第8話 行き詰まり

【前回までのあらすじ】


 誰もシナリオやスクリプトに着手しようとしない事に気づいたり。いわゆる停滞期?



【それぞれの主張】


 そして会議の日。自分はそれとなく、皆の状況を伺いました。自分にその権利があるかは分からないですが、状況を明らかにしない事にはどうにもならないのです。結果としては、各自から以下の様な主張がなされました。


「もう自分のキャラは描き終わったからする事がない」


 あの、で、でもさ……そうは言っても、シナリオがないので。そちらはどんな感じなのでしょうか?(゚ε゚;


「シナリオなんて書かないですよ」


 そうですね! 皆、グラフィッカですからね。でも各自で書くという話だったし、書かないと進まないので。ごく短いシナリオに挑戦とかは……? あ、そんな気は無いですか、はい(゚ε゚;


「それより、まだ絵が終わってない人は早くして下さい」


 まあそう言わずに、気を長く待ってあげて欲しいといいますか……。それより、待っている間にシナリオ……は、書かないですよね! 当然ですよ、なんでグラフィッカなのにシナリオを書かなきゃならんのだ!っていう話ですよね。ホント、その通りです!


 どういう事なの……?(゚ε゚;


 ここに来て、まさかの新事実が発覚しました。何という事でしょう。皆が口を揃えて「シナリオは書かない」と言うのです。一体何が起こったのでしょうか? キャラの設定については、当時は皆があれほどまでコダワリ抜いていたのに……。


 その当時、つまり設定を考えている時は楽しかった。だけど実際にシナリオを書こうとしても無理だった。シナリオなんて日本語が書ければどうにかなるんでしょ?という軽い気持ちだったけれど、実際に挑戦したら全く歯が立たなかった。つまりは、そういう事だと思われます。


 これで、以前に会議で話し合って決めたシナリオ担当の件は、事実上「破棄」された事になります。本来であれば、決め事を覆す場合には「理由」を提示すべきです。ですが、それについては誰も言及しようとしません。


「もう自分の作業はない」


 各自がその一点張りなのです。そこには当事者意識が存在しません。これは「無償で作業する」場として考えた場合、非常に深刻です。報酬がないのだから、当事者意識がなければそれで終わりという事になります。それに加えて


「遅れてる人のせいで完成しない」


 という苦情にも似た意見。でも有志が集まって趣味で始めた開発ですし、そんな風に冷たく言わなくても……。これが発展すれば険悪なムードになりますし、アッサリとチームが瓦解する可能性もあります。組織開発において、誰かを責める事で事態が好転する事などありません。そうではなく「問題を解決する為に、いかに仲間同士でフォローし合えるか?」これが組織開発のキモになります。


 それと、現実としては「グラフィックの遅れ」が問題ではありません。シナリオが無い事の方が、よほど差し迫って深刻な問題なのです。本当は皆、その事を理解しているはずです。が、それでも「自分がシナリオを書く」と名乗り出る人は1人もいませんでした。それは自分も例外ではありません。活字嫌いな自分にとって、シナリオは遠い世界の話なのです。


 やらないと言う人に無理強いする事は出来ません。作業に対して対価が支払われる事はないので「強制される」スジはないのです。それでは趣味ではなく「無賃労働」になってしまいます。


 たしかに、自らシナリオを書くと宣言した当時の皆は本心で「自分でやる!」と思っていたはずです。でもスキル的に出来なかったし、今となっては活動自体に飽きてしまった。それが現実なのです。


 結果「やらされている」感覚になっている。その事は、言葉の端々から感じ取れます。そんな行き詰まりをどうにか解消出来ればいいのですが、自分には何も出来ません。自分は何かを判断する立場でもないですし、シナリオを担当するスキルも無いからです。ただのお手伝いプログラマーでしかありません。


 この局面を目の当たりにして、リーダー的存在のあすかさんはどう判断を下すのでしょうか?


