効率的な……?
なにやら命を狙われているらしいポチ子さんを助けることになってしまいました。
まあ、赤の他人ならともかく知り合いですし、それ自体に異存はないのですが。
「そもそも、なんでポチ子さんってこの街にいるんでしょうかね?」
これまでに聞いた諸々の情報からすると、命を狙ってる犯人達は獣人国とやらの、ある意味では彼女の身内にあたる相手なのでしょう。
わざわざ外国まで来て暗殺計画なんてやるからには、普段は警備が厳重で近付けないとか……あるいは、こっちの人間側の国の人に濡れ衣を着せようとしてるとかですかね。まあ、ただの思い付きなので特に根拠はありません。
でも、誰かに狙われかねない状況なら、下手に安全地帯を出なければいいと思うのです。お姫様ってことは普段はお城なり豪邸なりに住んでいて、警備もしっかりしているのでしょう。
それなのに、わざわざ危険を承知で人間の国まで来ているということは、何かしらの理由があると思うのですが。
「あ、それは多分調印式の為だと思うよ」
「ほほう、調印式。例の『戦争』絡みですか?」
「うん、最近お父様達がいないのも、その警備の準備をしてるからなんだって」
調印式。
答えを期待していたワケではなかったのですが、ミアちゃんの口から聞き慣れない言葉が出てきました。
この世界の戦争はやけに平和的というか牧歌的というか、国家間で揉めた場合はオリンピック的な運動競技で勝負して、その結果を元に方針を決めるそうで。地球のオリンピックでも各国の首脳が開催国を訪れて開会式で挨拶だのスピーチだのをしてますし、この世界にも似たような風習があるのでしょう。
それならば、社会的地位の高いであろうポチ子さんが来なければならなかった点にも一応の説明が付きます。偉い人っていうのも何かと面倒臭くて大変ですね。
「でも、どこまで守ればいいんでしょうね?」
「どこまで? ……あ、そうか」
「ええ、『守る』の定義が不明瞭だと困ります。こっちにも予定ってものがありますし」
私もいつまでもこっちの世界にはいられませんし、ポチ子さんが天寿を全うするまで何十年もボディーガードを務めるのは現実的に考えて不可能です。
「せめて、期限くらいは分からないと……おや?」
そんな呟きをどこからか見守っていたのでしょう。手の甲に何やら文字が浮かび上がってきました。神様が疑問に答えてくれたようです。
「ふむふむ……『今日から十日後の深夜零時まで守り切るか、姫が五体満足で国に戻る』……なるほど、これくらいなら現実的ですね。ご親切にどうもありがとうございます」
神様からの返事はありませんが、どうせ今も見ているのでしょう。
プライバシーも何もあったものではないですが、あの神様に苦情を言っても聞き入れられる気がしません。さっさと依頼を果たしてお役御免になることを考えたほうが建設的というものです。
◆◆◆
「そういえば、全然疑わないんですね」
「疑うってなにを?」
「いや、神様がどうとか。普通、朝起きていきなりそんな事を言い出したら頭の病気を疑うところですよ?」
「そうかなぁ?」
私としてはありがたいんですが、ミアちゃんはこれまでの話を完全に信じ切っているようです。
「それで、リコちゃん。わたしは何をすればいいの?」
「ええと……ポチ子さんの居場所も分かりませんし、まずは情報収集と、それから暗殺者の裏をかくような作戦を立てないとですね」
しかも、既に手伝ってくれる気のようです。
ここまで来ると、良い子すぎてちょっと心配になってきますね。
「あ、そうだ! 良い作戦を思いついたんだけど聞いてくれる」
「早速ですか。やけに早いですね」
まあ、それでもお嬢様として教育を受けているせいか、基本的な頭の回転は良いのでしょう。私が何か思いつくより先にアイデアを閃いたようです。実際に採用するかはさておき、この世界に知人の少ない私にとって頼もしい存在には間違いありません。
「それでどんなアイデアなんです?」
「えっとね、要はポティーナさんが無事に帰れたらいいんだよね?」
「まあ、神様的にはそれでいいらしいですけど」
「うん、だからね。わたし達が暗殺者の人達より先にポティーナさんを攫って、そのまま国境の向こうまで運んじゃえばいいんじゃないかなー、って」
「…………ぉう」
……いや、まあ、効率的といえばそうなんでしょうけど。
発想が怖いっ!?
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