連絡手段
「うぅむ……朝?」
真っ白い謎空間で筋トレのついでのように用件を告げられ、気付いた時には元々寝ていたベッドの中でした。 すぐ目の前ではミアちゃんがスヤスヤと穏やかな寝息を立てています。なんだか顔が近い気もしますが多分偶然でしょう。
窓とカーテンの隙間から差し込む日差しの感じからすると、どうやら日が昇り始めて間もない早朝のようですね。
「それにしても……」
アレは本当に現実の出来事だったのでしょうか?
いえ、夢だとしてもあんまりな内容でしたが、もしかすると前日に見た神様の像があまりにもインパクトが強かったので、その影響でヘンな夢を見たという可能性も……、
「って、痛ぁ――――っ!?」
早朝にも関わらず、両足を襲う筋肉痛に思わず悲鳴を上げてしまいました。
原因には心当たりがありすぎます。
魔法なしの素の状態でのスクワット二百回。
夢の中での筋力トレーニングが現実に反映されるはずもありませんし、やはりアレは現実の出来事だったのでしょう。おかげで太腿やお尻の筋肉がパンパンに張っていますし、筋肉痛の度合いもハンパじゃありません。
それにしても、結構大きな声を出したと思いましたが、ミアちゃんはまるで起きる素振りがありません。きっと眠りが深いタイプなのでしょう。起こさずに済んで良かったです。
「そ、そうです。こういう時は魔法を」
前にも似たような状況がありましたが、その時は魔法でマッチョになることで痛みを軽減できました。筋肉強化の魔法には副次的な鎮痛効果もあるのです。
新陳代謝も上がるのでダメージの回復効果も期待できますし、今から朝食頃までマッチョ状態でいればどうにかマトモに動けるくらいにはなるでしょう。
「っと、その前に服を脱ぎませんと」
魔法で体格が増大したら、一部の専用の衣装以外だとビリビリに破れてしまいます。
正直、あちこち痛くて服を脱ぐのも億劫なのですが、今着ているのは借り物のお高そうなパジャマなので私の都合で破損させるワケにもいきません。
なるべく静かにベッドから抜け出して服を脱ぎ、着替えは……暗い中で探すのは大変ですし裸のままでいいですかね。大きいタオルかシーツでも羽織っておけば充分でしょう。
他人様の部屋で裸同然でいると考えると少々恥ずかしいですが、どうせ魔法を使ってる時は自分の身体って気があまりしませんし。
少しでも早く痛みを止めるべく、ポイポイとパジャマも下着も脱ぎ捨てて、さあ呪文を唱えるか……というところで、やっと自分の身体の異変に気が付きました。
部屋が薄暗いのではっきりとは見えないのですが、手足やお腹の表面に何やら赤黒い模様が浮かんでいます。ボディペイントや刺青とはっきり違うのは、それらの模様が肌の上をウネウネ動いている点でしょう。明らかに自然現象ではありません。
「な――――」
「リ、リコちゃん大丈夫!? なにそれ!?」
私が声を上げる前に、突然跳ね起きてきたミアちゃんが勢いよく駆け寄ってきました。
さっきまで寝ていたはずですが、一体いつから起きて……まあ、恐らくは偶々このタイミングで目が覚めたんでしょう。
まさか良い子の彼女に限って、寝たフリをしながら私の寝顔だの服を脱ぐところなんぞを眺めていたはずも無し。わざわざ、そんなマネをする理由もありませんし、タイミングに関してはただの偶然ですね。
「やあやあ、おはようございます」
「あ、おはよう……じゃなくて、大丈夫なの、ソレ?」
私も異常事態に狼狽しかけていましたが、幸いというべきか、すぐ近くにもっと慌てている人がいたおかげで幾分冷静な頭を取り戻せました。
カーテンを開けて部屋を明るくしてから改めて観察してみると、体表の文字は完全なランダムではなく規則性を持って動いているようです。痛みや違和感もありません。スクワットの影響で下半身が痛いのは、今は特に関係ないでしょう。
で、その肝心な現象の正体はと言いますと、親切にも全部書いてありました。しかも日本語の平仮名表記。私の視線の中心に合わせてバラバラの平仮名が移動し、文章を形作るという具合です。
まあ、他に心当たりもありませんし、読む前から想像はついていましたけどね。
「ねえ、その模様ってなに?」
「これは、そうですねぇ……しいて言えば、メールか伝言板ってところみたいですよ」
「?」
例の神様は「詳細は追って連絡する」と言っていましたが、これがその手段なのでしょう。
宗教的には聖痕だとかいう大層ありがたい現象なのかもしれませんが、人の身体に無断でラクガキをするのはやめて欲しいものです。まあ、あの神様に何を言っても無駄でしょうが。
……石鹸で落ちますかね、コレ?
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