第7話 停滞期

【前回までのあらすじ】


 各自のコダワリが見え始めたり。画像データやキャラクタ設定などが順調に作られていって、順調に見える時期ですが、しかし……!?



【プロトタイプのお披露目】


 プロジェクトに参加している皆としては「実際のゲームってどんな雰囲気なの?」と気になっているはずです。なので、とりあえず自分が仮のスクリプトを組みまして、皆に見せる事にしました。この時点では、まだラフ状態のキャラがほとんどで、背景も仮画像だったりします。シナリオもまだ存在していません。ですが、まずは「ゲームが起動する」という事を見てもらおうと思いました。


「え!? どうして背景が実写なの!?」

「『サンプル』っていう大きな文字は何ですか?」

「もっとカワイイ感じを想像してました……」


 いや、あのですね……(゚ε゚;


 各種データ類は当然、後で実データに差し替える予定です。ですが、いきなり実写の背景やキャラのラフ画像、素っ気無いプロトタイプを見せられた皆としては、少々驚いた様子でした。


 なるほど、と思いました。たしかに、こういった事が初めてだとしたら当然の反応かもしれません。そこで、あすかさんに説明を任せる事にしました。リーダー的存在のあすかさんから、皆に安心する様に言ってもらうのが一番でしょう。


 あすか「選択肢の背景が真っ黒なのってショボくない?」


 アンタも皆と同じ反応かよ! Σ(゚ε゚ )


 という事で、心配させたままでは申し訳ないので、慌てて「それっぽい」データに差し替えました。普通の人は「見た目=完成率」と感じるのが当然なので、そこはプログラマ側が相手の感覚に歩み寄るべきだと思います。



【表示されるキャラたち】


 その後、各キャラについて表情差分まで出揃いつつある状況になりました。これで基礎データは完了したという事になります。正直に言えば、全てのキャラが上手いとは言えません。グラフィッカごとに、画像の水準的なバラつきが非常に大きいのです。でも、それでいいのです。これはビジネスではないのですから。


 「自分達で作っている」という事を強く実感してもらうために、それらをゲーム上に表示する事にしました。自分がごく小さなスクリプトを組んで、男女1キャラずつ、並べて表示される様にしてみたのです。画面にキャラが表示される、ただそれだけの事で皆は喜んでくれました。それは良かったのですが……。


 あれ!? Σ(゚ε゚;


 それを見て、自分は言葉を失いました。別々のグラフィッカが描いたキャラを並べて表示したら、自分の想像を遥かに超えた違和感があったのです。お互いが違和感を際立たせてしまうというか、かなりキツイ状態です。


 「いくら何でもこれは致命的だ」と自分は思いました。でも、だからと言って「ボツです、描き直してネ」なんて事は、さすがに言えません。これは明らかに、自分の見通しが甘かったせいです。頭がクラクラしました。どうしよう!? 申し訳なさすぎる……。


 その事に気付いていないのか、気にならないのか、それともあえて触れないのか。それは分かりませんが、皆は普通に喜んでくれている様に見えます。ですが、いずれにしてもこのままではダメです。いや、でもだからと言ってその場で「これはダメだ」とは、自分には言える気がしません。


 どうする? どうすればいい……?(゚ε゚;


 困り果てた自分は、嫌な汗をかきつつ間抜けにグループチャットを眺めるだけでした。すると、あすかさんの発言が目に入って来たのです。


 あすか「なんかヘンじゃない? 複数キャラを同時に表示するのはやめとこうよ」


 天才現る! Σ(゚ε゚ )


 単純な話です。なのに自分には、その発想がありませんでした。「複数キャラを同時に表示して当然」という頭しかなかったのです。よし、これで問題クリア! ……なのでしょうか? 何か違う気もしますが、そういう事にしましょう。



【役目を終えた自分】


 これで「あとはスクリプトを書けば紙芝居になる」という事は皆に伝わったはずです。不明な点があれば質問してもらえれば、自分が軽くフォローする程度で大丈夫でしょう。グラフィッカさんの集団なので、キャラを増やしたりBGを追加したりは問題ないはずです。


 ちょっと寂しい気もする(゚ε゚ )


