第13話 すぐには解消出来ない不満

【前回までのあらすじ】


 前々回の最後に「シナリオが鬼門である事を痛感させられる事件が起こるのです」とか前振りしたあったのに、前回は特に何も起こりませんでした。ドンマイです。いやあの、書いてるうちにスッカリ忘れて違うネタを差し込んでしまったもので……その件は、後ろに順送りされまして。しまった、全然あらすじじゃないですね。



【あるグラフィッカとの接触】


 今後、シナリオ担当さん達から、新たな画像のリクエストが発生するかもしれません。なので、自分の知り合いのグラフィッカに連絡をして「いよいよとなれば助けてもらおう」という作戦です。


 現状でグラフィッカの数は足りています。つまり、これから接触しようとしている相手はいわゆる「保険」という事になります。これはかなり失礼な行為です。でも彼とは旧知の仲なので、きっと許してくれる事でしょう。大丈夫、自分は彼に貸しがあります。その昔「パックスパワーグローブ」をタダであげた事がありました。だからきっと大丈夫です。(弱い根拠)


 で。


 それは「やなぎー」という人物です。実家がごく近所であり、彼が帰省した時に誘い出しました。そして、そのまま近くのファミレスに行ったのです。さて、現在のサークル状況を説明すると……。


 やなぎー「お前が!? マジかよ! もうとっくに投げ出して、やめてると思ってたわ!」


 俺もそう思う(°ε° )


 その通りです、まさに自分でもそう思います。面倒くさがりな自分が、よくもこの時点まで続けてこられたものだと……自分でも不思議でした。


 さて、どうにかして彼を騙し……いや、違います。巻き込んで……でもなくて。なんでしょう。そうだ、mobキャラを1人頼みましょう。そうして「関係者」にしてしまえば、イザという時にはドサクサに紛れて「コレもどうにか頼むよ」とか、泣きつきやすい形に出来ます。何という狡猾な作戦でしょうか。キレイも汚いもありません、手段を選ぶ余裕はないのです。


 俺は修羅となる(゚ε゚ )


 という事で早速、依頼を開始しました。


 丹下「小学生の女の子を描いてみないかね? お前ロリコンだし、適役だと思うな~」

 やなぎー「はぁ? ……んー、でもなぁ」


 彼の反応は何とも歯切れの悪いものでした。たしかに絵を描く労力は、サルの自分でも相応に理解しているつもりです。ですが、彼の活動歴は20年近いと記憶しています。なのに、たった1キャラを担当する程度の事で、断るでも承諾するでもなく。妙に悩んでいる様子なのです。


 ていうか、ロリコンは否定しないのかね?(゚ε゚;


 彼は「ゲーム向けに描くのは大変だからなぁ」と言います。何を大袈裟な、と思いました。自分は別に、映えるキャラを立ててくれと頼んでいるワケではありません。気軽にmobを1人描かないか?と言っているだけなのです。


 やなぎー「いや、そういう事じゃなくてだな。自分の絵がゲーム上に出るってのは、たとえフリーゲームだとしても本来は『すごい事』なんだぜ?」


 この言葉は、当時の自分にはピンと来ませんでした。つまり、気ままに描いてパッと公開する一枚絵と、ゲーム向けに描く絵では感覚も手間も違う、という話なのです。


 やなぎー「お前も理解しておいた方がいい。その場の連中は、おそらく普段とは一段階違うレベルで気張って描いてるだろうよ。もっとも『まともな絵描き』だったら……って事だけどな」


 そう言って彼はおもむろに席を立つと、そのまま振り返りもせず。ただ背中を向けたままで俺に話しかけました。


 やなぎー「つい喋り過ぎちまったぜ。ま、考えといてやるか……」


 妙に渋い感じのキャラになりましたが、とにかくです。さすが20年近く同人誌を描いているだけの事はあります。何となく深みのある話にも思えました。


 そして最終的には、彼は1キャラを引き受けてくれる話に……! 自分が軽く仕様を言うだけで話が通じる、全てを細かく説明せずとも伝わるというのは、本当に助かるものです。


 でもロリコンだからなぁ(゚ε゚ )



【すぐには解消出来ない不満】


「いつになったら完成するんですか?」


 サークル内では、そんな質問が増えつつありました。一応のスケジュールはあるものの、現実としては、なかなかその通りとは言い難い状態が続いていたのです。停滞はしていないが進行は遅い、そんな状態です。上記の質問をする人の主張としては、


「自分の担当は終わったのに!」


 この1点に尽きます。その人から見れば、当初に予定されていた作業は完了させたわけですから、ごく正当な主張です。難しいのは、当初と今では「話がかなり違ってきた」点です。シナリオ規模も「超短編」ではなく「中編」とされました。そしてシナリオ担当さんの要望を受けて、グラフィックも増える予定となっていたのです。


 だから超短編にしとけっちゅーの!


