第117話
六
重力制御装置により〈御舟〉は局所的な重力勾配を作り出し、急速に宇宙空間へと脱出した。
僅かの間に〈御船〉の速度は一秒間に八里の距離を飛ぶ第三宇宙速度に達していた。
これほどの加速に関わらず、船内には加速度というのは感じられない。操舵室の時姫も、円形の台に閉じ込められている甚左衛門も、この奇跡ともいえる超科学の成果を実感することは一切なかった。
──充分に発達した科学は、魔法と区別がつかない──
〈御舟〉は藍月の軌道に近づく。〈御舟〉の
時姫は操舵室で厳然と頷いた。
「それでは、始めましょう……皆の者!」
それまで腰を下ろしていた船長席から立ち上がる。
「藍月へ針路をとりなさい!」
さっと手を挙げ、操舵室の受像機に見える藍月を指し示す。
〈御舟〉は真っ直ぐに藍月へ進んでいった。
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