第26話

  五

 闇の中を、三郎太は河童淵に急いでいた。腕には、産着にくるまれた息子の時太郎を抱いている。

 時太郎は泣きもせず、父の腕に抱かれている。

 時姫──。

 三郎太は悲痛な瞳を、燃え上がっている山寺に向けていた。

 ひしひしとした囲みを見て、源二は素早く判断を下したのだ。

「三郎太、それがしは時太郎を守れ!」

 え、と顔を上げた三郎太に向かって、源二は早口に説明した。

「姫と時太郎、二人が同時に逃げることは無理じゃ! それより、おぬしが時太郎一人を守り、逃げてくれれば、わしが姫さまを守り易い。あとで落ち合う場所を決めておけばよいではないか? 姫、いかがでおわす?」

 源二の尋ねに時姫はうなずいた。

「妾は、源二の決定に従いましょう。三郎太殿、どうか時太郎をお守りくだされ!」

 それで三郎太は河童淵へ急いでいるのだ。

 河童淵に辿り着けば、時太郎は安全だ。時太郎を預けて、落ち合い場所へ戻るつもりである。

 闇の中を飛ぶように駈け、三郎太は一心に河童淵を目指していた。

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