第15話 早すぎた出逢い

【前回までのあらすじ】


 グラフィッカのひとりが離脱してしまった関係で、キャラデザを変更する事になったYO! その関係でプロジェクトが遅延すると思うけどゴメンね!(゚ε゚ )hahaha


 ……みんな、仲良くしてネ。同じ宇宙船地球号の仲間じゃないか。



【この件の本質を考える】


 前回の話をご覧になった人の中には、


 危ない状況だったネ(゚ε゚;


 そう思う人もいるかもしれません。ですが、この件については「プロジェクトの危機」ではありません。本質を考えれば、今回のケースは非常に些細な話なのです。これよりも危険度の高い状態が以前にありました。それは「各自がラフ画像ばかりを量産していた時期」の事で、実はそちらの方が遥かに危ない状態だったと言えます。


 メンバーがサークルを離脱するのは自由ですし、それはごく普通の事です。それをイレギュラーの発生と考えるならば、組織開発自体が「イレギュラーの塊」という事になってしまいます。


 まあぶっちゃけ、

 そうなんだけどネ(゚ε゚ )


 もちろん、仲間が1人減ってしまった事は、感情論としては自分も悲しいです。ただし組織開発の観点から見た場合、そこが焦点ではありません。


 キャラデザ変更が発生した


 ただその1点「だけ」がポイントとなります。


 趣味の場において「仕事上では~」と言うのは憚られますが、キャラデザの変更くらいは普通にある事です。問題があるとすれば「それに起因するコスト発生にどう対処するか?」という点であり、それはあすかさんが解決してくれた、という形で落ち着きました。


 ただし、初期からその時点まで、長い間一緒に頑張ってきた仲間が離脱する事。それを初めて経験した人にとっては、大きなショックだったと思います。それに加えて、プロジェクトに遅延が発生する事は必至です。それらについては申し訳ないですし、オーナーとしては謝罪する他ありません。



【謎のグラフィッカー】


 その頃は、たしか「画像BBS」なるものが設置された時期です。これが何かといえば「もし何か協力してくれる人がいるならば、ココにあなたが描いた画像を貼り付けてネ! 主に背景を募集中だヨ!」そんな感じのBBSです。


 平和ボケすぎる(^ε^ )


 今にして思えば、そう思います。これは言うなれば、誰もが食うに困っている荒廃した世界で棒立ちしつつ、


 きっと誰かが何かを食べさせてくれる(゚ε゚ )


 そう言っている様なものです。そんなカモ野郎はモヒカンな人たちに囲まれ、一瞬で身ぐるみを剥がされ、全てを略奪される。「命があるだけ幸運」そんな修羅の世界、それが趣味のゲーム開発の現場なのです。(※注:そんなワケない)


 真面目に書きますと、親切な人は多いです。それに「軽く興味は持っている」という層が存在してくれている様子だったのです。ならば「サークルメンバになる程の気持ちはない、でも少しでいいなら手伝ってやらんでもない」そんな足長おじさんの様な人だって、世の中にはいるかもしれません。


 当時はBGが不足しており、つまり「悪あがき」の一環でした。それで自分も、当初は毎日の様にそのBBSを見に行っていたのですが……。


 俺、何してるの?(^ε^ )


 冷静になって考えると、そんな奇特な人がいるはずもありません。現実を見た自分は、やがてそのBBSをチェックしなくなっていきました。他にもやる事が沢山あるのに、無駄な事をしている場合ではないのです。


 ですが、ある日の事です。何の前触れもなく突然に、BBSに1枚のBGがUPされました。


 ナニコレ!? Σ(゚ε゚ )


 それは学園の校庭でした。BGゆえに絵面としては地味ですが、当時の自分達から見れば、それは圧倒的なクオリティだったのです。例えるなら「黒船の到来」でした。当時のサークルでは、グラフィッカとしてはあすかさんがダントツのクオリティを誇っていましたが、背景は「泣き所」だったのです。


 BBSに投稿された画像を見れば、相当に描き慣れている事が分かります。グラフィッカでない自分から見ても明らかです。一体、何者の仕業なのでしょうか……?


 やがて、その人物から連絡がありました。そして、なんと「サークルメンバ希望」だと言うのです。こんな無名のサークルにナゼ?そう思いつつ、実際にskypeで話を聞かせてもらいました。さて、その人が言うには……。


 ヒロインを描きたい


 こういう明確な目的意識は、作業を完遂する上での重要なファクターとなります。現実には「何となくやってみたい」という人も非常に多く、そして「飽きたからやめる」流れになりがちです。つまり、余程の強い目的意思を持っているか、もしくはスキル的に相当な余裕があるか。そのどちらかでないと、最後まで作業を完遂する事は難しいと思われます。


 まずはこの企画について説明して、大雑把な仕様だけを伝えてその場は終わりました。


 って、もうデータが来てる! Σ(゚ε゚ )


 話してからほんの数日後には、キャラ画像がUPされました。それもラフではなく、全てが清書された状態です。クオリティが非常に高い上に、指定されていたキャラのプロフ欄もしっかりと記入してくれています。客観的に見て、これと同等の水準を保てるグラフィッカーは、当時はあすかさんだけでした。


 奴の名は「くみろい」


 みんなが彼の事を歓迎しました。「くろミィさん、よろしく!」と。ですが……。


 名前、間違ってるぞ(゚ε゚ )



【早すぎた出逢い】


 彼は寡黙な男でした。普段は開発チャット上に姿を現さず、雑談にも参加しません。週に1度の開発会議の時にだけ、skype上に姿を現すのです。そして、その時には確実に成果物をUPしました。基礎データもすぐに完了させて、更には、なぜか仕様にはない「下着姿」まで含まれていました。