 こうして、自分の役目は終わりました。時には面倒に思った事もありましたが、思い返せば色々と楽しかった。素直にそう思いました。



【最後に】


 その後、ゲームを無事に完成させた皆は「ふりーむ!」様に登録したとの事で、その連絡を受けた自分は早速ダウンロードしました。決してクオリティが高いとは言えません。でも、皆のあたたかさを感じます。自分は当時の事を振り返りながらプレイしつつ、チョッピリ嬉しい気持ちになるのでした。(おわり)


 ……という事になれば良かったのですが、現実は厳しいものでした。



【停滞期】


 その後1ヶ月が経過しても、スクリプトの実装は進んでいない様子です。というよりも……誰一人としてスクリプトに着手していません。いや、それよりも根本的な話として、


 シナリオ自体が未着手状態?(゚ε゚;


 皆が何をしているかと言えば、日々、自由にラフを描いている様子です。そんな中、あすかさんを含めたごく一部の人だけが、ゲーム用のキャラやBGを描いている状態です。自分はその様子を眺めていて、妙な状況に気付きました。


 量産されるラフ画像


 それらのほとんどが開発中のゲームとは無関係なモノでした。なので当然、清書される事もありません。さながら「お絵かき掲示板」的なノリになってきました。


 実はこれは、かなり深刻な状態なのです。「作業する人・しない人」という形に二極化が進めば、そこから不平不満が生じて、いずれは人同士の大きな軋轢に発展しやすい。直球で言うなら、これはプロジェクト失敗の一歩手前。既にカウントダウンに突入している状態です。ですがおそらく、その場の誰も、その事を自覚していないでしょう。雰囲気が悪いわけではありません。


 飽きた、という事か……(゚ε゚;


 自分がそう理解するまでに、時間はかかりませんでした。でもそれは回避する事が難しい、いわば運命の様なものです。未経験、そして無報酬の作業。となれば、仕方の無い事かもしれません。


 ゲーム開発の実際は、あまりにも「地味」なのです。


 なのに、即時的に成果物を手に出来ない。であれば、手ぶらのままで地味な作業を継続できる人の方が変わり者とさえ言えます。ゆえに不慣れチームの場合、重要なのは「短期間で完成する」規模のプロジェクトにすべきという事になります。そういう意味では、このプロジェクトは短いシナリオを書くという話でしたから、すぐに終わると予想されていたのですが……誰もシナリオに着手していません。


 たしかに自分も、スクリプトエンジンのプログラムを完成させた後は何もする事がなくて遊び呆けていました。それでも言わせてもらえるなら、自分に対する依頼は全て消化済みなのです。


 自分は悪くないぞ(゚ε゚ )


 無責任な言い草ではありますが、自分はただのお手伝いなのです。ゲームを作りたいワケでもありませんし、このままこの活動が消え失せても、自分的には何ら痛くないです。せいぜい、後であすかさんに「完成させたかったなぁ」なんて愚痴られる程度で話は終わりでしょう。


 皆がもの凄い勢いで加熱していき、思いのほかアッサリと冷めていく。その過程を眺める事となりました。もう自分に出来る事は何もありません。なので、明日からはMMORPGを始める事にしようと思います。


「俺たちの戦いはこれからだ!」


 長い間応援ありがとうございました。

 次回作にご期待ください。


(おわり)



 でもなぁ……(゚ε゚ )


 「本当に、これでいいのだろうか?」突然にそんな気持ちが、自分の中に沸き起こりました。これは自分としても想定外であり、驚いたのですが……。たしかに、頼まれた作業をしていた時は「メンドウだなぁ」と思ったのも本音です。だけど、楽しさもあったのです。


 近々、開発会議があります。自分が「チェックする」と言うのはおこがましいですが、一度、皆の状況を確認してみよう。そう決心しました。


 つい半月前までは、開発はすこぶる順調だったのです。今はたまたま皆が忙しいだけなのかもしれません。少なくとも、皆の「作りたい」という熱意は、自分より遥かに強かったはずです。それは、過去の会話を思い出してみれば明らかな事で……。


 「よろしくよ」しか思い出せない(^ε^ )


 冗談はさておき。あすかさんをはじめとして、皆さん、本当に気のいい人たちです。開発の停滞には、何かしらの理由があるはずです。そこを明確にすれば、開発は進むはずです。そう自分はそう考えました。


 ですが、話はそんなに簡単ではなかったのです。

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