第3話

二年前の夏の終わり頃。僕は夜勤明けのあと腹を壊し、それでも眠いので横になったりトイレに行ったりを繰り返した。熱い日だった。僕の体からは水分が少なくなっていった。なんの前触れも無く、右の肩と腰が痛くなった。筋肉痛が激しくなったような痛みだ。

アッー!!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!なんやこれ!雫の毒電波かよ!セックス!せーの、いらっしゃーい!あーあかんなにこれ!誰か助けて!

そして、猛烈な吐き気。とにかく吐く。そして吐いても楽にならない。僕は吐くことが死ぬほど苦手で、死ぬほど辛い行為だった。なんかそういう病気あるらしいじゃないですか。しかしてあの時はもう吐かないとダメだった。それくらいの強い吐き気だった。一通り吐くとまた痛み。当時僕は離れの家の二階。僕はホラーがダメなので想像で書くけれども、エクソシストよろしく階段をのけぞりながら降りた。多分彼女も尿路結石だったんだろう。

外の地面を這いつくばり、母親の居る母屋に到着。そして一言。

「俺は死ぬかもしれん。明らかにおかしい。内蔵と皮膚がひっくり返るような痛みだ」

その後も痛みが続き、もがいてる僕を見た母親がこれはただ事ではないと思ったらしく、救急車を呼んでくれた。緊急隊の人達に体を預けるとあっという間に近くの病院に緊急搬送してくれた。多分救急車初体験だったと思う。しかし人体とは不思議なもので、病院に着くと僕の体は痛みがなくなった。レントゲンやCTをとるも異常は無し。しかし状態から僕は尿路結石と判断された。ゲームセンターCXのイノコMAXのような容姿の医者に、「もう石はないようですが、水分が不足すると小さい石が引っかかることがあります。2000リットル水を飲むようにしてください」と無茶な事を言われ、ニヤリとしながら帰路についた。そんなに飲んだら別な病気になるがな。まあでも良かった。石は居なかったんや。もうアラサーやしいろんな病気も出てくるんやな。これから気をつけよう。

これからでは、遅かった。

似たような痛みが夕飯後また襲ってきたのだ。また同じように床にのたうち回る僕。母親は流石に一日に何度も救急車を呼べないとタクシーを呼んだ。泌尿器科のある大きい病院に行くことになった。タクシーでの移動中も俺はずっと痛い、痛いと言い続けていたらしい。正直その後の記憶はあやふやで所々飛んでいた。気がついたら待合室の長いすに座っていて、かと思いきや床に寝転がって痛さを訴え、待合室にいたおばちゃんにドン引きされ、尻に座薬を入れられたら落ち着いた。明日また来てください、と医者に言われ、取りあえず帰ることになった。母親は運転が出来ないため彼女が迎えに来てくれた。今の妻である。石が繋いだ絆である。ホントか。なんにせよ僕はとても感動していた。自分が弱ると家族の有り難みをとても強く感じる。僕は泣いた。ただただ泣いた。これ以上はJASRAC。昔流行ったよね。

そんなわけ彼女が付き添って付き添ってくれて、同じ病院に行った。結果、石は発見できなかった。厳密には怪しいのがあるけれども、それはまだ形になっていないのと、それが見えるのは左腎のため、これの痛みではない、という話になっていた。座薬をもらって帰る。帰りにはうどんを食べて帰った。あんなにうまいご飯は久しぶりだった。僕は平穏な世界に戻ってきたことを実感していた。しかしそれは偽りの世界だった。

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