神様
なんと、ビックリ。
この世界は球体ではなく平面(正確には甘食を更に平べったくしたような形のなだらかな円錐形)で、それをマッチョな神様が物理的に支えていたのです。
古い時代のヨーロッパでも地球平面説が広く信じられていたそうですが、それとはワケが違います。何しろ、実際この世界の端まで行ったらそこから先には何も無いというのが、実際に人の目で確認されているそうで。
となると、例のガリレオさんが異を唱えてエラいことになった天動説も、この世界では正しいことになるんでしょうか。夜になると月や星が見えますが、あれってどうなっているのでしょうね?
そして、神像が支える世界のミニチュアをよく見て、気付いたことがもう一つありました。
「ヘイ、ガール。つかぬ事を伺いますが『海』って知ってます?」
「え? ううん、聞いたことないけど」
ミアちゃんにも聞いてみたので間違いないでしょう。
この世界にも河川や湖などはありますが、地球では面積の七割を占める海が最初から存在しないのです。まあ、液体は持てませんし筋トレ用具として使うなら大地だけのほうが便利なのでしょう。
水は各地の水源から無限に湧き出て、最終的に世界の外に流れ落ちていくようですが、質量保存の法則とかどうなってるんでしょう。
ああ、いえ、そもそもの世界が違うんですから、そのあたりの地球の物理法則がそのまま当てはまるとは限らないですね。パッと見は地球との共通点も多いのでついアチラでの常識で考えてしまいがちですが、この分だと根本的な部分での認識のズレは案外多そうです。
まあ、だからどうだこうだという話ではありません。
私個人の生存や帰還に差し障るような類の齟齬ではなさそうですし、ならばそれらの新情報も異世界観光をする上での、ちょっとしたサプライズくらいに考えておけばいいでしょう。
当初の予定通りに巨大な神像をカメラで撮影することにしました。
「では、神様と並んで一枚。ミアちゃんも隣にどうぞ」
「う、うん……いいのかなぁ?」
聖堂内には人もいましたが、元々管理はさほど厳しくないようです。
撮影をしていても特に何か言われたりはしませんでした。
「それにしても、神様ときましたか……」
フィクションなどではよく黒幕やラスボスとして登場する存在です。もしくは逆に正義側の主人公を導くという名目で面倒事を押し付けたりする善玉の親分として登場するパターンもありますね。
まあ、聞いた話だと筋肉と鍛錬以外には興味がなさそうな神様のようですし、私が関わりあいになる可能性は低そうですが、なるべく敵対フラグなど立てないようにしたいものです。
だって、見た目からしても超強そうなんですもの。
もし、あんなのと出会ったら速攻で土下座して詫び入れますよ。
◆◆◆
「……はて?」
その晩、夢の中……だと思います。
気付いたら私は他に何もない真っ白な空間に立っていました。
これが漫画なら背景を描くのが楽そうです。
「これは、もしかすると明晰夢というものですかね?」
明晰夢とは、夢を夢だと自覚できている状態だそうで。うろ覚えの知識ですが、体質や努力次第では狙ってこの状態を作り出すことも出来るとか。
なにしろ夢の中なので、イメージ次第で何もかも思い通りになるはずです。
この世界では私は神にも等しい存在。
身体が目覚めるまでの短い時間ですが、精々楽しんでやりましょう……と、思ったところで背後に重厚感溢れ過ぎる気配を感じました。
『……異界の者よ……我はこの世界の神である……』
「すいませんでしたーっ! 何でもしますから命だけはお助けくださいっ!」
まだ具体的な用件は何も聞いていませんが、とりあえず振り向き様に土下座を決めてみました。ははは、卑屈と笑いたければ笑うがいいですよ。
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