第三章
私の部屋は私のものではなかった。
彼らは便利だからと私の部屋に集ってきて、どんちゃん騒ぎを始める。それは不定期のため、なおさら私に安息などなかった。いつ彼らがやってくるか分からず恐怖する日々。
「警察に言えば、もっと酷いことをしてやる」と脅され、それを私は間に受けていた。
自殺することはもう決心していたが、何か人生に爪痕を残したかった。私は生き様よりも死に様を大切にしたかった。
彼らを殺す勇気はなかった。彼らは私にとって‘地震’に等しかった。人間の私にはどうすることもできなかった。
ある日、神様は私に死ぬ理由を与えてくださった。
久しぶりに大好きな夜景を見に行った帰り、私は隣人にレイプされた。
ことが済んだ後、私は放心してそのまま眠ってしまった。そして、夢を見た。神様が目の前に立っていて、私に言った。「彼を任せました」と。
目を覚ました私は、拘束が緩んでいることに気づいて、簡単に抜け出した。そっと起きて台所まで忍び足で進み、包丁を手にした。
「神様、私を彼に会わせてくれてありがとう」と呟いた。
私は、残虐非道な彼をこの世から抹殺するために生まれてきたのだと確信した。
しかし、私は人生で初めてわがままなことを思ってしまった。単純に彼を殺すだけでは私の気が晴れない。
「神様、私の最初で最後のわがままです。どうかお許しください」
私は包丁を置き、買い物に出かけた。
私の計画は楽観的な観測に基づく単純な計画だった。
まずは観測の話から。人を見た目で判断するのは好きではないけど、彼は一人ぼっち特有の雰囲気だった。私もそうだから感覚的に分かる。
そして、計画の方は、その状態につけこむことだった。うまくいくかは分からないけれど、彼を私にゾッコンさせる。私が希望の光として最高に輝いた瞬間にこの世から私は消える。そうやって、彼を絶望のどん底にまで叩き落して自殺させる。
うまくいくかは分からないけど、成功したらきっと最高の笑顔で死ぬことができると思う。
計画は予想を超えるほどうまくいった。私は自分がしてほしいことを彼にするだけでよかった。それは夢をもたせること。私がいないと成立しない理想の世界を彼に見せ続けること。
すると、彼は単純にその夢の虜になっていった。彼は信者で私は神になった。
それならば、私に慈悲というものが生まれたかというと、そんなものはまったくなかった。むしろ、私は彼をつくづく矮小で無価値な人間だと思うようになった。
彼が大学や会社で成功することは私をイラつかせるだけだった。なぜあんな男が順調な人生を歩めるのか。
そんなことを思っていても彼はまったく気づかなかった。私が言葉の端々に彼への嘲笑を示しても、彼は私の愛を‘盲目的に’信じた。
そうだ。私の演技が素晴らしかったのではなく、彼が目を閉じていてくれるから、この計画は成功したのだ。いかに酷い劇だろうと、観客がみな眠っていれば、ミスなど存在しないのだ。いかに腐敗した政治家だろうと、誰も興味を示さなければ、清廉潔白なのだ。
計画通り、私は飛び降りた。夜景がとても美しかった。
最高な気分で、心の底から笑いが込み上げてきた。
私は落ちているはずなのに、天国に向かって飛翔している気分だった。さあ、あとはあなたが死ぬのを雲の上から見下ろすだけ。
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