第10話 企画書が無い!

【前回までのあらすじ】


 なぜか自分がシナリオまで担当する流れに。そんな意図は全くなかったはずが……。



【企画書】


 こうして色々あったものの、とりあえず目先に待ち構えていた「プロジェクト瓦解」の危機は免れました。ですが、それは一時的なものであって、状況が好転したワケではありません。この時点で人的リソース不足に陥っているのは、以下の2種類の担当です。


 ・サウンド

 ・シナリオ


 サウンドはこの時点では不在でも構わないです。それよりも前回の話の引き続きで「シナリオ担当の不在」これが最大のピンチでした。ナゼか自分がシナリオ担当みたいな空気になってしまいましたが、さすがにそれは無理なので……。


 サウンド全般については、フリー素材を拝借する事が可能だと思います。ですが、シナリオは……そうもいかない気がします。というのは、本来であれば「シナリオが存在して、それに対してグラフィックを用意する」はずですが、今回の件では「既にグラフィックが存在している」のです。


 つまり、キャラにあわせたシナリオを用意しなければなりませんが、シナリオ担当がいない状態。このままでは開発が全く進みません。状況を見るに、この案件を無事に軟着陸させるのは非常に困難に思えます。


 エンジンが故障した旅客機を

 不時着させる感覚(゚ε゚;


 組織開発において「停滞」は死に直結します。動きがなければ、簡単に瓦解してしまうものです。これは、あらゆる組織に当てはまる事かもしれません。そんな状態の中で、唯一のシナリオ担当が自分です。言うなれば「希望の星」ですね!


 死にたい(^ε^ )


 どう考えても自分には無理です。そこで考えました。


 画像データの進捗としては、既に終わりが見えている状態です。あとはシナリオさえあれば、スクリプトに起こすのは簡単です。こうなってしまった以上、思い切って人の募集をしてみるのもアリではないか?


 このあたりは、最終的にはあすかさんに提案をするべきです。が、その前に。まずは自分でリアルに考えてみました。


  ……あ、ダメじゃん!(゚ε゚;


 やがて致命的な問題に気付きました。今の状態では募集をかける事が出来ないのです。今まで散々作業をしてきておいて何ですが、


  企画書がない(^ε^ )


「この程度の開発に、企画書なんていらないっしょ~!」などと能天気に話していた過去を思い出しました。当時の自分をぶん殴りたいです。ですが、そもそもの企画自体がフワッとしたモノでしたし、自分は企画者ではないのです。


 既に開発に突入している自分たちにとっては、さほど企画書は重要ではないです。企画書自体について言えば、開発サイドに必要なドキュメントというよりも、プレゼンに利用する為の物だからですね。


 ですが本来であれば「企画書」は非常に重要であって、それが「無い」という状況は考えられません。これから新たに外部の人を迎えるのであれば、概要をスムーズに理解してもらう為にも必要です。募集をかける前に気付いたのは不幸中の幸いでした。まさに今このタイミングで、この件は消化しなければなりません。


 丹下「……ってワケで企画書が必要だと思うよ」

 あすか「なるほど~。それって書いた事ある?」

 丹下「仕事で簡単なモノなら書くけど……」

 あすか「良かった~よろしくよ!」


 良くねえよ(^ε^ )


 とはいえ、誰かしらが先陣を切って、現状の企画を視覚化しなければなりません。人を募集する為には必須です。募集しなければシナリオ不足は解消されず、このままシナリオ担当は自分という事になります。それは自分的に困ります。でも企画書を書いてくれそうな人は見当たらない……。


 どうやっても、自分が企画書を

 書く事が避けられない仕組み!

 ナニコレ!? Σ(゚ε゚ )


 面倒といえば面倒ですが、救いはありました。それは、相応にグラフィックが出揃っていた事です。それらを利用すれば、とりあえずの企画書程度ならサラリと作れるはずです。適当に画像を貼り付けて誤魔化せば……そんなインチキくさいノリで、作業を始めました。


 Excelを利用して、そこに各キャラの画像を貼り付けたり、プロフ情報を添えてみたり。そしてゲーム画面のイメージをペタリ。システム的には何の変哲もないADVでありノベル風なモノですから、何の事はありません。あとは大雑把なストーリ概要と「ツカミ」的な説明が欲しいです。


 仮にゲーム上に様々なルートがあるとしても、普通は企画として「基準になるシナリオの概要」程度は存在するものです。でも現状では、そもそも企画担当がいないので、シナリオ概要もクソも存在しないです。


 ひど過ぎる(^ε^ )


 ですが。そういえば以前の会議で、自分が場の内容を大雑把にまとめた記憶があります。議事録をとるのも自分の役目だったからです。議事録なんて地味な作業でしたが、救われる事になりました。それを読み返しつつ、ある程度は企画っぽく見える様に、大幅に加筆・修正しました。こうして企画書っぽいモノが即興で作られたのです。


【人を募集しよう!】


 これでようやく、本当の目的を進められます。それは当然「シナリオ担当・サウンド担当の募集」に他なりません。会議のタイミングで皆に相談した結果、募集を実施する事になりました。計画通りです。あとは、あすかさんに募集をかけてもらえばOKです。


 あすか「なんか難しそうだし、よろしくよ」


 この反応。もはや自分としては「やっぱり……」という感じで、予想はしていました。でも今回は大丈夫です、このまま終わりにはしません。自分としても、事前に「無茶ぶりを回避する策」を考えておいたのです。


 丹下「募集って重要な事だし、企画担当やサークルのオーナーが募集をかけるのが一般的みたいだからさ!」


 完璧です、完璧すぎる返しです。これならば、あすかさんが自分で募集をかける他ないでしょう。そう思っていたのですが、ここで全く予想外の返しをされました。


 あすか「そうなんだ。それじゃ企画担当になった事だし、ついでにオーナーもよろしくよ」


  ……?(゚ε゚ )


 自分は知らぬ間に、企画担当になっていた様子です。確かに企画書は書きましたが、でもアレはドキュメントが存在していなかったから無理矢理作っただけです。「ついでにオーナーも」というのも、明らかに色々とおかしいです。


 なんかヤバイ(^ε^ )


 そうは思ったのですが……。ただ、この集まりは元々が「開発が終わったら解散」という取り決めになっていました。ゆえに「オーナー」といっても、せいぜい2~3ヶ月の話だと思われたのです。今さら少しくらい雑用が増えても、もはや「大差が無い」状況とも言えます。なので、引き受ける事にしました。


 ですが……。


 この後「様々な問題」が噴出する事になろうとは、その時の自分には想像さえ出来ていないのでした。

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