結果オーライ?
「……うう、ん」
「気が付きましたか! 良かった……っ!」
意識を失っていたポチ子さんが目覚めたことに、私は安堵の息を吐きました。
良かった。本当に良かったですよ。
何せ、私達が乗ったままの状態でカトリーヌが走り出したと思ったら、そのままポチ子さんを勢いよく撥ね飛ばしてしまった……言わば、私とミアちゃんは人身事故の加害者側ということになってしまいます。この世界の法律でどの程度の罪に問われるのかは不明ですが、被害者が他所のお国の王族という点を考慮すると、決して軽い沙汰にはならないでしょう。
それにしても、よく無事でいてくれたものです。
死角から受け身も取れずに激突して、そのまま二十メートルくらいは吹っ飛んでましたからね。カトリーヌのパワーも凄まじいですが、ポチ子さんの頑丈さも凄まじい。いえ、素晴らしい。魔法も使っていなかったはずなのですが、もしかすると獣人は元々身体が丈夫なのでしょうか。
「あら、貴女は……リコさん。あの、私どうしたのでしょう? それに、ここは?」
「ああ、ここはですね」
気絶したポチ子さんをそのまま放っておくわけにもいきません。
都合の良いことに彼女は顔が隠れるようなフード付きのローブを着ていたので、周囲から見えないように梱包した上でカトリーヌに積んで、ミアちゃんのお屋敷まで連れてきたのです。なるべく人気のない道を選んだので、誰にも見られてはいないはず。
まるで轢き逃げ犯が目撃者がいないのをいいことに被害者を始末してしまうような流れですが、これはあくまで保護と治療を目的とした行動です。
言わば、我々は善意の第三者。
……いえ、言葉の使い方が間違っている自覚はありますよ? ですが、なんとも好都合なことに、ポチ子さんは気絶した時の詳細は覚えていない様子。人気の無い裏道で倒れていた彼女を偶然見かけた我々が、顔見知りのよしみで助けたのだということにしてしまう。善意の第三者を装うのが吉と見ました。
なので、ここがどこかという問いには正直に答えましたが、それ以外の疑問に関しては知らぬ存ぜぬを貫き通す必要があります。素直な良い子であるミアちゃんはとても心苦しそうな表情をしていましたが、ここばかりは正直に言うわけにもいきません。
「まあ、そうなのですか。ご親切にありがとうございます」
それに世間知らずの箱入り度合いではミアちゃん以上と思われるポチ子さんは、私の説明をまるで疑わずにすんなり受け入れてくれました。目を覚ましたばかりで思考力が鈍っているであろう点を鑑みても、こうもすんなり納得されると心配になりますね。将来、悪い奴に騙されないといいのですけれど。
え、私がその悪い奴?
ははは、そんなまさか。
◆◆◆
「私が倒れていた理由ですが……恐らく、逃げている途中で旧王派の暗殺者に襲われたのでしょう。きっと、リコさんたちが通りかかったからトドメを刺す前にその場を離れることを優先したのでしょうね」
いいえ、違います。貴女が倒れていたのは、私達を乗せたカトリーヌが思い切り撥ね飛ばしたからですよ……と、正直に答えるわけにもいきません。
「なんと、そうなんですか。危ないところでした! いやぁ、許せませんね! おのれ、卑劣な犯人め! 私がその場にいたらひっ捕らえてやりましたとも、ええ!」
「は、はあ……」
適当に話を合わせるついでに、我々の罪をその架空の犯人になすり付けておくことにしましょう。私はさも義憤に燃えているかのようなフリをしました。ミアちゃんはさっきから私の後ろでとても申し訳なさそうな顔をしています。後で口裏を合わせるように念を押しておかねば。
まあ、それは良いとして暗殺者とは……。
例の神様経由で知ってはいましたけれど物騒な話です。
そもそも、お姫様がお付きの人も連れずに一人で逃げていたという時点で明らかに尋常な状況ではありません。事態は我々が考えていたよりも相当に切羽詰っていたようです。
「……おや?」
しかし、考えようによっては今の状況は意外と悪くないかもしれません。
そもそもが轢き逃げの隠蔽目的だったとはいえ、ポチ子さんがこのお屋敷にいることは、この場にいる我々以外は誰も知りません。あと数日、このまま監禁……もとい、彼女を密かに保護してしまえば、それで神様からのオーダーは労せず達成ということになるのでは?
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