第19話 変化の予兆

【前回までのあらすじ】


 前回の終わりで、盛り上げようと思って無駄に引っ張って書きましたが、実際は大した事ないです! いや、あの……その方が面白いかな?なんて思って、つい……すんません(゚ε゚;



【勝者なき論戦】


 確かに、サークルメンバーの皆には今まで「オーナーに対しては何を言ってもいい」と言ってきました。仲間内で妙な遠慮をする様ではいけない、と。ですが……。


 屋上へ行こうぜ……

 ひさしぶりに……

 きれちまったよ……


 これは、オーナーにあるまじき行為かもしれません。ですが、一刻も早く結論を導き出したかったので、切り込んで話す事にしました。


「このままでは続けられないと言うのに、どうしたら満足なのかは提示して貰えないのですね」

「え?」

「自分は考えても分からないので尋ねたのですが、何も答えてもらえないので」


 もし雑談であれば「楽しい」という意味があります。でも、この手の「目的意識のないやり取り」は完全に時間の無駄だと自分は思うのです。とはいえ、話の決着をつけずに退室すれば「勝手に帰った、逃げた」と思われてしまい、同じ事の繰り返しになってしまいます。ここまできたら、しっかりと最後まで話す他ありません。


「これでは自分には、あなた方がいつ辞めてしまうか想像も出来ない状態です。それでは開発に参加してもらえません。もし作業を担当してくれたとしても、音信不通のリスクが高いので」

「それ、酷くないですか?」

「酷いかどうかは主観でしかないですが、自分は酷くないと思います。それに、論点はそこではないです。今すぐハッキリ決めて下さい。辞めるか、続けるかです。どちらも強制されるモノではないですから」


 その途端に、相手の誰もが発言しなくなりした。ですが、あらゆる作業について義務などありませんし、それは繰り返し説明してきた事なのです。なのに、まさか相手を引き留めるなどという事は、自分は決してしません。


 で。


 他にも沢山話しましたが、それは割愛します。


 やりすぎてしまった……(゚ε゚;


 エンジニア特有の「いかにもメンドクサイ奴がやらかす理詰めトーク」で、あらゆる反論に対応しました。誰も何も言い返せないレベルまで、理詰めで話したのです。ですが、そんな自分の行為が正しいとは全く思いません。大人気ないですし、猛省しました。


 お互いの意見を交換する場において「論戦に勝つ事」を目的としてはいけません。理論だけで話を押し進めるのはタブーです。仮に理論的に正しく、それで相手を論破したとしても、良い結果が得られるはずもないのです。


 ちなみに普段の自分は「適当にやってみよう」というノリの大雑把な人間です。言い訳をさせて頂けるなら、感情論をドサリと目の前に置かれても、時間の無駄にしか思えないといいますか、昔から、そういうのはどうしても苦手で……。


 でっかい袋を押し付けられ、仕方なく中を調べる。何も入っていない。でも、こんなに大きな袋なのだから、きっと何かあるはずだと思い、くまなく調べる。でもやっぱり何も入っていない。伝わらないかもしれませんが、そういう感覚です。これは自分にとっては、すごく辛い事なのです。


 自分は鈍い人間なので、最初からブツを直接手渡して貰えると助かるといいますか……誰しも苦手はあるという事で、できる事なら許して貰えると、ありがたいのです。



【変化の予兆】


 結果から言えば、しばらくして件の人たちはサークルから離脱しました。自分には、2人の不満を解消する事が出来なかったわけです。ですが開発は特に変化なく、普通に動いています。というのも、辞めた人たちは何ら活動をしていないに等しい状態だった為です。


 この時点で「この開発が始まった当初から在籍しているメンバー」は、あすかさん1人だけという事になります。


 それまで常に感じていた事があります。つまり自分は「場違い」なのです。「趣味」と「無償」という前提があり、それが常に目の前に立ち塞がります。「カネ」の存在が大前提であるビジネスの場における、自分のゲーム開発経験。それは大して役に立たなかった、という事です。


 当時の自分には、コダワリとか目指すモノとか、そういうものが一切ありませんでした。必要な作業に気付いた時にはそれとなく対応するだけだし、それが辛いと感じた事もありません。更に言えば、自身の中に何かしらの「モチベーション」が存在したかといえば、完全に何も無かったのです。


 それは今にして思えば異常な事だと思います。全く動機がないのに「何となく」で継続した作業が出来る。何をやりたいとか、やりたくないとか、出来るとか出来ないとか……そういう事を考えるまでもなく「やる」のが、自分の中では普通の事だったのです。だからこそ、それまで活動を継続してこられたのかもしれません。(仕事で感覚が麻痺している部分でもあります)