 そう言われればその通りです。ですが自分がシナリオを書く上で、以下の縛りを設けていました。


 ・全ての画像データを利用する

 ・全キャラを登場させる


 自分がそうしなければ「描いてもらったにも関わらず使われない画像」が多数出てしまう可能性が高かったのです。それでは申し訳ないので、自分だけは必ず全ての画像を使う事を、グラフィッカの皆さんと約束していました。他のライターさんには、そんなお願いなど出来ません。きっと書きたい話やコダワリがあるでしょうから……。


 当時の自分は、市販ゲームの開発に携わった経験しかありませんでした。ゆえに、例えば「5分で終わる」等、フリーゲーム独特ともいえる超短編については、その存在すら全く知らなかったのです。


 ※シナリオは、長編よりも短編を書く方が難しいです。短い中で話を適切に構成した上で、なおかつ満足感や面白さを入れ込めるのは、相当にスキルの高い人だけだと思います。


 当初を考えれば、自分はこの場のオーナーでは無かったわけですが、それは関係ありません。今は(なぜか)自分がオーナーです。メンバーの期待する結果となっていないなら、組織論としては自分の責任と考えるべきです。それぞれ人間ですから不満を持つのは当然ですし、それをオーナーである自分に向けるのは正しいです。むしろ、そうして貰わないと困ります。


 何に不満があるのか? それを解決する為には「適切な相手に伝えるべき」だと自分は思うのです。少なくともメンバー間でゴチャゴチャと話しても、意味がありませんので。オーナーにガッツリと言いましょう。……いや、出来ればなるべく優しく言って下さいお願いします……。僕らは同じ宇宙船地球号の仲間じゃないか! なので、なにとぞソフトにお願い致します。


 この話は「即時的に解決できない」内容です。その時点ではまだ、シナリオが完了するメドがついていませんでした。こうなれば、気が引けますが仕方ありません。この状況では、もはや『アレ』をやるしかない……! そう思いました。


 自分はついに、各自の不満について力づくで抑え込む事にしました。出来れば、理不尽な手段は使いたくありません。自分も人の子ですから、酷い仕打ちはしたくないのです。ですが場を収める為には、もうやるしかありませんでした。



【超謝罪ラッシュ】


「お前、ひたすら謝ってるワリには人の話を聞いちゃいねえだろ」的な大技です。相手が文字を打つよりも早く、それはやがて、光の速さを越えて……! 謝罪します。skypeでは、相手の入力中に「鉛筆のアイコン」が表示されますが、その状態でも待つ事をせず、圧倒的な入力速度で強引に謝罪の言葉を割り込ませ、謝るスタイルです。


 技能の上級者は、相手が入力中の言葉をモニタ上からスキャンする力を持ちます。「先回り謝罪」さえ可能という事です。やがて、相手がskype入力中の鉛筆のアイコンは、フッと消える事でしょう。


 OK、今回はこのくらいに

 しておいてやる……(゚ε゚;


 自分も含め、まだ一部のグラフィッカとライターは作業をしているのです。特にシナリオについては、時には担当者が考え込んでしまう事も見受けられました。趣味で楽しむ場ですし、ビジネス的に「急いで進めてくれ」というのは違う気がします。


 正直に言えば、その頃には既に他のライターさんよりも、自分の方がシナリオを書ける状態になっていました。実際、自分のシナリオは完了間近でしたが、まだ終わりが見えていないライターさんも多かったのです。


 確度の高いスケジュールを再提示するには、いま少し時間が必要な状況だと判断しました。協力して欲しいとまでは言えません。ここはせめて「待ってもらう」様にお願いする他ないのです。


 こんな状態でギリギリのラインではあるものの、どうにか開発が維持されている状態でした。ですが……ついに、大きな事件が起こるのです。

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