第25話 ボツになったルート

【前回までのあらすじ】


 1つのルートがボツになり、そして伝説へ。と思いきや、ナゼかそのルートのシナリオをあすかさんが担当して、全てを書き直す事に。



【もうひとつのルート】


 ベータ版には3つのルートを実装する予定でした。ですが前回書いた通り、最終版を作る過程で様々な問題が発生したのです。今回はそのあたりについて書こうと思います。


 ひとつは自分が担当して、既に完成したルート。これは終わっているので、考えなくていい状態です。ですが、もう1つのルートは担当者がバックレた関係で、あすかさんが担当する事になりました。全て書き直しです。


 苦しむがよい……(^ε^ )


 そして、更にもう1つのルートがあります。そちらも既に完成しつつありました。ですが、大きな問題が出てしまったのです。


 実装水準に満たない


 これについては、皆で協力して問題点を挙げ、具体的な修正案も出してみました。これは重箱の隅をつつく様な指摘ではなく、あくまでも致命的な問題点にのみ絞っての事です。ですが、担当者は「限界まで修正した」と言う事で、作業は終了する事となりました。これは決して担当者が手を抜いたというわけではありません。明らかに本人のスキル的な限界であって、誰も悪くはないのです。担当者が「出来ない」と言うのであれば、それ以上の無理強いは当然出来ません。


 指摘項目の多くについては、それまではOKとされてきた部分でした。なぜなら、それまでは「まだ次のリリースがあるので、その時までに直す」という話になっていたからです。ですが今回は「次」はありません。「丹下学園物語(女性フルボイス版)」これが最終版だからです。


 ですが状況を見た限り、話としての最低限の整合性もとられておらず、各種の伏線も投げっぱなしという状態。その他、文章的な水準など、多くの問題が残る形となってしまいました。


 例えば、単体のシーンを思い描く事は非常に簡単であると言えます。それは普段から、誰もが無意識にしている事だとさえ思うのです。ですが「ひとつの物語」として話を適切に構成して書き切るのは、別次元の難しさがあると思います。


 そのルートを実装すべきかどうか?


 その判断を迫られる事となりました。この手の話はシナリオに限った話ではありませんし、例えばグラフィックであっても同様です。特別な事ではありません。皆が納得してくれないならボツになりますし、ここはそういう場なのです。


 なのですが……。1枚の画像がボツになるのとは、やはり違います。今回は「シナリオ自体がボツになるかどうか?」という話なのです。


 本人のそれまでの頑張りや費やしてきた時間を思うと、どうにかして実装したい気持ちが、自分個人としてはありました。ただ、いずれにせよ自分が勝手に判断する事は出来ないです。そこで、サークル全体としての意思決定に任せる事にしました。規約に沿って、多数決で決めるという事です。


 そして、結果として……そのルートは、ボツになりました。



【覆すという事】


 これで、仮にあすかさんがシナリオを担当しているルートが完成したとしても、ゲーム上には2つのルートしか存在しない事が確定しました。仕方のない事です。誰もがボツになる可能性がありますし、規約に沿って多数決をとった上で決定された事です。何の問題もありません。ちなみに自分もかつて、完成していたシナリオを全ボツにした過去(No.17参照)があります。


 ですが、それでも。色々考えると、何ともやり切れないものがありました。ルートのボツと共に消え去ったヒロイン。そのグラフィックを担当してくれた人は、どう思っているのでしょうか? 理由はどうあれ、ルートがひとつ消え去った責任はオーナーである自分にも当然あると思うのです。「もし多数決を実施しなければ、そのままルートが実装されていたのではないか?」という気持ちもありました。


 それで、多数決の結果が出た時に、自分は皆にお願いをしてみました。


 そのルートを自分が書き直していいか?


 ある意味では、多数決で「ボツ」という結果を導き出してしまったのは自分であるとも言えます。そして実際に、そのルートの破棄が決定されたのです。なのに、更にそれを覆す様な行為でした。


 もしかしたら、そのせいでリリース時期が延期される事態になるかもしれません。そこはどうにかして、間に合う様に話を短くまとめて、必ず書き切るから信用して欲しい。そう話したのです。


 これまでに、何度かプロジェクトの期日を延長してきました。なのに、ここにきて更にリスクを負うのがベターとは思えません。この提案は理論的ではないと自分でも思いました。さて、皆の反応は……。


 あすか「じゃあコッチのルートも書いてよ!」


 ナゼそういう

 発想になる(^ε^ )


 こうして自分は、いま一度シナリオを書く事になりました。皆の迷惑となる可能性もありますが、それでもチャンスを貰ったのです。



【再び、シナリオを】


 その頃、あすかさんはシナリオに苦しんでいました。


 丹下「あれ? 予定より遅れてるネ?」

 あすか「なんかもう吐きそうだよ……」


 門外漢にとって、シナリオというのは想像を遥かに越えた困難が待ち受けていると思います。着手するまでは「自分にも書けそうじゃん?」などと、誰しも一度は思うものです。が、現実はそうではありません。企画内容や仕様にそって、物語を紡ぐ。これは簡単ではありません。自ら挙手したとはいえ、シナリオを担当する事になったあすかさんは大変な思いをしている様子です。


