第3話


「それでは男ばっかりで盛り上がりに欠けますが!藤堂君の入社を祝って乾杯~!」


沖田さんが率先して音頭を取ると、僕たちはそれぞれにグラスを傾けた。

真白さんは斜め向かいで沖田さんと話しながらビールを煽っている。僕は運ばれてきた料理を並べながらウーロンハイを飲んでいた。


「藤堂ちゃんってさ」

「あ、はい」


隣の四条さんが初っ端からプリンを食べつつ話しかけてきた。


「ゲイなの?」

「え・・・はっ?!ち、違いますよ!」

「なーんだ、違うんだ」


この人はいきなりなんてことを言い出すんだ。ちらりと真白さんの方を盗み見ると、こちらに気付かず沖田さんと話している。どうやら今の会話は聞こえてなかったらしい。


「・・・な、なんでそう思ったんですか」

「だって藤堂ちゃん白ちゃんのこと好きでしょ」


きょとんとした四条さんを尻目に僕の顔はぶわっと赤くなる。


「ち、違いますよ!」

「そーなの?てっきり良く白ちゃんの世話やいてるし側に引っ付いてるから好きなのかと思った」


カーッと体が熱くなるのがわかった。熱さを紛らわす為にグラスに残ったお酒をぐびぐび流し込む。


「男を好きになったことは、ないです」

「ふーん、でも男女関係なく白ちゃん可愛いもんね。あの白い首筋とかガブってやりたい」


何を物騒な事を言ってるんだ、この人は。

確かに真白さんの肌は白くてツルツルで柔らかそうで、凄く触りたくなるけど。


「四条さんは、その・・・真白さんのことが好きなんですか?」

「んー、白ちゃんのことは大好きだけどそういうのとは違うかな〜。どっちかっていうとぎゅーってして守ってたい感じ」

「あはは、わかります」

「でも藤堂ちゃん自覚してないなら早く気づいた方がいいよ」


そう言うなり四条さんは沖田さんを呼んだ。


「沖ちゃん、ちょっと話したいから藤堂ちゃんと席交換してよ」

「ちょっ!四条さんっ!」

「あぁ、いいよー」


そして四条さんに半ば強引に促され、僕は真白さんの隣に座った。


真白さんは特に気にする様子もなく水割りを飲んでいる。


「あの、何か食べますか?」

「・・・唐揚げ」

「わかりました」


確かに真白さんは可愛い。物凄く可愛い。でもそれだけで意識し始めた訳じゃない。この人の持っている才能とかセンスとか憧れとか。そういうのが積もり積もって今僕の中は真白さんのことでいっぱいになっている。


「またお肉ばっかり食べてる!ちゃんと野菜も食べて下さいよ」


1人だとちゃんと生きれなそうなとことか。

よく考えれば僕は最近真白さんのことしか考えていない。

四条さんの言う通り好きだと自覚するのは案外簡単だった。


「俺は野菜は食わん主義だ」

「またそんなこと言って。真白さん偏食だから心配してるんですよ」

「うるさい。だったら代わりにお前が食えばいいだろう」


そう言うと先に来ていたサラダからレタスを取り僕の口に押し込んだ。真白さんは満足そうに笑い、空のグラスを差し出す。


「ウイスキーロック」


それからというもの飲むわ飲むわ、あっという間に1時間でグラスが5つも空いた。グラスが空く度に真白さんの体は僕の方に傾いてくる。酔った真白さんは兎に角たちが悪かった。

僕のシャツを引っ張るわ、無理やり食べ物を口にいれてくるわ。それでも好きだと意識してしまったせいでそんな行動さえ可愛く思えてしまう。これは末期だ。


正面に座っている沖田さんと四条さんはというと、大惨事になっているこちらの様子を見ながらにやにやと焼き鳥を食べている。


「全く、真白の飲み方は32歳とはおもえないよね。まるで大学生みたい」

「本当白ちゃん酒癖最悪だからね~。俺隣じゃなくて良かった~」


畜生、さてはこの人たち真白さんの酒癖が悪いの分かってて止めなかったな・・・っていうか、


「は・・・えっ!?真白さんって32歳なんですか?!」

「うっるさい!耳元で大声出すな。それに32で悪いか!どうせ童顔って言いたいんだろう」


全くその通りです。まさか自分より10歳以上も上だとは思わなかった。

真白さんはムッとしながらウイスキーの入ったグラスを傾けている。その顔はお酒のせいか赤らんでいて、いつもよりグッと色っぽさが増していた。潤んだ瞳とか濡れた唇とか超エロい。

僕は自分の理性を保つために数学の方程式を心の中で唱える。


「真白さん!もうウーロン茶にしましょう!今頼みますから・・・っ」

「いらん。まだまだ全然酔ってなんか・・・うわっ」


反論しようとする側からバランスを崩し、グラスに残っていたお酒が見事に真白さんのスラックスにかかった。


「あーあー!もう、言わんこっちゃない!そのまま動かないで下さいね」


テーブルの上にあるおしぼりで軽く拭くが、既にスラックスからはウイスキー独特の香りが立ち込める。

お酒を零したのが余程気に入らないのか、真白さんはブスッとしてそのまま口を開かなくなった。


「このままじゃスラックスダメになっちゃいます。真白さんの家ってこの近くですか?」

「・・・」

「真白の家ならここから車で30分位だよ」


喋らない本人の代わりに沖田さんが答える。

その時僕は何を思ったのか、気づいた時には真白さんの手を取り立ち上がっていた。


「僕の家ここからすぐのとこなんで、とりあえずうち行きましょう。沖田さん、四条さんお先に失礼します」

「うん、真白をよろしくね」

「藤堂ちゃん頑張って~」

「ちょっ!別に俺は・・・っ」

「いいですから!黙って付いて来て下さい」


僕のいつにもない強気な口調に、真白さんはそれ以上何も言わずただ後を付いてきた。

今思えばなんであんなに強気でいれたんだろう。お酒の力というのは本当に恐ろしい。


結局繋がれた右手は家に着くまで離されることはなかった。


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