 ですが、それは自分のスキルが高いからという事ではありません。野生のサルと互角の勝負、そして紙一重で勝利するレベル。そんな自分でも、手を止めなければいつかは作業が終わる……ただ、それだけの事です。つまり、大前提として


 自分はクリエイターではない


 という事だと思います。ただエンジニアとして開発しているだけで、なんというか……。


 ただのオッサン(゚ε゚ )


 ですから、何かを目指したり、高みを望むという事もなく。ただひたすらに、作業をしていただけという……。そんな自分やそれまでの出来事を思い返しつつ、考えてみました。仕事の場合と趣味の場合、開発上で最も異なる部分は何なのかと言えば、


 カネを絡めない


 自分達の場合は、そういう事になります。突き詰めて考えれば、その1点だけです。もちろん、それに付随する形としての差異は沢山ありますが、本質は「カネ」の有無でしかありません。根底は「ごく普通の開発」であって、趣味の開発だから何かが特別という事ではない様にも感じつつありました。


 ならば、カネに絡む部分だけを「趣味の開発」向けに最適化して、組織を矛盾無く運営できないものか?そう思い始めたのです。



【無駄そうだけど考えてみる】


 組織開発の場として、いま少しシステマチックにしたいです。その上で、各自のモチベーションまで高められればベターですが、どうすればいいでしょうか? ヒントを得る為に、それとなく皆に話を聞いてみました。


 くみろい「モチベーションとか自分はあんま変わらんもんで、常に一定だから」


 何の参考にもならねえ(^ε^ )


 ですが、彼には自分と同じにおいを感じます。職種は違えど、自分も同じ気持ちだったからです。自分も常に一定というか、下がるも上がるも実感した事などありません。それがいい事とは思いませんが、感覚の話ゆえにどうしようもないのです。では、あすかさんはどうなのでしょうか?


 あすか「自由にキャラを描けるし楽しいよ!」


 アンタは自由人だな……(^ε^ )


 モチベーションというのは難しいものです。外的要因としては「場が楽しければ高まる」等あるのかもしれません。ですが楽しさの基準は人それぞれで、一概には言えないのです。であれば、誰もが納得出来たり、楽しめたりという事は、結局は不可能なのかもしれません。


 だとしても。せめて「なるべく」皆が納得ができる場にしたい。まず、その為の前提を考えてみる事にしました。



~ 考えタイム開始 ~


「自由に描くのは楽しい」か、そうだよなあ。いずれにしたって無償作業だから、強制されるモノでもないし。じゃあ、「何の義務もない」と。よしOK!


 でも全員が好きにしたら開発が回らないだろうし。それは困るので「開発が停滞しない」と。コレ大切マジで大切。


 オーナーが強権を持っていると誤解されるのも嫌だし、メンバ同士で仲良くできないと大変だから「みんな対等だ」という事で。


~ 考えタイム終了 ~


さて、まとめると以下の様になります。


 ・誰にも何の義務はない

 ・開発が停滞しない

 ・誰もが対等で、なるべく納得できる


 無理すぎる(^ε^ )


 ですが、そこを何とか。無理と言ってしまえば、そもそも自分は「無償で何かするなんて無理」と考えていた人間です。でも、今は違います。人は変わって行くのです、流れる時の中で。きっと分かり合える。なぜなら我々は同じ、宇宙船地球号の乗組員なのだから……。



【ゆるゲ部の鼓動】


 こうして、ある意味で「賭け」に出る事になりました。主に開発ルールについて、丸ごと再検討する事となるのです。それまでの経験などと言えば大袈裟ですが、自分も「趣味の開発」について、少しはスキルが上がっているはずです。そう思いたい。きっとサルからチンパンジーにレベルアップしていると思います。


 わかりにくいレベルアップ(゚ε゚ )


 開発は変わらず進んでいます。そんな中で、今まさに「ゆるいゲーム開発部」が誕生しようとしていました。


 って、今までの話は違うんかい!?

 だったらイラネェじゃん! Σ(゚ε゚ )


 そう怒られてしまうかもしれません。ですが、少なくとも自分には絶対的に必要な経験だったのです。それは、サルからハゲに進化する為に……!


 間違えました、

 チンパンジーでした(゚ε゚ )


 場は、大きな変化を迎えようとしていました。サークルを構成する人の層が代わった事も大きな要因です。やがて少しずつですが、活動の中心となるメンバー層が固まっていく事になりました。

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