マシーリア邸リターンズ


 マッスルの街に辿り着いてから歩くことしばし、ようやくミアちゃんの家に到着した私は懐かしい顔を見かけました。



「おや、そこにいるのはカトリーヌではないですか?」


「うん、前に帰ってきた後でうちで引き取ったの」



 以前に数日の冒険を共にした仲間である乳牛のカトリーヌが、お屋敷の庭先でもっしゃもっしゃと飼い葉を食べていたのです。よく見れば庭の隅にはまだ新しい牛舎まであります。

 いくら庭が広いとはいえ、乳牛をポンと買い取ってペットにするとは、お金持ちの発想は凄まじいですね。



「おお、よしよし。私ですよ、覚えています……がはっ!?」



 うっかり不用意に近付いたら頭突きを喰らって吹っ飛ばされました。

 いえ、恐らくカトリーヌ的には軽くじゃれついただけのつもりなんでしょうが、魔法非使用時の貧弱なボディにはだいぶ堪えましたよ……!







 ◆◆◆







「ふう、さっぱりしました」


 庭先での一幕はさておき、悶絶状態から回復した私と、大量の豚肉を置いてようやく魔法を解いたミアちゃんは夕食前に一風呂浴びて着替えを済ませました。

 途中から感覚が麻痺していましたが、二人とも豚の血で全身赤く染まっているというホラーテイストな格好だったので、生き返った気分です。



「リコちゃん、服のサイズ大丈夫かな?」


「少し大きめですけど大丈夫ですよ」



 そして例によって私の服はミアちゃんからの借り物です。私の趣味ではないフリフリの可愛い系ですが、もちろん文句などあろうはずがありません。


 それにしても、以前は私とほぼ同サイズだったのですが、地球とこちらの時間差のせいか、あるいは成長期だからか、彼女の体格は私よりも少し大きくなっているようです。

 主に胸部とか。

 さっき、お風呂場でガン見して確認したので間違いありません。

 いやぁ、セクハラが捗りますね!




「そうそう、お家の方にもご挨拶をしなければいけませんね」


 本来ならば一風呂浴びる前に言うべきかもしれませんが、ミアちゃんのご両親やお兄さんにも挨拶しておくべきでしょう……と思ったのですが。



「それが、最近お父様たち戦争の準備が忙しくてあんまり家にいないんだ。お義姉さんもお兄様がいない時は実家に戻ってるし」



 ……だ、そうで。

 まあ、魔法使いが主役のイベントが迫っているのですから仕方ありません。まだ未成年のミアちゃんはともかく、大人の方々は色々あるのでしょう。

 あ、そういえば街までの道中でも聞いていたんですが、ミアちゃんのお兄さんのロビンさんは例の、ええと、あの……ちょっと名前が出てこないんですが、あの「くっころ」さんと無事に結婚したのだそうです。新婚早々、旦那さんが多忙で中々会えないとか下手したら家庭崩壊フラグですが、そこは愛の力で乗り切ってもらいましょう。






「まあ、居ないものは仕方ありませんね。とりあえずは気持ちを切り替えてご飯にしましょう」


 どうも今回はしばらく滞在することになりそうですし、別に慌てることもないでしょう。

 そんな事より今はご飯です。

 神殿から街まで長時間歩いたせいで私はお腹が空いているのです。

 レースの前に愛飲するマラソンランナーがいるほどのエネルギー効率の高さで知られるコーラを飲んでいなければ、街に辿り着く前に力尽きていたかもしれません。


 そんなワケで、着替えを済ませた私達は食堂に向かい、



「あ、ミアお帰りー。あれ、そっちの子は……誰だっけ?」



 このお屋敷にて絶賛保護観察処分中のクロエさんと再会しました。


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