 1)外部に向けてシナリオ担当を募集

 2)説得して、皆でシナリオに再挑戦

 3)プロジェクトの終了・解散


 まず1)ですが、無名で何の実績もないサークルに参加してくれる人が、果たして簡単に見つかるでしょうか? ちなみに自分がこのプロジェクトに呼ばれてOKしたのは、あすかさんという信頼できる知り合いに頼まれたからです。そうでなければ確実に断っていますし、それが普通だと思うのです。


 2)は状況を見るに、絶望的な様子です。であれば、もはや選択の余地もないというか、最も現実的なのは3)であると自分は思いました。ですが、そんな自分のチッポケな予想などは無意味だったのです。あすかさんから思わぬ言葉が飛び出しました!


 あすか「シナリオ、オラ書いてみたよ!」


 その言葉を聞いて、自分は本当に驚きました。あすかさんは、今まで常に画像を描いてはUPし続けていたのです。なのに、まさかシナリオまで着手していたとは……!


 自身の行動をもって道を示す。それは決して、簡単な事ではないのです。こういう人にこそ、チームを牽引していく資質があるのかもしれません。思わず胸が熱くなりました。


 あすか「でも無理だったから、やめちゃったw」

 丹下「あ、そうですか……」


 だったら黙ってろ(^ε^ )


 とんだぬか喜びでした。とはいえ、グラフィッカであるにも関わらずシナリオに挑戦するだけ「ガッツがある」と言えます。スキル的な問題で完遂は出来なかったとの事ですが、それは仕方がない事かもしれません。整合性のとれた「ひとつの物語」を書き上げるというのは、実際には簡単な事ではないのです。



【状況を打開する為に】


 何とも言えない行き詰まり感が漂います。その場は「何か考えよう」という話になり、うやむやな感じで解散となったものの……。


 シナリオかぁ(゚ε゚;


 それまでは、自分には全く無関係な領域だと思っていた事もあって、リアルに考えた事がありませんでした。もし仕事であれば、まずは各自のスキルを判断した上で、作業に対して確度の高い担当者をアサイン、スケジューリングします。ごく基本的な話です。なのに自分は、その事を事前にあすかさんにアドバイス出来なかったわけです。


 この程度の開発にそこまでは必要ない


 自分がそんな浅はかな考え方をしていた証拠です。作業を甘く見積もってしまった……そう思うと自分自身に対して、何とも言えない気持ちになりました。「自分はちょっとしたお手伝いだから」という無責任な感覚があったのも事実でしょう。


 こうして問題が出た以上は、本来ならばリーダーのあすかさんが早急に打開策を検討して、皆に方針を提示する必要があります。でも、あすかさんは今まで常に画像を描き続けて来ました。その時点で稼働率が極めて高い、数少ないグラフィッカだったのです。それはデータ数を見ても一目瞭然でした。ずっと頑張り続けてきたし、サボっていたワケではありません。


 なのに、たたみかける様に「今すぐ解決策を打ち出さないとダメになる」という現実を突きつけるのは、あまりにも酷だと思いました。自分は相談に乗るくらいしか出来ませんが、軽く声をかけてみる事に。


 丹下「大変だね、俺に出来る事があれば……」

 あすか「ん? なにが?」


 状況を理解してねえ(^ε^ )


 ここは自分自身、反省の意味も込めて……「自分に何か出来ないか」と考える事にしました。その結果、もう少し具体的なサンプルスクリプトを作ってみる事を思いついたのです。その際、プロトタイプ的なものではなく、よりゲームシナリオ的な形として、出来ればゲーム的な要素も入れ込んでみる。その程度なら自分1人でも出来そうです。


 より「ゲーム」に近いもので、セリフを喋るキャラを見れば、皆も触発されるかもしれない。そんな目論見のもと、自分はシナリオ的な何かを書き始めました。でも、気は重いです。嫌な予感しかしません。サンプル程度とはいえ、まさか自分がシナリオを書くとは……どこまで出来るか、自分でも想像すら出来ませんでした。

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