第32話

  六

「そやつらは、ぜんまいわらびなどを探していたのだな?」

 頷いた時太郎を凝視しながら、三郎太は腕を組んだ。

 お花に呼ばれ、三郎太は長老の住まいに姿を現した。三郎太の後ろに、河童淵の主だった河童が集まり、座り込んでいる。長老がついでに他の河童にも聞かせたいと、集めたのだ。

「それは、山師だ。金山を探していたのだ。山見立ての際、羊歯の仲間の草を山師は、まず最初に探すと聞いた覚えがある」

 ぽかんとしている時太郎とお花に、三郎太は苦笑した。

「ああ、おまえたちはきんや貴金属を見たことがなかったのだな。金や白金、巴金パラジウム老金ロジウム衣金イリジウム了金ルテニウム我金オスミウムという七金属は人間の世界で、最高の価値を持つとされるものだ。人間は、これら七金属のためなら、何でもする」

 一気にまくしたて、はっと口を噤む。

 時太郎は呆然となっていた。

 父親の三郎太は時々こうなる。溢れ出る知識が忘我の状態となり、その時ばかりは時太郎は父が見知らぬ別人に見えるのだ。

 その時、長老が口を挟んだ。

「この界隈で、そのような草が目立つほど生えている場所というと……」

 河童たちは顔を見合わせた。

 みな、同時にある場所が思い当たったようだった。

「水虎さま……」

 一人が呟くと、その場にいた全員が大きく頷きあった。

「そうじゃ! この辺りで、羊歯がわんさか生えているといえば、あそこしかないわい」

「あそこに人間が入り込むなど、許されることではない!」

「まったくじゃ! これは何とかせぬと……」

 河童たちは口々に言い合う。その言い合いが早口になり、甲高くなり、しまいには人間には聞き取れない高音域にずれこんでいく。

 びりびりと長老の洞窟の岩壁が震動し始め、ぼろぼろと小さな破片が剥落し始めた。

「やめい! みな、静かにせんか!」

 長老の一喝に、ぴたりと静まった。

「ともかく、その人間どもの動向を探る必要がある! 万一ということもある。水虎さまの場所に、皆を集めよ!」

 長老の言葉に、全員立ち上がった。ぞろぞろと出て行って、河童淵の全員に長老の言葉を伝えに行く。

 残された時太郎とお花に向かい、長老は笑いかけた。

「今度のことは、お前たちが報せてくれたのだから、一緒に水虎さまの場所まで従いていっても良いぞ!」

 時太郎とお花は「はい」と素直に頭を下げた。

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