第7話

 最後のコンサートも成功に終わり、ウルキは達はそれぞれの部屋に戻っていた。バイオリンを綺麗に拭いてしまいながら、明日のことを考える。

 出立の前に別れの挨拶に行こう。別れは辛いが、エナに会えて良かったと一言伝えたかった。

 

 彼女の笑顔を思い出していると、団長から集合の声がかかった。全員が仕事着から私服にかえているため、傍からは不思議な集団に見えることだろう。


「明日の朝にはこの町ともお別れとなる。皆、心残りのないように過ごしなさい。ただし、寝坊は厳禁じゃ。遅れた者は置いていくからそのつもりでな」


「あら、じゃあ今日はこのまま解散ってことね。それならあたしは最後に特産のお酒でも飲んでこようかしら。ライジュン、付き合って頂戴よ」


「いいとも。カナンだけじゃ心配だしねぇ。よさそうな酒場に行ってみよう」


 カナンとライジュンの行き先は酒屋に決定したようだ。ライジュンはのんびりしたみかけによらず酒豪と聞いたことがある。


「えー、いいなぁ。オレも一緒に行きたい」


「酒場にジュースは置いてないからなぁ」


「あんたにはまだ早いわ。お子様は玩具でも探しに行ってらっしゃい」


「なんだよ、子供扱いしてさ。大人って狡いよな」


「そう言うなよチビ助。大人しくしてるなら、オレがちょっと変わった店に連れてってやってもいいぜ?」


「本当?」


 つれない二人にふくれっ面をしたウルキだったが、年の近い兄貴分の申し出に、大きく身を乗り出した。

 しかし乗り気になったウルキとは反対に、カナンは胡乱な眼差しをゾーンに向ける。


「あんた、この子を変なとこに連れてく気じゃないでしょうね?」


「そんなことしねぇよ。あんた等は過保護過ぎんだ。こいつはただのガキじゃねぇ。二年もの間、たった一人で生き抜いてきた男だ。そこらのガキよりよっぽど世間様を知ってんだよ。将来の為にも表と裏の両方を知っといた方がいいだろ」


「一理あるわな。じゃがゾーン、お前さんだってわしから言わせれば、まだまだ子供。余計なことに首を突っ込んで自ら危険な目に合ってほしくはない。この親心を知っておけ」


「へいへい。親父殿は子煩悩だな」


 ゾーンの皮肉も団長はどこ吹く風だ。鬚面でにやりとやって樽のような腹を一叩きする。


「お前達はわしの大事な団員であり、可愛い子供じゃからな。さて、わしは陶器を見に行くからの。なにかあればその辺の骨董屋を探してとくれ」


 心なしかウキウキした様子で団長が輪から離れて行く。元商人の血が騒ぐのか、違う町に行く度に掘り出し物を探しているようなので、今回もそれがお目当てだろう。


「じゃ、あたし達も行きましょ。ウルキ、また後でね」


「あの様子じゃあ、になりそうだなぁ」


 上機嫌なカナンが酒場を求めて歩き出せば、ボヤキながらライジュンも去っていく。二人の酒盛りは夜明けまで続きそうだ。

 残されたウルキは兄貴分を期待の眼差しで見上げる。


「わかってんよ。ちゃんと連れてってやる」


「どこに?」


「行けばわかるさ。──この町の裏側をお前に見せてやるよ」


 ゾーンが親指でコインを弾く。銅のコインは空中でくるくる回転して、手の中に落ちた。手の中に隠されたコインが、表と裏のどちらを向いたのかは、ウルキには見えなかった。

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