buying time

@mimic0523

日常の終わり

第1話 動きだす時計の針

 陽だまりの温かい初夏。雨上がりのアスファルトが蒸発して斑に染まる午後2時。こんなにも平和を感じる瞬間ときがあるのだろうか。

 

 レジの前、人が3人やっと入れるほどのスペースに俺は肘を付け惰眠だみんを貪る。俺はあくびをし、商店街を通るちびっ子をその大きく開かない目で見詰めていた。

 

 。これが俺にとっての当たり前の休日。高2になってまだ少ししか経っていない(体感には個人差がある)が青春やラブコメと言ったことは全く縁もなく、両親が買い物に行っている間に自分の家である『ハカリ時計店』の店番をして一日を終える。誰もこの店に入ってくるわけじゃないのだけれど。

 

 と、そこに一本の電話が鳴る。俺はあまり電話は好きではない。それにこの店は電話サービスなぞ行っていない。一応電話番号は掲示しているがこんなチンケで古びた店に一体誰が電話をかけるのだろうか。

商店街の人なら普通に歩いてくればいいし、電気代ガス代等も延滞してる話は聞かない。それにこの番号は今まで見たこと無い。きっとなんかのセールスとかに違いないと、俺は電話を無視して壁にかかるお気に入りの時計を見つめた。

 

 目の前の店の自動ドアから聞こえる入店音、休日に商店街に買い物に行くおばさん達の話声、威勢のいい八百屋のおじいちゃんの手を叩く音。そして一定のタイミングで細かく音を刻む時計。聴くだけで一日が充実していると実感する。そろそろ両親が帰ってきてもいい頃なのではなのだろうか。

 

 

 車の音。少し離れた大型スーパーから帰ってきた両親の車の音ではない。音が低いのできっと大型の車両なのだろう。この辺りも少しずつ衰退と発展を繰り返している。荷物の輸送とか引っ越しとかそんなとこだろう。なんて思っていた矢先だった。

 

 その車はハカリ時計店の側で止まった。サイレンの鳴らない消防車はたらくくるま。誰かが家にでも火放ったか?それにしても煙の臭いも漂って来ないし、大体何故俺のみせの前に止めたのだろう。悪行をした覚えはない。なんて思いながら俺には関係ない、と_____

 

そのまま消防隊員だと思われる奴二人が店を覗き込む。まさか本当にこの店に用があるのか?

 「君が計人君かな?」 

 「あ、はいそうですけど」

 冷静を装い対処する。と言う事は俺に用があって来たということなのか?親ではなく?

 

 少しパニックになる。消防隊員は焦った顔をしているからだ。少し身体に悪寒が走った。

 「…俺何かしましたか?」

 日が後ろから差す。眩しいほどの光に相手の顔は逆光で見えなくなっていく。

 

 「ちょっと落ち着いて聞いてほしい」

 

 高2のとある初夏の事。

 少し暑くて雨上がりの今日に_____

 「君のお父さんとお母さんが近くで………」

 

 ______両親が俺と店を残して死んだ。

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