 けしからん!もっとお願いします(^ε^ )


 サークルで唯一の男性のグラフィッカという事になります。その為でしょうか。それまでで最も「自分の感覚に近い絵柄」に思えました。仕事でゲームを作っていた頃を思い出させる感じといいますか……それにしても、です。


 この人は、ナゼこんなにも描くのが速いの?(゚ε゚;


 それまでは、あすかさん「だけ」は特別な存在であって「あの水準では描けないのが普通だよね」という空気がグラフィッカ陣にあった様に思います。ですが、あすかさん以上とも言える人が、突然に目の前に現れた形になったのです。


 ふーん、良かったネ(゚ε゚ )


 ここまで読んでくださった人は、そう思うかもしれません。もちろん、これ自体は非常に喜ばしい事です。ですが当時のサークルにとって、彼との出逢いは早すぎたかもしれません。その場のグラフィッカ達は、率直に言ってしまえば「ただの素人さん」なのです。


 この集まりがどんな層の人たちなのか? 振り返れば分かる事ですが「みんなで描いた絵が画面に出るゲームを作ろう」という人たちでしかありません。中には、左向きの顔しか描けない人や、ポーズごとに顔が別人になってしまう人もいます。脚の向きが逆だったり、服にボタンを描けなかったり……ですが、それでいいのです。元々そういう場であって、そこが基準なのですから。気負わずに、各自のカラーを出せればいいのです。


 ですが、そんな皆に対して、彼はあらゆる面で圧倒的すぎました。



【迷走するグラフィッカたち】


 サイヤ人が来たぞ!Σ(゚ε゚ )


 そんな混乱ぶりです。今から書く内容は、少々辛い内容になるかもしれません。ですが、くみろいさんはもちろん、他の人たちも含め、誰が「悪い」という事ではないのです。その点は誤解しないで欲しいと切に願います。


 くみろいさんがサークルに参加した事は、グラフィッカ陣に大きな衝撃を与えました。自分のキャラを描きなおす人、塗りを変える人、キャラデザ自体からやり直す人など様々です。


 みんなやめろ、やめるんだ!

 ダメだ、その先に行くな……!(゚ε゚;


 まず、キャラを描き直した人。結果として、そのコストは無駄になりました。個人の修練としては意味があるかもしれませんが、同じキャラを描き直しても、それで一朝一夕に良くなるはずもありません。結果として、描き直したキャラは自身が期待した程は良くなっていない上に、それでいて基礎データは描き直さなければならない事となりました。これは相当に負荷が高い作業です。やがて、表情差分を全て描き終える前に、本人の気持ちが折れてしまう事に……。


 次に、塗りを変えようとした人。くみろいさんに合わせようとしたワケですが、はっきり言ってしまえば、元の絵の方が質が高いという結果になりました。自身の絵であるにもかかわらず、それはくみろいさんの「劣化コピー」の様になってしまったのです。そこには本人ならではの絵の魅力はなく、ただ不自然さだけが残りました。その後、何度か手をいれるも改善は難しく、やはり心が折れてしまった様子でした。


 そして、キャラデザ自体からやり直した人。描いてみる、でもシックリ来ない気がする。また描いてみる、でもコレでいいのだろうか? そんな葛藤が見て取れました。それを繰り返すうちに、本来の自分の絵を見失ってしまうのでしょうか……やはり、最初の絵が一番クオリティが高いという状態に陥りました。


 そこには「組織開発上のタブー」が存在しています。一度サークルの承認を得たデータを描き直すという行為自体が、本来は大きなNGなのです。それではサークルとしてOKを出した意味がなくなってしまいます。その上「コストが嵩むのに実績値は下がる」という状況になりますので、進行管理自体が麻痺してしまうのです。これは悪循環の入り口と言えます。


 この流れ、どうする?

 どうやって止めれば……?(゚ε゚;


 描き直そうとするグラフィッカさんたちを制止する事は、自分には出来ませんでした。無償活動ですし、自由にやりたいはずです。何より、投げ出すワケではなく「より良くしたい」と頑張っている人を止めるというのは難しい……その姿勢自体は、とても建設的なのです。


 そこで自分は、グラフィッカ統括のあすかさんに頼る事にしました。あすかさんは今、何をしているのでしょうか? この状況を目の当たりにして、きっと今頃は効果的な対策案を練っているに違いありません。


 あすか「胸毛描いてるんだけど、多すぎるかなぁ?」


 君は自由人だな……(^ε^ )


 外界のリアルなグラフィック水準を目の当たりにした為かもしれません。これは自分の勝手な想像であり、実際のところは分からないですが……ただ、この時期に描き直す人が多発したのも事実でした。


 気が付けばくみろいさん自身も、自ら描いたキャラクタのデザインを変更していました。髪の長さが突然に、短くされていたのです。しかも彼の場合は、ポーズ違いや表情差分まで含めて、全てを一瞬で完了させてしまいます。


 この混乱の中で、あえて彼が起こした行動。そこにはグラフィッカとしての意図や思いが込められているはずです。ですが自分には、それが何なのか理解できませんでした。彼には一体、どんな狙いがあるのか……?


 くみろい「長い髪の毛を塗るの面倒になったもんで」


 あんたも自由人か……(^ε^ )


 どうやら彼もまた、かなりフリーダムな性格の様です。


 サークルメンバたちは大きな衝撃を受け、様々な事が起こりました。その後に迎えた、ひとつの結末。それは……?

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