女子会の約束
「女子会をしましょう」
夕食後、ミアちゃんとついでにクロエさんにそんな提案をしてみました。
「「じょしかい?」」
「ええ、この時間からならパジャマパーティーと洒落込んでもいいですね。親睦を深めるために三人でベッドの中で盛り上がろうではありませんか」
もう夜も遅いですし、たまにはそういうのも悪くありません。
軽くつまめるお菓子とか飲み物を用意して、ベッドの上で色々お喋りをしたりするのです。
ミアちゃんのベッドは三人一緒でも余りそうなほどの大きさがあったはずですし、多分問題ないでしょう……と、思ったのですが。
「ベ、ベッドで盛り上がる!? しかも三人で!? リコちゃん、わたしは最初は二人のほうがいいんだけど……ううん、でもどうしてもっていうなら……!」
おや?
どういうわけかミアちゃんは抵抗があるようです。
考えてみれば彼女は貴族のお嬢様ですし、そういうお行儀の悪いことには抵抗感が強いのかもしれませんね。
「別に無理しなくてもいいんですよ? 親睦を深めるのは昼間でもいいですし、そうですね例えば街を散歩でもしながらとかでも。あ、前に連れていって貰ったパンケーキが美味しいお店ではどうでしょうかね?」
提案はしましたが、私もそこまでパジャマパーティーに執着しているワケではありません。
まだ日の高い時間に街を散策して、お茶とお菓子を頂きながらお喋りをするのでも構わないかと思ったのですが、
「だ、ダメだよ!? いくらなんでも外でするのはレベルが高すぎるよ! 人に見られちゃうだろうし……お店の人にも迷惑だろうし……」
出会った頃よりも人見知りが治ってきたように思っていましたが、そうでもないのでしょうか?
さっき帰って来る時も普通に街中を歩いていましたが……私が一緒だったからとか、魔法を使って気が大きくなっていたから、とかですかね?
それはまあ、たしかに外で散歩をすれば誰かしらに見られるでしょうけど、そのくらいは問題ないように思うのですが。
そこまで人見知りが激しいと将来苦労しそうです。
友人のためにも、ここは心を鬼にして厳しく接するべきでしょう。
「大丈夫です、ミアちゃん。人に見られるからこそいいのです!」
「……そ、そうなの?」
「ええ、要は心の持ちようです。やがては、人混みの中でも平然と出来るくらいになるくらいでないと、立派な大人になれませんよ」
「えっ!? そ、そうなの!?」
今はまだ未成年ですが、ミアちゃんも大人になれば貴族令嬢として人々の注目を集める立場になるのでしょう。
いえ、この世界の社交界がどうとかって知りませんけど、イメージ的に。
まあ、人混みの中でも堂々と振舞う程度のことは出来ておいて損はないでしょう。
「ええ、むしろ周りに見せ付けるくらいでないと」
「見せ付けるの!?」
「逆にそのくらい堂々としていたほうが恥ずかしくないものなのですよ。変に恥ずかしがっているからダメなのです」
「言われてみれば……なんだか、そんな気もしてきたかも……」
おお、どうやら彼女にも分かってもらえたようです。
「まだ恥ずかしいけど……わたしも思い切って頑張ってみるよ!」
「ええ、一緒に頑張りましょう!」
「……リコちゃん、優しくしてね?」
「ん? ええ、それはもちろん」
「優しくして」とは友人同士の会話ではあまり使わない言葉ですが、この世界ならではの言い回しでしょうか?
謎の古代パワーで言葉は自動的に翻訳されるのですが、こういう細かい部分で知らず知らずのうちに齟齬が生まれたりしそうですね。まあ、今すぐ急いで考えるほどの問題ではなさそうですけど。
「ねえねえ、二人とも」
「おや、どうしました、クロエさん?」
彼女なりに私達の邪魔をしないように黙っていたクロエさんが、何やら質問をしてきました。
「さっきから二人で話してたけど、ボクも一緒に行っていいのかな?」
「ええ、それはもちろん。ミアちゃんもいいですよね?」
「う、うん……この際、思い切ってクロエちゃんも一緒に、ね?」
元々は彼女も女子会に誘ったわけですし、私に否はありません。
まあ、お金を出すのはミアちゃんなので彼女がノーと言ったらダメだったのですが、こうして快く了承してくれました。持つべきものはお金持ちの友人ですね。
「そっか、良かった! 楽しみだね、パンケーキ!」
「ええ、楽しみですね、パンケーキ」
「うん、楽しみだね、パ…………え?」
はて、どうかしたのでしょうか?
ミアちゃんは突如目を見開き、
「あ、あれ? あ…………っ!」
何かに気付いたような叫びを上げました。
基本おとなしめの彼女が叫ぶなんて珍しいですが、何かあったのでしょうか?
「って、何してるんですか!?」
「ミア、それ痛くないの?」
何故か、ミアちゃんが突如壁にガンガンと頭を打ちつけ始めました。
いったい、何がどうしたというのでしょう?
魔法を使っていない状態でそんなことをしたら怪我をしてしまいます。見ているこっちまで痛くなりそうです。
「う、ううん、なんでもないの、ちょっと反省……じゃなくて頭突きの練習を……」
「はあ、そうなんですか? あんまり無理をしちゃいけませんよ」
幸い、後ろから羽交い絞めにしたら止まってくれましたが、白いおでこが赤くなっています。血は出ていないですし、跡は残らないでしょうけれど。
まあ、友人の奇行には少々驚きましたが、何はともあれ明日が楽しみです。
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