大聖堂
朝の散歩……本当にあれが散歩なのかというと疑問は多々ありますがそれはさておき、ご近所を一周して散歩らしき行動を終えた私は、お屋敷に戻って朝食を頂いていました。
「リコちゃん、今朝はよく食べるねぇ」
「ええ。あ、すみませんがパンとベーコンのお代わりをお願いします」
朝から運動をしたせいでお腹が空いており、普段以上にご飯が美味しく感じます。
こんなに健康的な生活を毎日続けていたら、半ば諦めの境地にある背丈も伸びるかもしれませんね。せめて、あと10cmくらいあれば何かと便利に……いや、それなら日本にいる時も普段から早寝早起きの規則正しい生活を心がけろという話なのですが。我ながら意思薄弱なものでして、こんな風に環境自体が激変しないと惰性でダラダラ暮らしてしまうのですよ。
魔法を使えば一時的に体格は大きくなりますが、まさか人前で使うわけにもいきませんし、普通の服だと一発で破れてしまうしで、どうにも使い勝手が悪いのですよね。5cmだけとか10cmだけみたいに細かな調整ができれば便利だったんでしょうけれど。
「リコちゃん、それで今日は何して遊ぼうか?」
「そうですねぇ、この街って何か観光名所みたいなのはないんですか?」
質問に質問で返してもミアちゃんは気を悪くしたりはせず、可愛らしく小首を傾げて考え始めました。土地勘がない場所での選択は地元の方に委ねるに限ります。
あえて予備知識のない状態で勘だけを頼りに行き先を決めるのもそれはそれで面白そうですが、一人旅ならまだしも同行者がいる場合は安牌を掴むのが確実でしょう。
「うーん、観光名所とはちょっと違うかもしれないけど、この街の大聖堂とかどうかな? 神様の像とかステンドグラスとか綺麗だよ?」
「ほほう、なかなか渋いチョイスですね」
若いのに渋い選択ですが、聖堂というのは悪くありません。
昨日消耗したスマホのバッテリーも手回し充電で多少回復していますし、神像やステンドグラスなども是非とも写真に残しておきたいものです。
地球の観光名所では撮影禁止の場所もありますが、この世界ならそういう堅苦しいことを言う人もいないでしょうし、こっそり撮らせてもらう分には何をしているかも分からないでしょう。
◆◆◆
「おお、これは素晴らしい」
というワケで、朝食の後に早速大聖堂とやらにやって来ました。
ちなみに今日はミアちゃんと二人だけ。
一応誘ってみましたが、クロエさんはカトリーヌのブラッシングで忙しいそうです。
まだ建物の外にいるのですが、この時点で既に荘厳さが溢れ出しているかのよう。ミアちゃんオススメのステンドグラスに外壁を飾る石像、柱の一本一本まで精緻な細工が入っていました。
ギリシャのパルテノン神殿にルネサンス期の教会建築を無理矢理混ぜたかのような印象を受けます。まあ、別に建築史に明るいわけではないので、あくまでも素人の適当な感想ですが。
ちなみに本命の神像は聖堂内にあり、外に飾ってあるのは歴史上の聖人達だそうです。
男女問わず全員が筋骨逞しいマッチョな点にはツッコミません。これまでの流れから予想できましたし。
「じゃあ、そろそろ中に入ろうか」
「ええ、そうですね」
街の人の冠婚葬祭などの儀式にも使われる場所だそうですが、幸い今日はその手のイベントが入っていなかったようで、近くにいた聖職者風の方に見学したいと言ったらすんなり入れました。
私の背丈の倍くらいはありそうな大きな扉を開けて、まず最初に目についたのは、
「……キノコの像?」
聖堂の最奥、一番目立つ場所に何やら歪な形をしたキノコらしき像が鎮座していました。薄暗いせいで遠目だと大まかなシルエットしか見えませんが。
ああ、キノコといっても卑猥な形状の比喩表現とかではありませんよ、念の為。
シイタケを思わせるような、開いたカサと軸を組み合わせた形の石像です。
状況を考えれば、恐らくあの像が神像とやらなのでしょう。
この世界の神様は(実在するか否かはさておいて)キノコの姿をしているのでしょうか?
「ち、違うよ!? 神様はキノコじゃな……あれ、言われてみれば似てるね?」
否定なのか肯定なのか分かり難いツッコミを受け流しつつ、私はその石像に近付いてみました。
近くでよく見てみると、キノコ型のシルエットの正体が見えてきます。
キノコの軸に見えていた部分が恐らく神様、これまでに見てきた他のマッチョとは一線を画す超マッチョなヒゲの老人。その神様がキノコのカサ部分に見えた円錐状の何かを担ぎ上げている姿がこの像の全貌のようです。
神様が筋トレしてる姿のように見えますが、カサ部分から落ちる影が照明の光を遮っていたせいで、下の神様部分が見えにくくなっていたのでしょう。
「この神様……の持ってるのって何なんです?」
「これ? えっと、これはね」
……と言うとミアちゃんは視線を聖堂の床に、いえ我々が立つ大地へと向けました。
あ、これはもしかしてそういう事ですか?
「これはね、神様がこの世界を支えてる姿なの。世界を創った時からずっと持ち上げて鍛えてるんだって」
この世界そのものが神様専用の筋トレ器具だったとは……なんともスケールの大きな話です。
きっと、人々の過剰なまでの筋肉嗜好もその神様の影響なんでしょう。
なんというか、趣味に走りすぎじゃないですかね、神様?
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