えば地下室の食料庫もでてきた。……どうやら初代校長は戦争でよほど辛い目にあったらしい。

 でなければ、ここまで大掛かりな設備は造らないだろう。


「――始まりはドラゴン、パニックの追加でゾンビ。わぉ、どうやって生き残ればいいんだろうなぁおい」


 つか、いくら使ってないとはいえ学校中に監視カメラ仕掛けてあんのかよ、いっそ笑えるな。と呟く。



 どこか冷めた目をしていて、他人を嘲笑っているような皮肉気な笑いを浮かべるこの男――安藤 数葉あんどう かずはがこの物語の主人公である。

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