聖痕
「ほほう、結構調整が利くみたいですね、コレ」
目が覚めたら皮膚に浮かび上がっていた文字、いわゆる聖痕っていうんでしたかね?
例の神様が送りつけてきたらしきメッセージは、淡く発光しながら体表を蠢いていましたが、幸い人目に触れないように調整することは出来るようで。「このままでは何かと不便そうだな」と思ったら、追加で取り扱い説明書……的な文章が浮かび上がってきたのです。
アフターケアが行き届いている点に感謝すべきか、それとも根本的な部分の間違いを指摘すべきかは微妙なところですね。
まあ、それはさておき、この聖痕は私の意思に従って色を薄くしたり、文字のフォントを変更したり、言語翻訳機能が搭載されていたり、それ以外にもいくつかの操作が出来るようです。基本的にはPCの文章作成ソフトのような感じでしょうか。
基本的にインドア派の私ですが、体育の授業などで人前で着替えることはありますし、文字色を透明にすれば他人からは見えなくなるのは素直にありがたいですね。夏休み中にはっちゃけてタトゥーを入れたとか思われるのはイヤですし(それ以前に退学の危機ですよ。流石に中学中退は御免被ります)、普段は透明にしておくのが賢明でしょう。
また、最初のデフォルト設定だと平仮名だけで読みにくかったのですが、漢字変換も可能なようです。そのおかげで神様からのメッセージも読みやすくなりました。
そして、恐らく神様的にはオマケで付けた機能だと思うのですが、受信したメッセージを表示するだけではなく、私の意思で文字を入力することも出来るみたいです。
その上、入力した文字を自由に動かせるようで、私の身体だけでなく他者の皮膚や床や壁、家具などにも文字を表示させることができました。どの程度の距離まで動かせるのかは、後で検証する必要がありそうですが。
どうやら空中に文字を投影することはできないようですが、試しにアラビア語変換させた適当な文章を、赤黒く明滅させながら足下の床に円形に展開してみると、あら不思議。まるでファンタジー系のアニメに出てきそうな魔法陣のようです。
正直、私の心の奥底に眠っていた中二ゴコロが思いっきりくすぐられる演出です。いえ、まだ中一なんですけどニュアンス的に。
「ふふふ、なんだかちゃんとした魔法使いっぽいですね」
「え、そうかなぁ?」
「そうなんです。こういうのでいいんですよ、こういうので」
この世界で一般的な「魔法」のイメージとはかけ離れているのでミアちゃんはピンと来ていないようですが、私にとってはこっちのほうがマッチョになるだけのアレより余程カッコよく感じられます。
まあ、問題があるとすれば、ただ文字を表示する以外には何の効果もない点でしょうかね。ドッキリやイタズラ以外には到底役立ちそうにありません。
遊びに使う分には面白そうですし、ビジュアル的には私が求めていた魔法らしさに近いので文句はありませんが、荒事に巻き込まれたら結局は筋肉で物理的に解決するしかないでしょう。
ちなみに、どうして荒事に巻き込まれることを想定しているのかと申しますと、それには理由がありました。まあ、神様からのメッセージの一番最初に大文字で書かれていたのを読んだだけなのですが。
『将来、この世界の発展に重要な役割を果たす獣人国の姫が命を狙われている。どうにかして帰国するまで暗殺者から守り抜くべし。礼はする』
何度か読み返してみましたが、簡潔な文章ゆえに別の解釈は出来そうもありません……やっぱりフラグが立っていたようです。そんな予感はしていたので驚きより納得のほうが大きいですが。
まあ、見知らぬ他人ならともかく、既に知り合っているポチ子さんを見殺しにするのは寝覚めが悪い。それでも根拠が私の勘だけなら見ないフリを貫いたかもしれませんが、こうして神様からの直接オーダーが下った以上は、もはや関わらざるを得ないのでしょう。
出来れば昨日までのように平和に異世界観光を楽しみたかったのですが、こうなった以上は仕方ありません。頭を切り替えてどうにかするしかないでしょう。
それに、神様のお礼というのも気になりますしね。
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