 ところで奇遇ですが、自分も以前に、なぜだかシナリオを担当させられる事になった経緯があります。そうです、あすかさんのおかげで、こうして貴重な経験が出来ました。そして今、あすかさんはシナリオを担当して苦しんでいる。何が言いたいかといいますと、つまり……。


 ワタクシは今、実に

 気分がいい(^ε^ )


 あすかさんは今、当時の自分と同じ苦しみを味わっているワケです。それにしても、グラフィッカなのにシナリオにかじりつくガッツは相当なものだと思います。苦心している様子なものの、投げ出す気配はありませんでした。


 それどころか、気がつけばあすかさんは、シナリオをスクリプト形式で直接記述していました。自分以外で唯一、スクリプトをいじる人間が誕生した事になります。これは本当にあすかさんの努力の結果と言えるでしょう。


 元々は「グラフィッカさんが自分でシナリオを記述する為の簡易スクリプタ」として自分がエンジンを作ったわけですから、ある意味では目的が達成されたとも言えます。ちょっと嬉しいです。


 ですが……。


 それでも、シナリオが「何となく書ける」という事はありえないと自分は思いました。あすかさんが作業を完遂する事は非常に難しいと考えていたのです。自分は涙ながらに祈るのです。皆も、祈ってやってくれ……! あすかさんが、最後まで書き切る事を。


 あすか「オーナー、交代してもらうとかは……」

 丹下「よろしくよ」

 あすか「もうハゲそうだよ」


 あすかさんに限らず、自分も気持ち的には余裕がありませんでした。ゼロから新しくルートを書き起こすのは、技術的というよりは時間的な不安があったからです。ですが、自分で皆にお願いしたワケですから、確実に書き切らなければなりません。何より、自分が投げ出してしまったら……このゲームには、2つのルートしか存在しない事になってしまいます。ベータ版よりもルートが少ないとなれば、何のための最終版でしょうか。


 あすか「なんかもう、行き詰まったよー」


 1ルートに

 なるかもしれん(^ε^ )



【シナリオの書き方?】


 時間的な不安はともかく、ルートを書き直す事自体については、自分としては特に不安はありませんでした。既に1つのルート、それも異様に長いシナリオを書き終えた経験があったからです。


 あすか「今度はどんな話なの? 教えてよ」

 丹下「無難に、ヒロインの留学を阻止する話にする」

 あすか「そっか、ありがちだね~」


 うるせーぞ(゚ε゚ )


「ありがち」という意見はもっともです。ですが優先したのは「手短に、なおかつ確実に書ける」点で、奇をてらった内容は避ける事にしました。


~ ぼくが かんがえた シナリオ ~


 なんか、アレですよ。主人公とヒロインが出逢って、なんつうの? ちょっとずつ仲良くなれたと思ったら、ヒロインが留学!? とかね。主人公は、どうにかしてその問題を解決したい!って頑張るんだけど、最後に大きな葛藤があって、みたいな。だからさ。ね? アレだよ……ほら。ホラッ!


 やべえ、完全に

 ノープラン(^ε^ )


 ですが、それはいつもの事です。ザックリとした流れは出来た(いや出来ていませんが)ので、あとはキャラたちが自然と話し、動いてくれる事を期待するしかないです。とにかく書き出しました。


 あ、大丈夫みたい(゚ε゚;


 書き始めると、キャラたちは勝手に話し、会話を始めました。自分の中で、各キャラの自我が完全に固まっているのを感じます。あとは話の流れに沿う様に、伏線、イベント、原因や理由などを適所に投下するだけです。それと、人間らしい主人公の「葛藤」を入れ込む事も重要な気がします。問題解決!OK!だけでは「ふーん」で終わっちゃう気がしますので……。


「こういう事が起こった場合、このキャラの反応はこうなる」という事が正確に把握できていれば、あとは適切なイベントを設定する事で、キャラの行動をストーリーに沿うように操作出来る、みたいな感覚です。


 あんた何言ってるの?(゚ε゚;


 そう思われるかもしれません……。ふざけているワケではなく、自分がシナリオを書く場合、いつもそんな感じなのです。それで精一杯です。今ではプロット的なものも書きますが、基本は同じ。特に成長していないです。


 で。


 自分の担当したルートは、かなりハイペースで進みました。「慣れ」という部分が非常に大きくて、半月も経たない間に、実に7割ほど進みました。スクリプトで直に演出まで込みで、サクサクと記述を進めていきます。もうサルだった頃の自分ではありません。天国のおばあちゃん、見てるかい? 俺、サルからチンパンジーにレベルアップしたよ……。


 シナリオ関係は少々不安があるものの、開発は静かに進んでいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る