第27話
河童淵
一
「謝れっ!」
「いやだっ! 何で、おめえに謝らなければならねえ?」
「おれを〝土掘り〟と呼んだろ。おれは、河童の時太郎だ!」
「嘘だ! おめえは〝土掘り〟だ。なんで、おめえが河童の一人であるもんか!」
畜生っ! と叫んで、陽に焼けた真っ黒な肌の少年が、濃い緑色の肌をした同じくらいの年頃の河童に飛び掛かった。
たちまち取っ組み合いが始まる。
周りには、年頃も様々な河童の少年たちが目を輝かせて二人の喧嘩を見守っていた。
取っ組み合っている二人は、下帯一つの、ほとんど裸である。地面は濡れていて、二人の身体はすぐ泥だらけになる。
陽に焼けた少年のほうがやや体が大きく、体重も上回っているようだ。対する河童の少年は、ひょろひょろに痩せていて、とても相手になるような体格ではない。
が、二人の勝負は、ほとんど互角のようだ。
いや、河童のほうがやや優勢になっている。たちまち陽に焼けたほうを組み敷いて、腕を捩じ上げる。尖った口先を相手の耳もとに近づけ、ゆっくりと言い聞かせる。
「おめえは〝土掘り〟だよ。おめえに〈水話〉ができるか?」
勝ち誇ったように、にたりと笑った。
腕を捩じ上げられている少年は、利かん気そうな表情をした、人間の男の子だった。〈水話〉ができるか、と尋ねられ、悔しそうな表情を浮かべる。
「だけど、おれは、お前らの〈水話〉を聞き取ることができるぞ。〝土掘り〟に、そんな芸当、できるのか?」
へっ、と河童の少年は笑った。腕を離し、とんと肩を叩いた。
「それが〝土掘り〟じゃねえ証拠にはならねえな……。おめえに、おれたちの〝皿〟があるか? 背中の甲羅は、どうだ? なんにもねえ! おめえは〝土掘り〟だよ。時太郎ちゃん!」
捲し立て、けらけらと甲高い笑い声を上げる。周りの河童たちも、からかいに唱和して笑い声を立てた。
畜生……と、時太郎と呼ばれた少年は両拳を固めた。顔を真っ赤に染め、怒りを堪えて、その場を立ち去る。
河童の甲高い笑い声は、いつまでも続いていた。
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