第2話 開発前の準備

【前回までのあらすじ】


 暇人だった自分が、あすかさんからフワッとした内容の依頼をされて、気がついたら作業を請け負う感じになっていた。らしい。たぶん。



【まずはインフラの整備】


 こうして自分は「複数人でゲーム的な何かを作る」らしい話に、ちょっとだけ関わる形になりました。でもこの時点で、何ら具体的な内容は見えていません。


 この状況で、プログラマとして自分が助力できる事があるとすれば、せいぜい開発環境についてが関の山でした。複数人でひとつの何かを作る。大袈裟に言えば、これも「組織開発」なのです。となれば、それなりの環境が必要となります。


 滞りのない意思疎通とデータ共有、そして進行管理。ビジネスの場では常識として、普通にこなしていた事です。が、それを今回の話と重ねるのは無理があります。あすかさんの話によれば、その場の皆様は初めてゲームを作るらしいのです。しかも物理的には、各自がバラバラの場所に存在している。そういった事を踏まえた上で、状況に即したインフラが必要になると思いました。


 まず、意思疎通について。これには以下の2つが最低限必要になると考えました。


 ・リアルタイム性の高いもの(即時会話的に利用)

 ・静的、恒久的なもの(関係者全員への告知に利用)


  あ、既になんかメンドクサイ(゚ε゚;


 ちょっと考えただけで、早くも自分の気持ちが折れそうです。そうです、自分は基本的に面倒くさがりなのです。とはいえ、これはクリアすべき課題ですし、避けて通れません。このあたりについて現状はどうしているのかを、あすかさんに聞いてみました。すると、そこの皆様は某コミュニティやらskypeやら利用しているとの事です。


  ほう、何だかちょっと楽しそう(゚ε゚ )


 当時の自分にとって、skypeは「仕事の道具」というイメージでした。コンタクトリストにズラリと並ぶ、仕事関係の面々。ですが皆様の場合は、仲間内でskypeを活用してチャットしたり、時には通話を楽しんでいるとの事です。そういう使い方など一切していなかった自分としては、軽いカルチャーショックを受けました。


 既に仲間内にskypeが普及しているなら、後はパスワード制のBBSなどがあれば便利かもしれない。そう思い、あすかさんに提案しました。


 あすか「え? それってホームページの事?」

 丹下「いや、ただのレンタル掲示板ですな。でも確かに、ホームページくらいは作った方がいいかもね」

 あすか「そうだね~、よろしくよ!」


  え……!? Σ(゚ε゚ )


 それって、自分が用意しちゃっていいモノなの!? とは思ったのですが。話によれば皆様、PC関係に疎い人が多い様子です。なので、話の流れで自分が「仮」のホームページを設置する事になりました。それ自体は大した手間ではありませんし、後で誰かが適当に修正してくれればいいかな?くらいのノリです。


 ※サークルのホームページは絶対にあった方がいいです。仮でも何でも構わないので、まずは作ってしまうのがオススメ。その後、少しずつ手を加えて整備していけばいいと自分は思います。


 次に「データの共有」ですが、コレについては「DropBox」をオススメしました。最も簡単で気楽な手段のひとつだと思ったからです。適当にサーバを立てて昔ながらのFTP、というのも考えましたが、それも大袈裟な気がします。何より、PC操作に不慣れな人に説明をするのが大変なので……。


 こうして組織開発に必須と思われる最低限のインフラを整えつつ、その都度、skype上で皆様に軽く使い方を説明しました。ですが、ほとんど反応が返ってきません。


  伝わっているのだろうか……?(゚ε゚;


 最初はかなり心配しました。が、しばらくすると、各自が気ままに描いたラフ画像がDropBox上にUPされる様になったのです。これは眺めていて、不思議な楽しさがあります。各自が絵を描きUPされる様子が、手に取る様に分かるのです。


  「動き始めた」って雰囲気!(^ε^ )


 ですが当然「雰囲気」だけでは開発は進みません。この時点ではまだ雲を掴むような話です。「何を作るか」つまり企画案について、具体的な部分が何も決まっていない様子でした。完全にゼロからのスタートという感じです。地道に決めていく必要があります。


 では、この集まりは、誰がイニシアチブを握っているのでしょうか? 場の雰囲気を見た限り、どうやら「みんなで話し合って決めていこう」という状態でした。「お友達同士で仲良く決めよう」というノリで、あすかさんも場を仕切るという感覚ではない様子です。


 ですが……。


 いきなり話をひっくり返す様で、自分には口に出来なかった事がありました。本来「企画案をみんなで決める」はタブーなのです。それがどういう意味かと言えば……。


 たしかに「みんなで~」という響きは柔らかいし、人に優しい様に思います。でも実際は逆で、デメリットも大きい。責任の所在が曖昧になりがちですし、もし各自の意見が分かれた時に、全体としての意思決定が難しくなります。


 開発の大元になる企画案は、誰かしら責任者を立てないと危険です。いないのであれば、それをチームの代表が担うのもアリかもしれません。いずれにせよ「チームの代表」を立てる必要があります。ですがココで、


  代表って偉い人っぽくない? やってみたいな!


 そう思った人は、非常に大きな誤解をしています。仮に自分が「出資」して何かを依頼している形であれば、自身の意向を強く打ち出せるでしょう。ですが今回は、そういう場ではないのです。


 こういった同好会的な場での「代表」は、場のイニシアチブを握りつつも私情を挟まず、ひたすら全体の意見を集約する事になります。というより、それ以上は出来ないワケです。指針を打ち出す事があったとしても、それを強行する権利はありません。誰しも「出資者」ではないからです。


 正直な話、出資できる環境の方が楽かもしれないです。なぜなら、これは言い換えれば「自分の意見は通せない、でも組織の責任は請け負う立場」になるからです。つまり「代表」とは……!


  皆様のしもべ(゚ε゚ )


 ハッキリ言ってしまえば、コレは楽しくない立場だと思います。この点について言うならば、仕事の方が気楽かもしれません。どんな作業でも「依頼主」と「請け負う側」の間にお金を挟み、「契約」を成立させる。実にシンプルです。「タダより安いモノはない」という言葉は真実だと思います。


  あ、なんか面白くなってきた!(^ε^ )


 内心、自分はちょっとほくそ笑みました。なぜなら、あすかさんが責任者になるのは明白だったからです。となれば、初めての組織開発で「人をまとめるのって、思ったより大変なんだねぇ」などと愚痴る姿が目に浮かびます。毎回の様に自分に無茶ぶりをしてきたあすかさんも、これで少しは反省する事でしょう。


 が、それが全くの見当違いだった事を、自分は思い知らされる事になるのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る