かすみ草の牛乳屋さん

「牛乳屋さんの家にはね、かすみ草がたくさん咲いてるの。」

幼稚園生の時に この話を初めて聞いて、ときめいたのを覚えてる。


白い壁に、ちょこんと青色の屋根を乗っけた牛乳屋さんが、一面のかすみ草畑の中にポツンと建っている。頭の中にぽかんと浮かんだその景色は、牛乳屋さんの白と、かすみ草の紫のコントラストが、おとぎ話のようで心くすぐった。


その頃はまだ、かすみ草の存在を知らなかったのだけれど、

語感から、薄く透き通った紫色が連想されて以来、

わたしの中でかすみ草は紫色の花を咲かせるものなのだと決まってしまった。

はかなげな白い花を咲かせる植物なのだと知った今でなお、

「かすみ草」と聞くと、真っ先に紫色が思い浮かぶのだから仕方ない。



牛乳屋さんの話が出るのは、母と祖母が話している時だけ。

「牛乳屋さん」というのは、祖母の弟のことで、千葉だかどっかで牛乳屋さんを営んでいたらしい。

わたしが生まれてくる前に亡くなってしまったから、彼がどんな顔をしていて、どんな風に話すのかは知らない。


わたしが彼の人間味を感じ取れるのは、

「私のことが大好きで、いつも後ろをついてきてた」と祖母が自慢気に話す時だけだ。

あえて、私もそれ以上は聞かない。下手に聞くと、私の中の牛乳屋さんの景色が崩れてしまうような気がして。


でも、きっと彼は私と気が合うんじゃないかな。

真っ白の牛乳屋さんに、紫色のかすみ草。

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